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2019年10月より消費税が8%→10%へとアップしましたが、食料品以外に新聞だけが軽減税率の対象となっているのをご存知でしょうか?
そもそも軽減税率は生活必需品に適用し、低所得者の負担を減らす目的で導入されるものです。
軽減税率の対象品目
参考文献:国税庁ホームページ
1. 酒類・外食を除く飲食料品
2. 週2回以上発行される新聞(定期購読契約に基づくもの)
生活のために欠かせない食料品の購入と並び、新聞の定期購読が対象となることに違和感を覚える方も少なくないでしょう。
そこでヨーロッパ諸国での新聞の扱いや日本で適用された経緯、軽減税率の定義にふれながら仕組みを分かりやすく説明します。
また大手企業の経理部隊として5年間の経験がある筆者が、新聞販売店の消費税負担についても解説、消費税負担のカラクリを紐解きます。
早速この記事を読んで複雑な軽減税率と新聞の関係を理解しましょう!
新聞が軽減税率の対象になった3つの理由
じつは20%を超える付加価値税が導入されるEU諸国のほとんどで、新聞は軽減税率の対象となっています。
先進国の知識に対する考え方、日本の新聞業界の素早い対応など導入の背景にある3つの理由を解説します。
1. ニュースや知識を得る負担を減らすため
一般社団法人 日本新聞協会は「活字文化の維持・普及にとって軽減税率は不可欠」との強い意志表明を示しています。
同協会によると「新聞などの出版物は思索を深める食料・栄養源である」という欧州各国の考え方をベースに、活字文化は単なる消費ではないと結論付けているのです。
さまざまな知識を得られる新聞購買の負担を減らすことは、国民の生活に必要不可欠ということなのでしょう。
2. EU加盟国26か国で新聞は軽減税率の対象である
20%以上の付加価値税が導入される国も珍しくないEU諸国では、28加盟国中26の国が新聞に軽減税率を適用しています。(2019.10.3現在)
国名 | 標準の税率 | 新聞の税率 |
イギリス | 20% | 0% |
デンマーク | 25% | 0% |
ベルギー | 21% | 0% |
フランス | 20% | 2.1% |
ドイツ | 19% | 7% |
スウェーデン | 25% | 6% |
参考文献:日本新聞協会資料
このように新聞の税率は0%の国も存在するほど、ヨーロッパ諸国では知識を得る行為を大切にしているのです。
3. 2013年から日本新聞協会は政府に軽減税率を訴えていた
日本新聞協会は2013年に「軽減税率を求める声明」を発表、同時に新聞への軽減税率の重要性を訴えるホームページを開設しています。
参考サイト:「聞いてください!新聞への消費税軽減税率運用のこと」
くわえて政治に働きかけるロビー活動もおこない、早期から積極的に動いていた経緯があります。
さらに全国紙や地方紙合わせた労働組合員約2万人が加入する新聞労連も「知識の課税強化に反対する」という内容の声明を発表しているのです。
参考サイト:日本新聞労働組合連合
さまざまな意見はありますが、こうした労使一体となった働きかけも、新聞が軽減税率の対象になった背景にあるのではないでしょうか。
新聞に適用された軽減税率とは?定義や目的を解説
軽減税率の定義とは生活必需品の税負担を軽くし、低所得者を保護することにあります。
言い換えると、生きていくうえで必要不可欠なものは対象となり、なくても困らない嗜好品は対象外ということです。
そもそも軽減税率とは、「低所得者の負担を減らすための政策」
収入に対する食費の割合(エンゲル係数)は、低所得者ほど高くなる傾向にあるため、その負担を少しでも減らそうというのが軽減税率の趣旨です。
同様に所得が少ないほど新聞購読代の割合も大きくなるので、負担を少なく幅広い知識を得られるようにとの配慮がされているといえます。
お金持ちもそうでない人も、平等に支払う費用は税金を安くしましょうというのが軽減税率の定義なのです。
軽減税率については下記記事でも詳しく説明しております。
軽減税率のデメリットとは?高所得者ほど得になるとの批判も
経済学者のなかには「軽減税率では低所得者は有利にならない」との理由で軽減税率に反対する方も存在します。
- 累進性=所得税のように高所得者ほど税率が高くなる方式
- 逆進性=所得に関係なく徴収できるが低所得者ほど負担が大きくなる
税金には上記の2種類があり、消費税は2つ目の逆進性があるとされています。
エンゲル係数はあくまでも収入に対する食費の割合なので、所得自体の多い高所得者の方が支払額が大きくなるのです。
結局、食費を多く支払う高所得者の受ける恩恵が大きいため、低所得者の保護にはつながらないという批判もあります。
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軽減税率の対象となる新聞の条件・適応範囲・除外条件は?
どんな新聞でも軽減税率の対象になるわけではなく、週に2回以上の定期購読の新聞のみが適用になります。
適用になる条件と適用対象外の新聞の違いを解説します。
対象条件1. 1週間に2回以上の定期購入が必要
軽減税率の対象となる新聞は「週2回以上発行される新聞で定期購読契約に基づくもの」という決まりがあります。
内容は何でもいいわけではなく、政治や経済など一般的な社会的事実が掲載されていることが必須です。
また一般紙のほかスポーツ新聞や英字新聞、業界紙のような特殊な新聞でも、条件を満たせば軽減税率の対象となります。
通常は週2回発行なのに休刊日と重なり、週1回しか発行されなかった場合でも除外されることはありません。
対象条件2.1部売りは軽減税率の対象外
コンビニや駅で購入する1部売りの新聞は対象外となります。
継続的な定期購読の条件を満たせないため、通常通り10%の税率が適用されるのです。
さらに軽減税率の対象外である、1部売りの新聞だけを値上げする新聞社もあらわれました。
しかし大手新聞社のバラ売りは全体の数パーセントにとどまるため、売上に関する影響は少ないといえるでしょう。
対象条件3. 電子版は軽減税率の対象外
日本新聞協会は電子版新聞も含めるよう働きかけていますが、現状は対象外の扱いとなっています。
理由は軽減税率が適用されるためには「新聞の譲渡」が必要だからです。電子版は「電気通信利用役務の提供」に含まれるため、譲渡の定義には当てはまらないのです。
電子版と紙媒体の新聞のセット購入は、紙の新聞だけが軽減税率の適用をうけます。
新聞への軽減税率導入で変わる消費税負担
新聞の小売りを担う販売店は、軽減税率の導入により消費税負担が増えたり資金繰りに支障が出るケースがあります。
大手企業経理の経験がある筆者が、消費税負担の仕組みを分かりやすく解説します。
1. 課税業者は資金繰りが一時的に悪化
- 仕入れは10%が適用
- 販売は8%が適用
- 納税するまで一時的に資金繰りが悪化
消費税の課税業者は仕入時に10%の税を支払うにもかかわらず、販売時には8%しか回収できません。
この2%の差額は納税を通じて解消されることになりますが、数か月間の間は手元に現金が少なくなります。
2. 簡易課税事業者は負担増
- 新聞の販売分は8%が適用
- その他の売上は10%が適用
- 増えた消費税分にもみなし仕入れ率をかけるため負担が増える
課税売上額が5千万円以下の新聞販売店は、消費税の計算が簡単になる課税事業者制度を利用できます。
面倒な消費税計算の手間が省け、人手の足りない中小企業に便利な制度といわれますが、新聞以外の売上に適用される10%の消費税分が増加することになります。
新聞が約8割、その他の売上が約2割で年間売上額が5千万円弱の販売店の場合、負担する消費税は10万円以上増加する計算になります。
簡易課税事業者は消費税申告で調整ができないため、負担だけが増えることになるのです。
3. 免税業者は負担増
- 売上・仕入れともに消費税計算の必要がない
- よって消費税の申告・納税の義務はない
- 仕入れ分のプラス2%分が増加
課税売上高が1千万円以下の新聞販売店は、消費税の免税業者となります。
売上・仕入れともに消費税の計算や納入の必要はありませんが、仕入れで増えた2%分の消費税を負担する必要があります。
簡易課税事業者と同様に消費税の申告で調整ができないため、増税分の負担が増えるのです。
軽減税率に新聞が含まれるのは珍しくない!生活必需品とみなされるから
一見複雑そうに思える軽減税率ですが、生活に必要なものは据え置きされるというシンプルな構造となっています。
新聞は自宅で調理する食料品と同様に、知識を得るための生活必需品という扱いになるのです。
20%を超える付加価値税が導入される欧州各国でも、新聞の税率は低く抑えられている国が9割以上でした。
購入する部数や媒体により適用条件は変わりますが、毎朝ポストに新聞が入っているという方は、ほぼ軽減税率が適用されるでしょう。
新聞販売事業者にとっては負担が増える局面もありますが、経済や社会の動向を知ることができる新聞が安くなるメリットは私たちにとって大きいといえます。
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