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企業が商品・サービスを依頼するにあたっては、発注書を依頼先(受注者)に対して発行するのが一般的です。発注書の発行は一部の例外を除き法的に義務付けられてはいませんが、発行した場合は電子帳簿保存法の要件に従い、保存する必要があります。そのような背景を考えると、電子帳簿保存法と発注書の関係を理解し、適切に処理することは業務を円滑に進めるために非常に重要です。
→ダウンロード:電子帳簿保存システム選び方ガイド【5社の比較表付き】
本記事では発注書の概要、電子帳簿保存法との関係を解説します。この記事をきっかけに、ぜひ一度自社の発注書の発行・保管体制に問題がないかを確認してみて下さい。
発注書とは
話を進めていくにあたって不可欠な知識として、発注書に関して、基本的な部分を解説します。特に「どのような書類か」「電子帳簿保存法との関係」の2点について詳しく解説するため、参考にして下さい。
発注書の概要
発注書とは、取引において、発注者となる企業が受注者となる企業に対して発行する書類を指します。つまり、商品やサービスの注文・依頼をした企業から、その依頼・注文を引き受けてくれる企業に対して交付する書類です。なお、発注書を「注文書」という場合もありますが、基本的には同じものと考えて構いません。
また、発注書を受け取った企業は、承諾の意思を示す書類として発注請書を発注者となる企業に交付します。つまり、発注書と発注請書がセットになって契約を成立させると考えましょう。
発注書は電子帳簿保存法対象の国税関係書類
発注書を発行した場合、電子帳簿保存法の規定にのっとり保存しなくてはいけません。電子帳簿保存法とは、決算関係書類や各種帳簿など、税務に関連する帳簿・書類を電子データで保存する際の管理方法を定めた法律です。
取引関係書類も税務に関連する帳簿・書類として扱われますが、この中には発注書も含まれます。そのため、電子帳簿保存法の規定に基づく形で発行・保存しなくてはいけないため注意して下さい。原則として、全ての法人と個人事業主が対象となるため、「取引における電子データがなく、紙媒体の保存方法を採用している」など、一部の例外を除いては従わなくてはいけません。
電子帳簿保存法の要件
電子帳簿保存法において、書類の保存法は大きく分けると次の3つと定められています。
- 電子帳簿等保存
- スキャナ保存
- 電子取引
それぞれに保存の要件が異なるため、実際に書類を保存する際は都度確認しましょう。
このうち、電子帳簿等保存とは、会計ソフトを用いて作成した帳簿・書類をデータのまま保存することです。発注書の場合はそぐわないため、以降においてはスキャナ保存と電子取引に絞って解説します。経理関係の部署で働いているのであれば知っている、と思うかもしれませんが、今一度確かめておきましょう。
スキャナ保存
スキャナ保存とは、紙の文書をスキャナで読み込んで電子化し、そのデータを保存することです。電子帳簿保存法が定める要件に沿ってデータ化および保存を行えば、紙の原本を終わり次第破棄できます。なお、スキャナ保存に当たっては以下の要件が定められているため、業務フローを策定する際の参考にして下さい。
重要書類 | 一般書類 | |
入力期間の制限 | 【早期入力方式】国税関係書類に係る記録事項の入力を受領等後、速やか(概ね7営業日以内)に行う 【業務処理サイクル方式】国税関係書類に係る記録事項の入力、その業務処理に係る通常の期間(最長2ヶ月以内)経過後、速やか(概ね7営業日以内)に行う ただし、国税関係書類の受領等から入力までの事務処理に関する規定を定めている場合に限る | 【適時入力方式】適時に電磁的記録を保存する ただし、早期入力方式または業務サイクル方式でも可 |
解像度 | 200dpi相当以上 | |
カラー画像 | 赤・緑・青の階調が256以上(24ビットカラー) | グレースケールでも可 |
タイムスタンプの付与 | 書類の受領等後または業務の処理にかかる通常の期間(最長2か月以内)を経過した後、すみやか(概ね7営業日以内)に付与が必要 訂正や削除ができないシステムに保存する場合はタイムスタンプの付与は不要 | |
大きさ情報 | 大きさに関する情報を保存する ただし、該当する書類の大きさがA4以下の場合は不要 | 不要 |
バージョン管理 | 電磁的記録について、訂正または削除を行った場合には、事実・内容を確認可能な電子計算機処理システム・訂正・削除を行うことができない電子計算処理システムを使用する | |
入力者等情報の確認 | 記録事項の入力を行う者とその者を直接監督する者の情報を確認可能な状態にしておく(2024年1月1日以後に行うスキャナ保存については、入力者などの情報の確認自体が不要) | |
帳簿との相互関連性の確保 | 電磁的記録と帳簿の記録事項の相互性を確認可能な状態にしておく(2024年1月1日以後は「重要書類」のみ確認できればよく、「一般書類」では不要) | |
見読可能装置の備付け等 | 14インチ以上のカラーディスプレイとカラープリンター、操作説明書を備付ける | グレースケールの場合はディスプレイおよびプリンタはカラーの必要なし |
電子計算機処理システムの概要書等の備付け | 電子計算機処理のシステム概要を記載した書類やシステム開発の書類、操作説明書、保存に関する事務手続きを明らかにした書類を備付ける | |
検索機能 | 以下の検索要件を満たす ①取引年月日などの日付、取引金額、取引先での検索 ②日付・金額に係る記録項目の範囲指定検索 ③2つ以上の任意の記録項目の組み合わせ検索 ただし、税務職員によるダウンロードの求めに応じる場合は②③不要 |
電子取引
電子取引とは、見積書・請求書・領収書・納品書など、取引に関する情報をPDFなど電子データを介して授受する取引を指します。文書の授受、保存も電子データで完結するのが大きな特徴です。なお、電子取引では「可視性の確保」および「真実性の確保」という2つの要件が定められています。
まず、可視性の確保では、以下の要件を全て満たすことが求められています。
- 保存場所に、電子機器(パソコンなど)・プログラム・ディスプレイ・プリンタおよびこれらの操作マニュアルが備え付けられており、画面・書面に整然とした形式および明瞭な状態で速やかに出力できるようにしておくこと
- 電子計算機処理システムの概要書を備え付けること
- 以下の検索機能を確保すること※
- 取引年月日、取引金額、取引先により検索できる
- 日付または金額の範囲指定により検索できる
- 二つ以上の任意の記録項目を組み合わせた条件により検索できること
※税務職員によるダウンロードの求めに応じることができる場合は2.3.が不要。なおかつ保存義務者が小規模な事業者である場合は検索機能が不要。
また、真実性の確保については、以下の要件のいずれかを満たす必要があります。
要 件 | 当編集部の見解 |
1.タイムスタンプが付された後に取引情報の授受を行う | ×:取引先(送付側)の協力が必要なため、実現は難しい |
2.取引情報の授受後速やかにタイムスタンプを付し、保存を行う者または監督者に関する情報を確認できるようにしておく | ○:自社のシステム導入のみなので、コストや運用次第で実現する |
3.記録事項の訂正や削除を行った場合にその事実が確認できるシステムか、記録事項の訂正や削除ができないシステムを使用する。 | ○:自社のシステム導入のみなので、コストや運用次第で実現する |
4.記録事項の訂正や削除に関して事務処理規程を定め、それに沿った運用を行う | △:一見簡単だが、規程の社内周知や継続更新が必要で運用コストが高い。小規模事業者向き |
電子帳簿保存法における発注書の保存方法
電子帳簿保存法においては、発注書を含めた対象となる書類を適切に保存しなくてはいけませんが、「適切に」が、具体的に何を指すのかが分かりづらいかもしれません。ここでは、発行側と受領側に分けて、電子帳簿保存法の規定にのっとり、発注書を適切に保存するためのポイントについて解説します。
発行側
まず、発注書の発行側における保存方法について解説します。大前提として、発注書を紙と電子のどちらで発行したかによっても、方法が全く異なる点に注意して下さい。具体的な方法を解説します。
電子データで発行した場合
PDFなどの電子データで発行した発注書は、電子帳簿保存法の電子取引の対象となるため、真実性の確保および可視性の確保を満たす形で保存しなくてはいけません。具体的には、パソコンやモニター、マニュアルやシステム概要書を設置し、すぐ利用できる状態にしておく必要があります。また、所定の条件に合致した検索機能を確保しなくてはいけません。
紙で発行した場合
FAXでのやり取りなど、発注書を紙で発行する場合は、電子帳簿保存法における電子取引には該当しません。そのため、電子上の保存も強制されないことから、紙のままで保存するか、スキャナ保存するかを選ぶことができます。ただし、スキャナ保存する場合は「一般書類」の保存要件を満たす必要があるため、使用するスキャナの設定を見直しましょう。
受領側
発注書を受け取った側=受領側が保存する場合も、紙と電子のどちらで受け取ったのかによって、具体的な保存方法は異なります。以下でそれぞれの場合の保存方法について解説するので、参考にして下さい。
電子データで受領した場合
まず、発注書をPDFなどの電子データで受領した場合は、電子取引として扱われます。発行側の場合と同じく、「真実性の確保」および「可視性の確保」を満たす形で保存が求められるため、必要な手続きを進めましょう。パソコンやモニター、マニュアルやシステム概要書の設置、検索機能の確保は最低限満たすべき条件となります。
紙で受領した場合
発行側の場合と同じく、郵送やFAXなど紙の形で発注書を受け取ったなら、電子帳簿保存法の電子取引には該当しないため、電子上の保存も強制されません。都合に応じて、紙のままで保存するか、スキャナ保存するかを選べます。ただし、現場が混乱しないようにするためにも「紙で受領した場合はそのまま保存する(スキャナに取り込んで保存する)」など、統一された業務ルールを設けた方が好ましいでしょう。
発注書の保存期間
発注書を電子または紙のどちらで受け取った場合でも、受け取ってから一定期間は保管しなくてはいけません。必要なくなったからという理由だけで破棄できないため注意して下さい。なお、具体的な保存期間は法人・個人の別や副収入の有無によっても異なるため、以下において詳しく解説します。
法人
法人の場合、注文書は10年間保管しておくと確実です。理由について、法律上の規定も交えて解説します。
法人税法によれば、注文書を含めた帳簿と関連する書類は「その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間」保存する決まりになっています。
”法人は、帳簿を備え付けてその取引を記録、その帳簿と取引等に関して作成又は受領した書類(以下「書類」といい、帳簿と併せて「帳簿書類」といいます。)を、その事業年度の確定申告書の提出期限の翌日から7年間保存しなければなりません。”
参考:国税庁「No.5930 帳簿書類等の保存期間及び保存方法」
例えば、3月決算の会社が2024年12月に注文書を受け取った場合、確定申告書の提出期限は2025年5月末になることから、注文書は2032年5月末まで保管しないといけない計算です。
加えて、欠損金について繰越控除を行う場合、帳簿書類については10年間保管が求められることに加え、会社法における会計帳簿の保存期間が10年であることを踏まえると「10年が確実」という結論になります。
つまり、先ほどの例の場合、確定申告書の提出期限である2025年5月末から10年後にあたる2035年5月末まで保存すれば確実でしょう。
個人事業主
個人事業主の場合は、法人よりもやや短く、7年保管しておけば確実です。理由として、青色申告・白色申告のいずれの場合でも、書類の保管期限は「確定申告の締め切り日から5年もしくは7年」とされていることがあげられます。以下、青色申告の場合と白色申告の場合に分けて、帳簿・書類の保存期間を表としてまとめたので、参考にして下さい。
■青色申告の場合
帳簿 | 仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳、売掛帳、買掛帳、経費帳、固定資産台帳など | 7年 |
書類 | 決算関係書類 損益計算書、貸借対照表、棚卸表など | 7年 |
現金預金取引等関係書類 | 領収証、小切手控、預金通帳、借用証など | 7年(※前々年分所得が300万円以下であれば、5年) |
その他の書類 | 取引に関して作成し、または受領した上記以外の書類(請求書、見積書、契約書、納品書、送り状など) | 5年 |
■白色申告の場合
帳簿 | 収入金額や必要経費を記載した帳簿(法定帳簿) | 7年 |
業務に関して作成した上記以外の帳簿(任意帳簿) | 5年 | |
書類 | 決算に関して作成した棚卸表その他の書類 | 5年 |
業務に関して作成し、または受領した請求書、納品書、送り状、領収書などの書 | 5年 |
なお、個人事業主でも課税事業者であれば、帳簿書類を7年間保存する必要があります。以上のことをふまえる、7年間保管しておけば確実、と考えて下さい。
副業(一定規模の収入がある場合)
会社員など他に仕事があって、掛け持ちする形で副業をしている場合の扱いについても知っておきましょう。前提として、一昨年における副業での収入が300万円を超えた場合、現金預金取引等関係書類を確定申告の期限から5年間保存しなくてはいけません。
現金預金取引等関係書類とは、副業として行った取引において、現金・預貯金の支払い・受け取りのために作成した書類です。注文書や収支の集計表、預金通帳が含まれます。国税庁のWebサイトにも詳しく記載があるため、参考にして下さい。
参考:国税庁|個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について
発注書保存の際のポイント
発注書を保存する際は、電子帳簿保存法の規定に照らし合わせて、問題が起きないように配慮する必要があります。具体的に注意すべきポイントとして、代表的な着目点を紹介します。
検索性を高める
1つ目のポイントとして「検索性を高める」ことがあげられます。前提として、電子帳簿保存法においては、書類の保存にあたって「日付・金額・取引先」で簡単に検索できるようにしないといけません。
検索性を高めるための具体的な施策としては次のようなものが考えられます。
- ファイル名を「日付・金額・取引先」を含むものにするなど、検索しやすいものに統一する
- 索引簿をつくる
- 電子帳簿保存法に対応したシステムを導入し、検索機能を活用する
なお、検索性を高めることは、電子帳簿保存法との兼ね合いだけではなく、業務の効率性を高めるためにも必要です。必要なデータがあったとしても、探すのに手間取っていては到底効率的とは言えない以上、「すぐに探せる」体制をつくるのが重要と考えましょう。
保存期間に注意する
2つ目のポイントとして「保存期間に注意する」ことがあげられます。注文書を管轄している法人税の場合は、保存期間を守らなくても罰則はありません。ただし、現実問題として、保存期間を守らないことが規則違反とされ、青色申告を取り消される可能性があります。加えて、発注書が適切に保管されていないと、取引を証明する手段として機能しません。万が一、取引先とトラブルになった場合、証拠としても使えないため、自社が不利な状況に追い込まれる可能性もあります。
書類の保存期間や保管方法については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
不正対策を万全にする
3つ目のポイントとして「不正対策を万全にする」ことがあげられます。電子帳簿保存法では保存の際に不正が発見されると重加算税の対象となるため注意しなくてはいけません。ここでの不正とは、改ざん、隠蔽など悪質なものを指します。例えば、本来は存在しないはずの注文について、別の注文書の画像を使いまわしていた場合などが考えられます。
なお、税務調査時で悪質な不正が発覚し、その不正の申告漏れが確認された場合、本来支払うべき税額の35%が重加算税として上乗せされます。加えて、電子取引の保存やスキャナ保存に関する不正があった場合は、そこからさらに10%上乗せされるため、合計で本来支払うべき税金の1.45倍を納めなくてはいけません。
電子帳簿保存法の違反や罰則を防ぐ方法についてより詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
発注書を電子化するメリット
発注書を電子化することには、企業にとってさまざまなメリットをもたらします。ここでは、代表的なものに絞って解説するので、ぜひ参考にして下さい。
コスト削減につながる
1つ目のメリットは「コスト削減につながる」ことです。発注書を電子化すれば、基本的にペーパーレスになるため、保管スペースもその分減らせます。オフィスを縮小したり、貸倉庫の契約を解除したりできるため、コスト削減においても効果的です。また、紙代、インク代、印刷代、郵送費など、紙の発注書にかかっていたコストも削減できます。
発注書の電子化に移行する場合、システムの導入などに費用がかかるケースもあるため、一見高いように思う人もいるかもしれません。しかし、削減できるコストも大きい分、長期的に見れば電子化に踏み切った方が利益が大きくなることも十分に考えられます。
業務効率化につながる
2つ目のメリットは「業務効率化につながる」ことです。発注書を含め、紙で書類を発行・郵送することのデメリットとして「探しづらく、作業にも時間がかかる」ことがありました。
しかし、発注書の電子化により、紙の書類を探したり、冊子にまとめたりする作業は大幅に減らせます。また、相手先への郵送作業も不要になるため、相手側との書類のやり取りもスピーディーに進めていくことが可能です。さらに、システム上で自動入力の設定をするなど工夫をすれば、手入力作業を大幅に減少できます。ミスの発生や担当者の負担を減らすという意味でも、非常に有意義でしょう。
リスク対策が強化される
3つ目のメリットは「リスク対策が強化される」ことです。紙の発注書がはらんでいる問題点として、誤って破棄したり、紛失したりするリスクがあることがあげられます。紛失した発注書を悪意のある第三者が拾い、悪用する可能性もゼロではありません。
一方、発注書を電子化すれば、紛失・破棄のリスクはある程度軽減できます。閲覧制限を掛けたり、パスワードを設定したりすることで、仮に悪意のある第三者に渡ったとしても、簡単に内容を見られなくすることが可能であるためです。さらに、システム上の変更履歴記録機能を使えば、誰がいつ変更を加えたかが分かるため、悪質な改ざんを防止することもできます。
発注書の電子化はシステム導入で効率的に
この記事では、発注書とは何か、電子帳簿保存法に照らし合わせた場合、どのような意味を持つのかについて解説しました。発注書と電子帳簿保存法の関係への理解は深まったでしょうか?理解を深めるだけでなく、自社の発注書の発行・受領業務に何らかの問題がないか見直すきっかけにして頂ければ幸いです。なお、発注書の電子化を検討する際は、システムを導入すると効率的に進められます。初期費用はかかりますが、コストを削減できる効果は十分にあるため、この機会に検討してみて下さい。最後までお読み頂き、ありがとうございました。