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企業がコンプライアンスを軽視すると、法的な処罰や企業イメージの低下、顧客離れ、従業員のモチベーション低下など、さまざまな影響が考えられます。企業のコンプライアンス体制を構築し、適切に機能させることで、多くのリスクを最小限に抑えつつ、企業の信頼性を高めることが可能です。
→ダウンロード:請求書支払業務を取り巻く内部統制の課題と4つの解決策
本記事では、コンプライアンスの基礎知識や具体的な実践方法、コンプライアンス違反の例やペナルティなどについて分かりやすく解説します。自社のコンプライアンス体制を整備し、リスク管理を強化するために、ぜひお役立て下さい。
コンプライアンスとは何か?
インターネットやSNSの普及・浸透に伴い、企業に対する世間の監視が強まっている中、コンプライアンスの社会的要請が以前にも増して高まっています。この機会に、今一度コンプライアンスの基本に立ち返ってみましょう。
コンプライアンスの意味
コンプライアンス(Compliance)とは、「(要求や命令などに)従う、遵守する」という意味の単語(Comply)に由来する言葉です。一般的には「法令遵守」と呼ばれています。
企業におけるコンプライアンスは、法令遵守だけに留まらず、経営者や従業員が遵守すべき基準を指します。具体的には「法令」「社内規則」「社会規範」という3つの規範があり、これらに従って公正・公平に業務を遂行することが、コンプライアンスの遵守と言えます。
CSR、コーポレートガバナンス、内部統制との違い
企業のコンプライアンスと関連する主な用語に、「CSR(Corporate Social Responsibility)」「コーポレートガバナンス」「内部統制」があります。
CSR(Corporate Social Responsibility)とは、「企業の社会的責任」とも呼ばれる言葉です。企業活動において社会的公正や環境などへ配慮し、株主に対して責任ある行動を取ると共に、説明責任を果たしていくことを指します。
コーポレートガバナンス(Corporate Governance)は、健全な企業運営を目的とする管理体制や仕組みのことで、「企業統治」とも呼ばれます。コーポレートガバナンスを整備・運用することが、コンプライアンスの実現につながります。
ガバナンスとコンプライアンスの違いについては、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
内部統制は、企業が事業活動を健全かつ効率的に行うための体制を整えることです。コーポレートガバナンスと似ていますが、コーポレートガバナンスは主にステークホルダーを意識するのに対し、内部統制は経営目標の達成を目的としています。
参考:金融庁 | 財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準
内部統制とコンプライアンスの関係性については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
コンプライアンスを重視すべき4つの理由
コンプライアンスを遵守すべき理由を改めて確認し、現代に合った倫理観を持つことが重要です。ここでは、以下4つの理由について解説します。
- 法改正に対応するため
- 社会的責任を果たすため
- 顧客や投資家から信頼を得るため
- 働きやすい環境を作るため
法改正に対応するため
法改正への対応は、コンプライアンスの中で最も基本的な部分です。健全な企業活動のためには、組織を構成する従業員がルールを遵守する必要があります。法令で禁じられていないからといって、倫理観の低い経営を行うと時代の変化への対応が遅れ、余計な労力やコストがかかるでしょう。
コンプライアンスを重視することで、法令遵守への意識を高め、新しい法令にも柔軟に対応することが可能になります。
社会的責任を果たすため
目先の利益だけを追い求めて、企業が法令や社会倫理を守らない場合、社会的な信頼性や組織力を失ってしまうでしょう。また、CSRの実現と企業の利益追求を同時に行うことは、企業の持続的な成長にとって欠かせません。
環境や人権などに配慮した経営に取り組み、企業として求められるCSRを果たすためには、コンプライアンス意識を高く保ち、実践する必要があります。
顧客や投資家から信頼を得るため
コンプライアンス体制を整備することは、企業イメージを守り、顧客や投資家からの信頼を維持するために欠かせません。一度信用が失われてしまうと、回復することは困難であり、再び顧客や投資家を取り戻すには相当な労力と時間を要します。
また、インターネットやSNSを通して情報が急速に拡散される現代において、炎上するリスクがあると判断されれば、投資をためらわれる可能性があるでしょう。
働きやすい環境を作るため
コンプライアンスは、全従業員が働きやすい環境づくりに取り組む上でも重要です。労働基準法や関連する規則を守ることで、ハラスメントや長時間労働、不公平な待遇などを避け、従業員の心身の健康や安全を確保できます。
また、従業員が能力を十分に発揮できる環境が整えば、エンゲージメントやモチベーション、生産性の向上にもつながります。
コンプライアンスの体制を整える重要施策
ここからは、企業がコンプライアンス体制を構築するための具体的な方法を紹介します。自社におけるコンプライアンス体制の整備に向けて、ぜひ参考にしてみて下さい。
専門部署を設置する
コンプライアンス体制を強化するには、経営トップ直属の推進部門を設置し、専門的に管理・運用を行う体制を整えましょう。専門チームを作ることで、コンプライアンスの状況を常に把握でき、違反が発生した場合にも迅速な対応が可能です。
一般的には、企業の実情を知る取締役などの役員が務めるケースが多く見られます。
コンプライアンス委員会の取り組みの実際
コンプライアンス委員会を設置し、コンプライアンス体制を適切に運用することができます。例えば、ヒューリック株式会社では、社⻑を委員⻑とする会議を定期的に開催し、コンプライアンス規程やグループ共通のマニュアルなどの改定を実施しています。
また、実践計画「コンプライアンス・プログラム」を全社的に実施し、結果の報告や規程の見直しを行い、規範の遵守を全従業員へ浸透させています。
監視体制を整備する
現場レベルで、コンプライアンスが問題なく実施され、違反が起こっていないかどうか監視する仕組みが必要です。コンプライアンスの専門部署が担うことも可能ですが、モニタリングやチェックを専門で行う社外機関に委託することで、効率的かつ客観性の高い監視が実現します。
また、定期的に従業員へのヒアリングを実施し、コンプライアンス体制に不備がないか確認することも大切です。
コンプライアンスマニュアルの作成
コンプライアンスポリシーをマニュアル化することは、体制の整備に役立ちます。従業員が遵守すべき規範や行動指針を明確に示すことができ、内容を周知しやすくなります。
また、ホームページ上に公開すれば、投資家や取引先など外部の人にも効果的にアピールでき、信頼性の向上につながるでしょう。マニュアルは一度作成して終わりではなく、定期的に見直しながら時代に合わせて更新する必要があります。
従業員への教育・研修の実施
コンプライアンスは、現場で働く従業員へしっかりと周知することが大切です。前述したコンプライアンスのマニュアル作成により、関係する規則や制度について従業員がいつでも確認できる環境を整備できます。
また、具体的な事例に基づき、コンプライアンスについて学べる研修や講座を定期的に実施すれば、コンプライアンス違反の防止にも役立つでしょう。
内部通報制度を整備する
従業員がコンプライアンス違反や不正行為を発見した際に、上司を通すことなく通報できる内部通報制度を整備しましょう。社内の窓口へ情報を提供することで、問題が表面化する前に対処しやすい上、従業員の違法行為への抑止力として機能します。
なお、内部通報した従業員が後に不当な扱いを受けることのないよう、保護するための対策も必要です。
コンプライアンス違反を防ぐ体制を構築
コンプライアンス違反を防ぐために、機能する体制を構築することも大切です。社内で発生する可能性のある問題を可視化しておくことで、未然に防止しやすくなり、リスクの軽減につながります。
万が一問題が起こったとしても、原因を分析し再発防止に向けた対策を打ち出しやすいでしょう。
定期的な体制チェックを実施
専門部署やマニュアル作成、社内窓口の設置などによりコンプライアンス体制を構築し、運用を開始したら定期的にチェックを行いましょう。体制が適切に機能しているかを確認し、最適な体制を確立しておくことで、問題発生時の迅速な対応や、再発防止策の策定にも役立ちます。
また、必要に応じて違反した従業員への処分や、マニュアルの更新などに取り組むことも重要です。
以下の記事では、コンプライアンス チェックの手順を詳しく解説していますので参考にしてください。
コンプライアンス違反の例とその理由
コンプライアンス違反とは、具体的にどのような行為を指すのでしょうか。ここでは、コンプライアンス違反の原因や理由と、代表的な例を紹介します。
経営層や従業員の知識不足
法令や社内規則、社会倫理などに関する正しい知識がなければ、遵守することはできません。コンプライアンスとは何のことで、なぜ遵守する必要があるのか、違反した場合どうなるのか、などの情報を経営層や従業員へ周知し、定着させることが大切です。
また、コンプライアンス違反に該当する事例を具体的に示すことで、理解を促せます。
働き方や認識のアップデートがなされていない
コンプライアンスの3つの基準である「法令」「社内規則」「社会倫理」は、いずれも時代の流れと共に変わりゆくものです。そのため、過去の当たり前を今の時代に行うと、気付かないうちにコンプライアンス違反となってしまう可能性があります。
特に、一定以上の年齢の従業員を中心に、変化に対応できていない従業員がいる場合には意識改革が必要です。
コンプライアンス違反の事例
コンプライアンス違反の代表的なものに、顧客や従業員の個人情報や、取引に関する機密情報の漏えいが挙げられます。従業員の不注意で発生する場合もありますが、社外の関係者が意図的に情報を持ち出すケースも少なくありません。
また、IT化に伴い、ハッキングによる大規模な事件に発展するリスクも高まっています。個人情報の紛失や漏えいが起こった場合、企業の社会的信用が失われ、投資家にも不利益を与えてしまうでしょう。
他にも、労働基準法違反となる長時間労働やサービス残業もコンプライアンス違反に該当するため、厳重な注意が必要です。
コンプライアンス違反のリスクとペナルティ
前述したようなコンプライアンス違反があった場合、企業や個人は民事や刑事上の責任を問われ、何らかのペナルティを課される可能性があります。ここでは、企業と個人それぞれが問われ得る責任について具体的に紹介します。
企業が問われ得る責任
企業が問われる可能性の高い責任とそれぞれの主な内容は、以下の通りです。
- 民事責任:債務不履行や名誉毀損に対する賠償
- 刑事責任:不正競争防止法違反や労働基準法違反に対する責任
- 行政責任:監督官庁などの行政規制に違反した場合の是正勧告や業務停止処分
- 社会的責任:企業に対する評価や信頼、企業価値の低下、株価への影響に対する対応
個人が問われ得る責任
個人においても、企業と同じく4つの責任が問われる可能性があります。各項目の主な内容は、以下の通りです。
- 民事責任:個人もしくは企業に対する損害賠償責任
- 刑事責任:ハラスメントや贈賄、私生活における窃盗や傷害、盗撮などに対する責任
- 労務責任:就業規則や社内規程に違反した場合の懲戒処分や評価の変更
- 社会的責任:悪質な違反を起こした場合の個人情報の公表や社会的信用、地位の損失
反社会的勢力との関係排除
企業のコンプライアンス強化には、反社会的勢力との関係排除が必須です。多くの場合、「反社チェック」と呼ばれるコンプライアンスチェックを行い、反社会的勢力と関係がないことを証明します。
反社会的勢力とは?
政府指針において、反社会的勢力とは「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団または個人」とされています。反社とも呼ばれるこれらの集団は、不当な方法で企業と関係性を持ち、不当な利益を得ようとします。
具体的には、企業の上場を通じて資金を直接もらう、マネーロンダリングの手段として利用する、などが考えられます。企業は、経営活動や意思決定において、反社会的勢力が完全に関係していないと明確に示すことが重要です。
反社会的勢力を排除する取り組み
企業が反社会的勢力との関係を完全に排除するために、対策を講じる必要があります。株主や投資家との取引が、合理的であるかを定期的にモニタリングしましょう。
また、新規取引を開始する際には、事前確認と共に問題が起きた場合の対処法を明確化するなど、コンプライアンス強化に向けた体制を整備する必要があります。加えて、信用・素性調査を実施する、反社会的勢力排除条項を契約書に追加するといった取り組みも有用です。
コンプライアンスの体制を強化しよう
コンプライアンス体制の構築は、企業にとって喫緊の課題です。法令遵守はもちろん、企業の長期的な成長のためにも、積極的に取り組むことが求められます。コンプライアンス体制を整備する施策には、専門部署や監視体制、内部通報制度の整備、従業員への教育と周知などさまざまなものがあり、自社の状況に応じて取り入れることが大切です。
特に経理担当者は、企業の財務に携わる専門家として、コンプライアンスの重要性をよく理解し、日々の業務を通して実践していく必要があります。今回紹介した知識を活かし、自社におけるコンプライアンス体制強化に貢献しましょう。