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「見積書を作っておいて」と上司や取引先に言われ、書き方が分からず、どこから手をつければよいのか迷ったことはありませんか?見積書は単なる価格の提示ではなく、取引の信頼を築く重要な書類です。適切なフォーマットや記載内容を理解し、正確に作成することで、相手に好印象を与え、スムーズな契約につなげることができます。
本特集では、見積書の基本構成や作成方法、注意点までを詳しく解説し、未経験者でも迷わず対応できるようサポートします。さらに、作成後のフォローやインボイス制度との関連についても解説し、業務の効率化とスキルアップを目指します。見積書作成の不安を解消し、自信を持って取引に臨みましょう!
見積書とは?
見積書は、取引の最初の段階で発行される重要な書類であり、価格提示の役割だけでなく、交渉ツールや信用獲得の手段としても機能します。また、発注書や請求書とは異なる目的を持ち、取引の流れを円滑にするために欠かせない書類となります。
本章では、見積書の役割と発注書・請求書との違いを解説します。見積書の目的を正しく理解し適切な情報を記載することで、取引先との円滑な商談や契約の成立につなげることができます。
見積書の定義と役割
見積書とは、商品やサービスを提供する事業者が、購入を検討している相手(発注者)に対し、契約締結前に発行する書類です。この書類には、提供する商品やサービスの内容、数量、単価、合計金額、納期などの情報が記載されており、発注者は見積書の内容を確認することで、他社との比較や購入の検討を行います。
見積書は単なる価格提示の手段ではなく、商談を円滑に進めるための重要なツールです。発注者にとっては、コストを把握し、予算内で最適な取引先を選ぶための参考資料となります。一方、提供者にとっては、取引の条件を明確にし、適正な価格を提示することで、信頼関係を構築する役割を果たします。
発注書・請求書との違い
見積書とよく混同される書類に「発注書」や「請求書」がありますが、それぞれの役割は異なります。
発注書は、見積書の内容を確認した発注者が、正式に注文する際に発行する書類です。発注書には、注文する商品やサービスの詳細、数量、金額、納期、支払い条件などが明記されており、取引内容を確定させるためのものです。
一方、請求書は、商品やサービスの提供後に、代金の支払いを請求するための書類です。請求書には、見積書や発注書に基づいた最終的な金額と支払期限が記載され、支払いの根拠となる重要な書類です。
このように、見積書は取引の最初の段階で発行されるものであり、発注書や請求書とは異なる目的を持っています。
以下の記事では、見積書から領収書までビジネス文書発行の流れについて詳しく解説しているので参考にしてください。
見積書を作成する目的
見積書を作成する目的は主に三つあります。
一つ目は、取引のための交渉ツールとしての役割です。見積書に記載された金額や条件をもとに、発注者と提供者の間で価格交渉や契約条件の調整が行われます。特に、競争が激しい業界では、見積書の提示内容が契約獲得に大きな影響を与えることがあります。
二つ目は、納品や支払い時のトラブルを防ぐためです。見積書に明確な取引条件を記載しておくことで、後々の認識違いやトラブルを防ぎ、スムーズな取引を実現できます。例えば、見積書に記載された価格と請求書の金額が一致していれば、発注者側の経理処理もスムーズに進めることができます。
三つ目は、契約や信用を得るための手段です。特に新規取引の場合、見積書は企業の信頼性を示す資料となります。詳細な見積書を提示することで、取引先に対して誠実さや専門性をアピールし、契約に結びつけることができます。
見積書の基本的な構成と書き方
見積書は、取引の前段階で提示される重要な書類であり、適切に作成することで取引先との信頼関係を築くことができます。この章では、以下のサンプルをもとに見積書の基本的な構成や正しい記載方法について解説します。

見積書に必要な項目とその意味
見積書には、取引の内容を明確にするための項目が含まれます。まず、文書のタイトルとして「見積書」と明記し、発行者と受領者が一目でわかるようにします。次に、宛名(依頼者情報)と差出人情報を記載し、正式な取引文書であることを示します。
また、見積書には見積書番号や発行日を記載し、管理を容易にすることが重要です。特に、複数の取引先に対して異なる見積書を発行する場合、番号をつけることで混同を防ぐことができます。さらに、御見積金額として小計、消費税、合計金額を明記し、金額の内訳が明確になるようにしましょう。
商品やサービスの詳細についても、具体的に記載することが求められます。例えば、品名、数量、単価、金額を表形式で整理すると、取引先が内容を確認しやすくなります。また、見積書には備考欄を設け、特記事項や取引条件を記載することで、トラブルの防止につながります。
内訳や「一式」の正しい記載方法
見積書において、「一式」という表記は避けるのが基本です。なぜなら、詳細な内訳が記載されていないと、発注者側が内容を正しく理解できず、後々のトラブルの原因になるためです。たとえば、サービス業では「作業一式」ではなく、「設計費用:〇円」「施工費用:〇円」のように具体的に記載すると、取引先も納得しやすくなります。
しかし、どうしても「一式」という表記を使わざるを得ない場合もあります。その際は、別紙で詳細な内訳を添付し、取引先に対して説明責任を果たすようにしましょう。たとえば、「一式(詳細は別紙参照)」と記載し、納品物や作業内容のリストを別途提供することで、誤解を防ぐことができます。
見積書作成時に考慮すべき条件
見積書の作成時には、ヒューマンエラーに十分注意する必要があります。たとえば、単価や数量の入力ミス、消費税の計算誤り、宛名の誤記などが発生すると、取引先からの信頼を損なう可能性があります。そのため、ダブルチェックを行い、誤りがないか慎重に確認しましょう。
また、見積書の管理体制を整えることも重要です。適切なフォーマットを用意し、見積書の発行・修正履歴を管理することで、トラブルを未然に防ぐことができます。特に、複数の見積書を扱う場合、Excelや見積書作成ソフトを活用して、バージョン管理を徹底するとよいでしょう。
このように、見積書の構成や記載内容に注意を払いながら作成することで、取引のスムーズな進行につながります。次章では、見積書を作成する具体的な方法について詳しく解説します。
見積書を作成する方法
見積書を作成する方法には、手書き、ExcelやWordの活用、見積書作成ソフトやオンラインツールの利用など、さまざまな手段があります。それぞれの方法にはメリットとデメリットがあり、業務の特性や作成頻度によって適した手段を選ぶことが重要です。
手書きで作成する方法
手書きの見積書は、即座に作成でき、温かみのある印象を与えられる点が特徴です。特に、少量の見積書を作成する場合や、対面でのやり取りが多い業種では、手書きの見積書が重宝されることもあります。
しかし、手書きでの作成にはいくつかの課題もあります。まず、作成に時間がかかるため、業務の効率が低下する可能性があります。また、計算ミスや記入ミスが発生しやすく、修正が手間になることもあります。さらに、見積書を管理・保管する際に、電子データと異なり検索や共有が難しいため、適切な管理体制が求められます。
ExcelやWordを使った作成方法
ExcelやWordを活用した見積書作成は、多くの企業や個人事業主にとって一般的な方法です。表計算ソフトのExcelを使用すれば、数式を活用して計算を自動化でき、ミスを減らすことが可能です。また、Wordを使用すれば、見積書のデザインやレイアウトを自由に調整し、フォーマルな印象を与えることができます。
さらに、多くのサイトで見積書のテンプレートが提供されており、それをダウンロードして使用することで、フォーマットを一から作成する手間を省けます。テンプレートを活用することで、統一感のある見積書を作成し、顧客にプロフェッショナルな印象を与えられるでしょう。
ただし、ExcelやWordを使用する場合、ファイルの管理や更新が煩雑になりがちです。複数の見積書を作成・管理する際には、ファイル名の付け方や保存場所を統一し、見積書の検索や再利用をしやすくする工夫が必要です。
以下の記事では、ペーパーレス化のメリット・デメリットについて詳しく解説しているので参考にしてください。
見積書作成ソフトやオンラインツールを活用する方法
見積書作成ソフトやオンラインツールは、見積書作成に特化した機能を備えており、効率的に作成できる点が大きな魅力です。これらのツールを利用すれば、見積書をワンクリックで送信したり、顧客データを一元管理したりできるため、特に見積書の発行頻度が高い企業に適しています。
例えば、クラウド型の見積書作成ツールを利用すれば、インターネット環境があればどこからでもアクセスでき、複数の担当者でデータを共有することも可能です。また、自動計算機能が搭載されているため、金額の計算ミスを防ぐことができ、業務の精度が向上します。
さらに、一部の見積書作成ソフトには、見積書を請求書に変換する機能が備わっているものもあり、見積から請求までの流れをスムーズに管理できます。このようなツールを導入することで、作業時間を短縮し、業務の効率化を図ることができます。
見積書を作成する際のポイントと注意点
見積書は、取引先との信頼関係を築き、スムーズな取引を実現するための重要な書類です。正確かつ分かりやすい見積書を作成することで、トラブルを防ぎ、受注につなげることができます。本章では、見積書作成時に押さえておくべきポイントと注意点について詳しく解説します。
納期や支払い条件の記載
見積書には、納期や支払い条件を明確に記載することが重要です。納期は、取引先が商品の受領やサービスの提供を計画する上で欠かせない情報であり、双方の認識を一致させる必要があります。
たとえば、納品が「発注後10営業日以内」となっている場合、「営業日」の定義が企業ごとに異なることがあるため、「土日祝日を除く」といった補足説明を加えると、より誤解を防ぐことができます。また、支払い条件についても「納品後30日以内の銀行振込」など、具体的な期日や支払い方法を明記すると、後のトラブルを回避しやすくなります。
有効期限の設定
見積書には必ず有効期限を設定しましょう。原材料の高騰や市場の変動によって、見積書発行時の金額で受注できなくなる可能性があるためです。特に、長期間が経過してからの発注では、当初の条件で対応することが難しくなることがあります。
民法上、有効期限を定めた見積書を発行した場合、発行者側からの一方的な撤回は原則として認められていません(民法第523条・524条)。したがって、有効期限を明確にし、例えば「見積書発行日より30日間有効」などと記載しておくことで、トラブルを未然に防ぐことができます。
正確な工数や金額の算出
見積書の信頼性を高めるためには、工数や金額の算出を正確に行うことが不可欠です。特に、受注を得るために無理な納期や工数で見積もることは、納品遅延や赤字受注につながるリスクがあるため注意が必要です。
例えば、ソフトウェア開発やコンサルティング業務の場合、実際にかかる作業時間を慎重に見積もり、適正な工数を算出することが重要です。製造業の場合も、材料費や人件費、設備費用などを適切に計上し、過不足のない価格設定を行うことが求められます。
また、見積書に「一式」と記載する場合には、取引先に内容を明確に伝える工夫が必要です。例えば、「開発費用 一式 100,000円」とするのではなく、「Webサイト制作(デザイン・コーディング・テスト含む)100,000円」と具体的な内訳を示すことで、誤解を防ぐことができます。
トラブルを防ぐための表記方法
見積書を作成する際には、金額の表記方法にも注意が必要です。特に、税込価格と税抜価格を明確に区別することが重要です。
例えば、以下のように記載すると分かりやすくなります。
適切な表記例
小計(税抜) | 100,000円 |
消費税(10%) | 10,000円 |
合計(税込) | 110,000円 |
このように記載することで、取引先が誤解することなく、正確な金額を把握できます。また、消費税率が変更された際にも、適切に対応しやすくなります。
見積書作成後の対応と流れ
見積書を作成した後は、取引先へ適切に送付することが重要です。送付手段には主にメール、郵送、FAXの3つがありますが、それぞれに注意すべきポイントがあります。
見積書送付の手段と手順
メールで送付する場合
現在では、メールでの送付が一般的です。メールの本文には、見積書を添付していることを明記し、ファイル名をわかりやすいものにすることが大切です。例えば「202502_○○株式会社_見積書.pdf」といったフォーマットにすることで、受け取る側が識別しやすくなります。また、添付ファイルの形式はPDFにすることで、改変を防ぎ、データの互換性を確保できます。
メール本文には、取引先への挨拶、見積書を添付した旨、見積内容の簡単な説明(特に重要な条件や期限)、問い合わせ先や対応可能な連絡方法などを記載しましょう。
郵送・FAXで送付する場合
一部の企業では、郵送やFAXでの見積書提出を求められることがあります。郵送する場合は、見積書を封筒に入れ、「見積書在中」と記載しておくと、受け取る側がすぐに内容を把握できます。送付前に取引先へ到着希望日を確認し、余裕を持った発送スケジュールを立てましょう。
FAXで送付する場合は、送信ミスを防ぐために送付前に宛先をしっかり確認し、送付後には受信確認を行うことが推奨されます。また、FAXの送信履歴を記録しておくことで、送付の証拠を残すことができます。
見積書送付後のフォローアップ
見積書を送付した後は、取引先が確実に受け取ったかを確認し、必要に応じてフォローアップを行います。
送付確認の連絡方法
メールで見積書を送付した場合、受領確認の返信がないこともあります。重要な案件の場合は、送付後1〜2営業日以内に電話やメールで「見積書はご確認いただけましたでしょうか?」と一言確認すると、スムーズな進行につながります。特に納期がタイトな場合や、大きな金額の見積もりである場合は、早めの確認が重要です。
返信がない場合の再連絡方法
送付後しばらく経っても返答がない場合は、再度連絡を入れます。ただし、相手の都合も考慮し、過度な催促にならないよう配慮が必要です。
まずは、初回送付後2〜3日後に確認メールを送りましょう。それでも返信がない場合は、電話で確認します。相手が不在の場合は、折り返しの依頼を伝えましょう。
また、見積書の有効期限がある場合は、期限が迫っていることを伝えることで、取引先の対応を促すことができます。
このように、見積書を適切に送付し、フォローアップを行うことで、取引先との信頼関係を築き、スムーズな受注につなげることができます。
見積書とインボイス制度の関係
2023年に施行されたインボイス制度は、請求書や領収書の発行・保存方法に大きな影響を与えました。しかし、見積書は適格請求書(インボイス)には該当せず、制度上の対応は不要です。
ただし、取引の透明性を確保するために、請求書や納品書との役割の違いを正しく理解しておくことが重要です。また、電子帳簿保存法に基づき、見積書の保存義務にも注意が必要です。本章では、見積書とインボイス制度の関係を整理し、適切な管理方法について解説します。
見積書と請求書の違いに基づくインボイス対応
見積書とインボイス(適格請求書)は異なる役割を持つ書類です。見積書は、取引前に提供される商品の価格やサービスの条件を提示するものであり、法律上の義務はありません。一方で、インボイス(適格請求書)は、消費税の仕入税額控除を受けるために必要な書類であり、取引完了後に発行されます。
そのため、見積書がインボイスとしての機能を果たすことはありません。インボイス制度では、請求書や納品書、領収書などが適格請求書として認められるため、見積書とは別にこれらの書類を適切に発行・管理する必要があります。
特に、インボイス制度の導入により、事業者は「適格請求書発行事業者」として登録し、適格請求書を発行する義務があります。見積書を作成する際は、取引後に発行する請求書などがインボイスの要件を満たすよう注意しなければなりません。具体的には、適格請求書には以下の項目を記載する必要があります。
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称、登録番号
- 取引年月日
- 取引の内容(軽減税率の対象である旨を含む)
- 税率ごとに区分した合計額および適用税率
- 消費税額
- 書類の発行者の氏名または名称
こうした情報を含む請求書を適切に発行しないと、取引先が仕入税額控除を受けられず、信用を損なう可能性があるため注意が必要です。
電子帳簿保存法との関連
見積書をはじめとする取引関連書類の管理には、電子帳簿保存法のルールも関係します。電子帳簿保存法は、国税関係帳簿書類の保存方法を電子データでの管理に適用する制度であり、適切に対応することで業務の効率化が図れます。
まず、見積書の保存期間については、法人の場合は7年間、個人事業主の場合は5年間の保存義務があります。これらの期間は、税務調査時に取引の証拠として求められる可能性があるため、確実に保管しなければなりません。
電子帳簿保存法に基づき、電子データで見積書を管理する際には、以下の要件を満たす必要があります。
- 見積書の真正性を担保するためのタイムスタンプの付与
- データの訂正・削除履歴の保存
- 取引先名や日付などで検索できる機能の確保
以下の記事では、電子帳簿保存法について詳しく解説しているので参考にしてください。
これらの要件を満たすためには、クラウド型の文書管理システムの活用が有効です。例えば、TOKIUM電子帳簿保存などのクラウドサービスを利用すると、電子帳簿保存法に準拠した形で文書を管理でき、業務効率の向上にもつながります。
電子帳簿保存法への対応は、見積書の管理だけでなく、請求書や領収書などの他の取引書類にも適用されるため、会社全体の文書管理体制を見直すことが重要です。適切な対応を行うことで、コンプライアンスを強化し、効率的な業務運営を実現することができます。
参考:No.5930 帳簿書類等の保存期間|国税庁
参考:記帳や帳簿等保存・青色申告|国税庁
参考:電子帳簿保存法一問一答|国税庁
まとめ
見積書は、取引の第一歩を踏み出す重要な書類です。正確な記載と分かりやすいフォーマットで作成することで、取引先に信頼感を与え、スムーズな契約につなげることができます。また、適切な管理やフォローアップを行うことで、取引の透明性が高まり、将来的なトラブルのリスクも軽減できます。
さらに、インボイス制度や電子帳簿保存法といった制度への対応も欠かせません。見積書そのものが適格請求書ではないものの、作成時に法令を意識しておくことで、後の請求処理がスムーズになります。
本特集を参考に、基本を押さえた見積書作成を習得し、業務の効率化やキャリアアップにつなげてください。見積書作成のスキルを磨くことで、より円滑な取引と信頼関係の構築が実現できるでしょう。