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「自社の内部統制を強化して業務改善や対外的信用力を高めたい」と考える企業は多いものの、具体的な方法に悩む担当者は多いでしょう。
→ダウンロード:請求書支払業務を取り巻く内部統制の課題と4つの解決策
この記事では、内部統制におけるアサーションの概要と、なぜ内部統制を構築・強化する際にアサーションの理解が大切なのか解説します。
「内部統制を強化するためのポイントやヒントを求めている」「財務諸表の正確性を保つためにどのような点に注意すれば良いか知りたい」と考える財務・経理の担当者や内部統制に関わるビジネスパーソンは、ぜひ参考にして下さい。
内部統制とは
内部統制とは、企業や組織が健全かつ効率的に経営するための仕組み・業務プロセスです。内部統制の4つの目的が達成されていることを合理的に保証するために業務に組み込まれ、組織内の全ての者によって遂行されます。また、内部統制は6つの基本的要素から構成されます。
以下で、内部統制の4つの目的と6つの基本的要素の概要を見てみましょう。
4つの目的
概要は以下の通りです。
- 業務の有効性及び効率性:企業が事業活動の目的を達成するために、業務の有効性・効率性を高めること
- 報告の信頼性:財務諸表をはじめとした企業が開示する情報に虚偽記載がなく、信頼性を確報できるものとすること。財務諸表だけでなく、非財務情報も対象。
- 事業活動に関わる法令等の遵守:事業活動に関わる法令や、その他の規範を遵守すること
- 資産の保全:資産の取得、使用、処分が正当な手続き・承認のもと行われるよう、資産の保全を図ること
参考:金融庁|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準(2023年)
内部統制の基本的要素
内部統制の基本的要素は6つあり、前述した4つの目的を達成するために必要とされる構成部分です。基本的要否を満たすかどうかは、内部統制の有効性を判断する規準となります。
- 統制環境
- リスクの評価と対応
- 統制活動
- 情報と伝達
- モニタリング(監視活動)
- IT(情報技術)への対応
内部統制の概要についてより詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
内部統制におけるアサーションとは
アサーションは「監査要点」とも呼ばれ、公認会計士などの外部の監査人が監査し、その結果である監査意見を述べる際に確かめるべき目標のことです。監査人は、アサーションに適合した監査証拠を得るように監査手続きを実施します。
アサーションは外部監査人だけが把握するべきものではなく、企業が虚偽記載のない財務報告を行うためには、企業側も適切に理解しなければなりません。
特に内部統制は企業が整備・構築するものであり、有効な内部統制を構築するにはアサーションを満たす必要があります。以下、監査で検討される主なアサーション6つと、内部統制との関連性を解説します。
アサーションの6つの要件
具体的には主に以下の通りです。
- 実在性:資産、負債、取引などが実際に存在していること
- 網羅性:資産、負債、取引などが全て記録されていること
- 権利と義務の帰属:資産に対する権利、負債に対する義務が企業に帰属していること
- 評価の妥当性:資産、負債を適切な価額で計上していること
- 期間配分の妥当性:収益、費用を適切な会計期間に配分していること
- 表示の妥当性:取引などを、適切に財務諸表上で開示していること
参考:金融庁|財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準(2023年)
アサーションとコミュニケーションスキルの違い
英語のアサーション(assertion)は、心理学上、相手へ配慮しつつも自己主張するコミュニケーションスキルの1つです。
しかし、この記事で解説するアサーションは、外部監査の際に確かめる目標である「監査要点」を指し、コミュニケーションスキルの意味とは異なります。
監査要点は、監査人が財務諸表の適正性を判断する際に、特に確認すべきポイントです。監査業務の効率や効果を高め、目的を遂行するための指針となります。
ただし前述のようにアサーションは、外部監査人のみが把握するべきものではありません。財務諸表を作成する責任は企業にあり、適切に開示するためにはアサーションを満たすような内部統制を構築することが大切です。このためアサーションは「経営者の主張」ともいわれる場合があります。
アサーション(監査要点)と内部統制の関連性
企業は投資家をはじめとした利害関係者に向けて、適切な財務諸表を開示する必要があります。そのためには内部統制の構築が有効かつ必須といえるでしょう。
上場会社などで行われる内部統制監査においても、監査人はアサーションを満たすことを確かめており、アサーションは外部監査の目的を遂行するための指針となります。
取引ごとに全てのアサーションを満たすことを目的とするのではなく、監査を受ける企業の業種、組織、情報処理システムなどに対応して監査人が自らの判断で設定します。
アサーションの6つの要素
アサーションの概要と、それぞれどのように満たすことを確認するのか、手続きの具体例を見てみましょう。
実在性|資産や取引が実在・発生しているか
主な方法は以下の通りです。
- 現物が存在するものについては現物を確認する
- 債権や預金に関しては取引先や金融機関へ確認する
具体的な手続きを例示します。
- 現金や固定資産など:現物の数をカウントする
- 預金など:金融機関から残高証明書を取り寄せる
- 売掛金などの債権:残高確認書などを用いて取引先に確認する
これらを踏まえた上で、会計帳簿と一致しているかどうかチェックすることが重要です。
網羅性|資産や取引は全て正しく計上されているか
取引が漏れなく計上されているか確認します。実在性と異なり、帳簿による確認ができません。主な方法は以下の通りです。
- 現物の保管場所を確認する
- 取引先や金融機関へ確認する
具体的な手続きの例としては以下が挙げられます。
- 現金:金庫を確認し、帳簿に計上されていないものがないか確認する
- 棚卸資産:実地棚卸に立ち会い、帳簿に計上されていない在庫がないか確認する
- 預金など:金融機関から残高証明書を取り寄せ、帳簿に計上されていない取引がないか確認する
- 債権・債務:取引先へ確認し、計上が漏れているものがないか確認する
権利と義務の帰属|資産・負債に対する権利・義務が会社に帰属しているか
権利や義務が企業のものであるかは、目視では確認できません。主には契約書などの書類で確認することになります。
具体的な手続きの例は以下の通りです。
- 無形固定資産:特許権のような権利が自社に帰属するか登録書類などで確認する
- 棚卸資産:実地棚卸において他社からの預かり商品とされているものがあれば、他社のものか契約などで確認する
評価の妥当性|資産・負債が適切な価格で計上されているか
評価の妥当性では、主に客観的に時価が下がっている資産、現物が劣化している資産、回収可能性の乏しい債権などが、当初の取引価額から見直して適切な価額で評価されているか検討します。
具体的な手続きの例は以下の通りです。
- 売掛金・貸付金:滞留債権を確認し、取引先の財務状況や認識の違いにより回収不能なものがないか検討する
- 有価証券:時価がないものについて、評価減の必要がないか検討する
- 有形固定資産:減損の対象になるものや遊休資産、休止固定資産がないか確認する
期間配分の適切性|収益や費用は適切な期間で計上しているか
特に決算期前後は、どちらの会計期間に計上するか判断する必要があります。
具体的な手続きを例示します。
- 売り上げ・売り上げ原価:期末日前後の出荷伝票・入荷伝票、検収書類などを確認し、適切な会計期間に計上されていることを確認する
- 経費:期末日前後の請求書などを確認し、適切な会計期間に計上されていることを確認する
表示の妥当性|財務諸表に表記している項目が正しいか
実際に開示される書類は財務諸表等であり、表示が妥当でないと財務諸表等の利用者に適切に伝わらず、判断に悪影響を及ぼす恐れがあるでしょう。
具体的な手続きを例示します。
- 借入金や長期未払金:1年以内に返済される予定の借入金が流動負債に計上されているか確認する
- 関係会社に対する債権・債務:勘定科目の表示が適切かどうか確認する
アサーションに関連する虚偽記載のリスク
虚偽記載のある財務諸表を開示してしまう原因は、誤謬(意図しない誤り)と不正(意図的な誤り)があります。
中でも不正は、粉飾のように組織のために行われるものと、横領のように個人によるものがありますが、どちらも隠蔽しようとするため発見は容易ではありません。しかし、有効な内部統制を構築することで、誤謬・不正共に虚偽記載のリスクを軽減できます。
以下では、前述した6つのアサーションを満たさない場合に考えられる虚偽記載のリスクを紹介します。なお、リスクが阻害しているアサーションは1つだけとは限りません。内部統制を構築する際は以下の内容を参考にして下さい。
実在性のリスク
リスクの例は以下の通りです。
- 架空の売り上げを計上する(粉飾)
- 横領した現金が、あるように見せかける(個人の不正)
- 誤って売り上げを二重で計上する(誤謬)
現金や売掛金などの資産が実際に存在しないものの、計上したまま開示してしまうリスクがあります。
網羅性のリスク
主なリスクとしては以下が考えられるでしょう。
- 業績を良く見せるために、費用と債務を除外する(粉飾)
- 回収した現金を報告しない(個人の不正)
- 処理すべき仕訳を失念する(誤謬)
計上すべき債務や、消し込むべき資産が計上されないまま開示してしまうリスクがあります。
権利と義務の帰属のリスク
リスクの例は以下の通りです。
- 従業員が個人的に利益を得るために、取引に対して不当な条件で契約を結ぶ(個人の不正)
- 誤った方法で特許を申請し、認められていないものの取得したと誤認してしまう(誤謬)
取引契約は単発だけでなく、長期的かつ金額が大きくなるケースが多くあります。契約を結ぶ際の内部統制が有効でないと、企業は大きな損害を受けるリスクがあります。
評価の妥当性のリスク
主なリスクは以下の通りです。
- 損失を計上したくないことから、回収可能性の乏しい投資有価証券の評価減を実施しない(粉飾)
- 減損の検討や計算の方法を誤り、評価減を少なく計算する(誤謬)
評価の妥当性の検討は、担当者の判断が伴う難しい面もあります。不正や誤謬を防ぐためにも、明確に基準を示せるようにしておきましょう。
期間配分の適切性のリスク
主なリスクには以下が挙げられます。
- 業績を良く見せるために、来期の売り上げを今期中のものとして前倒しで計上する(粉飾)
- 来期の売り上げに対する原価にもかかわらず、今期の費用として計上する(誤謬)
「どちらの期間に属するか」という問題であるため、長い目で見れば同じようにも思えるでしょう。しかし、財務諸表は会計期間を区切って開示するものであり、適切な期間に計上しなければ業績を意図的に操作できてしまいます。
表示の妥当性のリスク
リスクの例は以下の通りです。
- 短期的な債務を少なく見せるために、流動負債を固定負債として表示する(粉飾)
- 金額が大きく別途開示しなければならないところを失念する(誤謬)
財務諸表等の表示が正しくない場合、利害関係者に適切に伝わらず、判断に悪影響を及ぼすリスクがあります。
帳票がアサーションを満たしているかをチェック
アサーションを満たしているか確認するにはさまざまな方法がありますが、帳票自体にアサーションの要件を満たすような記載項目や、証跡が残るような仕組みをつくるとスムーズです。どのような記載項目が必要か検討し、漏れのないようにすることが大切です。
例えば、売り上げ計上の際に自社が発行する請求書や、納品書の控えの記載項目を考えてみましょう。
- 実在性
- 販売先の名前を明記し、実在している会社であることを確認
- 先方の受領印または当社の出荷の印などにより、実際に取引が行われたことを確認
- 網羅性
ナンバリングして、取引が漏れなく帳簿に計上されていることを確認
- 権利と義務の帰属
- 受注番号などを記録し、契約(受注)があることを確認
- 上長の承認印により、適切な契約により取引が行われていることを複数人で確認
- 評価の妥当性
品名・数量・単価・金額が記載されており正しい売り上げ額が計上されていることを確認
- 期間配分の妥当性
出荷日や検収日を記載し、適切な売り上げ計上日を確認
- 表示の妥当性
取引内容を詳細に記録し、妥当な表示を検討できる状態にしておく
企業によって必要な記載項目は異なります。自社に合った記載項目を定めましょう。
2024年4月から内部統制監査の実施基準が改正
内部統制監査の実施基準は2023年4月に改訂が公表され、2024年4月以降の事業年度から適用が開始されました。外部監査では改正点を踏まえた監査手続きを実施します。企業側も改正点を把握し、対応することが大切です。
アサーションの内容に関して、変更点はありません。主に、今までの制度の実効性向上や内部統制の最新の知見を反映させた改正となっています。
- 内部統制の目的が「財務報告の信頼性」から非財務情報を含んだ「報告の信頼性」に変更
- 内部統制の評価範囲の決定方法を、数値基準の機械的な適用ではなく、財務諸表の信頼性に及ぼす影響の重要性を考慮するなど、適切なリスクアプローチの徹底
- ITの活用におけるセキュリティ確保の重要性を強調 など
参考:金融庁「財務報告に係る内部統制の評価と監査についての基準等の改訂について」(商事法務No.2329)
アサーションと内部統制の重要性
企業の財務報告の信頼性を確保するために、上場企業などは外部監査を受けなければなりません。外部監査では、アサーションに適合した監査証拠を得るように監査手続きを実施します。
企業側は、アサーションの内容を理解して要件を満たす内部統制を構築することで、外部監査への対応だけでなく事業の効率的な発展につなげられます。
アサーションの概念を正しく理解し、企業の財務報告の信頼性を確保すると共に業務効率化を図りましょう。