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近年、電子帳簿保存法の改正などをきっかけに書類の電子化が進んでいます。特に請求書はどの企業でも授受する書類であり、電子化できれば業務効率化や保管スペースの省力化などの効果が見込めます。
請求書を電子化する方法として、手軽に取り組める一般的な手段の1つがPDF化です。この記事では請求書をPDF化して保存するメリットを解説します。そして、実際にPDF化するための手順や方法、業務効率化につながるおすすめのサービスも併せて紹介します。請求書のPDF化について気になっている、導入を検討している経理担当者はぜひ参考にして下さい。
請求書のPDF化
請求書のPDF化とは、以下を指します。
- 受領側:紙で受領した請求書をPDFファイルに返還し、PDFデータで保存する
- 発行側:請求書をPDF化して取引先へ送付する
請求書をPDFとして発行しても法的に認められる?
法的には請求書の形式に決まりはなく、請求書をPDF化することは問題ありません。ただし保存義務がある期間や、保存方法は各種法律で定められているため注意が必要です。具体的な法律と請求書に関する定めは以下の通りです。
- 法人税法
法人税法では、原則として確定申告書の提出期限の翌日から起算して7年間、繰越欠損金がある場合は状況に応じて10年間、保存しなければなりません。請求書を発行した側も、写し(控え)があれば同様に7年間の保存が求められます。
- 所得税法
所得税法では青色申告、白色申告にかかわらず、請求書の保存期間は5年です。期間は法人と同様に、確定申告書の提出期限の翌日から起算して計算します。
- 消費税法
2023年10月1日からインボイス制度が導入され、仕入れ税額控除を適用するためにはインボイス(適格請求書)の保存が必要になりました。法人・個人を問わず、インボイスは7年間保存しなければなりません。
発行側も同様に、インボイスの控えを7年間保存する義務があります。ただし、控えは発行した原本のコピーだけに限りません。適格簡易請求書に係るレジのジャーナル、複数の適格請求書の記載事項に係る一覧表や明細表なども該当します。
また、インボイスは必ずしも請求書である必要はなく、登録番号などインボイスの記載要件を満たす書類であれば納品書や領収書でも構いません。
請求書をPDF化するメリット
請求書をPDF化する主なメリットは以下の通りです。
- 保存・管理が容易
- コスト削減につながる
- テレワークに対応できる
- 業務を効率化できる
それぞれ解説します。
保存・管理が容易
請求書をPDF化すれば電子データで保存できるため、保管スペースを削減できます。また、データであれば検索が容易になり、紙のファイルを探す手間も大幅に省力化できるでしょう。
コスト削減につながる
請求書をPDF化すれば、紙で授受する場合にかかる以下のコストを削減できます。
- 保管スペース代
- 紙代、印刷代
- ファイルなどの備品代
- 郵送にかかる費用
- ファイリングや郵送手続きを行う人件費
テレワークに対応できる
請求書をPDFデータで保管すると、インターネットにアクセスできる環境であれば場所と時間を問わず閲覧できます。
請求書が紙で保管されている場合、請求書に関連する業務を行う際には出勤せざるを得ません。この点、PDF化すれば自宅からでも閲覧ができるためテレワークがしやすくなり、柔軟な働き方に対応できます。
業務を効率化できる
請求書を紙で発送する場合、印刷して封入、発送しなければなりません。受領側は紙の請求書を確認後、ファイリングして保管することになります。もし請求書をPDF化すれば、以下のように業務効率化が図れます。
発送側
- 電子データで控えを保存するため検索が容易
- 印刷・封入・発送など郵送業務の負担を削減できる
- メールなどで送付できるため、郵送よりも請求書が届くまでの時間を短縮できる
受領側
- ファイリングなどの事務作業の負担軽減が可能
- 検索が容易になり、探す手間を省力化できる
請求書をPDF化するための手順と方法
実際に請求書をPDF化するための手順、方法を紹介します。
紙の請求書をPDFにする方法
紙の請求書をPDF化する作業は、一般的に請求書を紙で受領した側が行います。
請求書を紙で受領してPDFで保存する際は、スキャナを利用することが一般的です。スキャナとは紙に印刷された情報などを電磁的記録に変換する入力装置であり、ハンディスキャナなどのスキャンに特化した機器だけでなく、複合機の機能にも含まれます。
また、近年では書類を電子保存するケースが増え、スマートフォンなどで撮影した画像を電子化できるシステムも多くなりました。国税庁でもスマートフォンやデジタルカメラなどの使用を認めています。
ExcelやWordで作成した請求書をPDFに変換する方法
ExcelやWordで作成した請求書をPDFに変換する作業は、請求書を発行する側が行うのが一般的です。ExcelやWordではデフォルトでPDFに変換できる機能があります。「名前をつけて保存」を選択し、ファイル形式で「PDF」を選択するだけで変換が可能です。
請求書の形式は法的に定められておらず、PDF化した上で送ることもできます。ただし電子帳簿保存法における「電子取引」に当たるため、発行した請求書の控えは電子取引による要件を満たすように保存する必要があります。
請求書PDF化の際のファイル名の付け方
請求書をPDFで受領して保存する場合、検索しやすいようにファイル名の付け方を事前に統一して決めておくことが大切です。電子帳簿保存法の電子取引に当たるため、保存要件の1つである「日付・金額・取引先」で検索できるようにしましょう。
具体的には、取引年月日、取引金額、取引先名をファイル名に含めることが必要です。例えば「20241130_株式会社TOKIUM_110000」などが考えられます。
なお、紙の請求書を受領してPDF形式で保存する「スキャナ保存」を行う場合も、同様に「日付・金額・取引先」で検索できるようにしましょう。
ただし、検索機能があるシステムを導入するなど他の方法で検索できるのであれば、規則的なファイル名をつける手間を省けます。
詳しくは「電子帳簿保存法に則したファイル名のルールとは?付け方やポイントを解説」の記事を参考にして下さい。
請求書をPDF化する際の注意点
請求書をPDF化する際に注意すべき事項は以下の通りです。
- 請求先の事前に通達する
- 電子印鑑が必要かどうか確認する
- 高いスキャン品質を確保する
- セキュリティ対策を徹底する
事前に確認してからPDF化を進めましょう。
請求先に事前に通達する
自社で発行する請求書をPDF化して送付する場合、取引先に事前に通達することが大切です。
取引先が紙で請求書を受領し、確認、支払いをする業務フローである場合、突然PDFで送られると対応が漏れて支払われない恐れがあります。また、取引先が通常の業務フローに異なる業務が加わる点に、手間を感じる場合もあるでしょう。何より連絡なく請求フローを変更することは信頼を失うリスクがあります。
PDFでの請求書の送付は、電子取引に該当します。電子帳簿保存法により、電子データで受け取った請求書は電子データのまま保存しなければならず、そのためには事務処理規程の作成などの保存要件を満たさなければなりません。
取引先によっては体制が整っていない場合や、事務作業を負担に感じる企業もあるでしょう。全ての取引先にPDF化して請求書を送付するのではなく、事前に取引先に了承を得ること、得られない場合は紙で送付する体制も残しておくことが大切です。
電子印鑑が必要かどうか確認する
紙で請求書を送付する場合、印鑑を押す場合がほとんどです。押印は法的に義務付けられていませんが、企業によっては社内規程で押印を求めるケースもあるため、PDF化する請求書に電子印鑑が必要かどうか事前に取引先に確認しましょう。
また、取引先だけでなく社内における社印取扱規程との整合性も確認することが大切です。
以下の記事では、電子印鑑について詳しく解説していますので参考にしてください。
高いスキャン品質を確保する
原本をスキャンする際には明瞭に読み取る品質を保つことが大切です。不鮮明、画像が歪んでいるといった低品質なスキャンでは、情報が正確に伝わりません。
電子帳簿保存法では請求書などの重要書類を「スキャナ保存」する要件として、以下の品質を求めています。
- 一定水準以上の解像度(200dpi以上)による読み取り
- カラー画像による読み取り(赤・緑・青それぞれ256階調(約1677万色)以上)
- 見読可能装置(14インチ以上のカラーディスプレイ、4ポイント文字の認識等)の備付け
- 整然・明瞭出力 など
一般的に市販されているスキャナや複合機なら、解像度の設定を正しく行えば通常使用する分には問題にならないでしょう。スマートフォンやデジタルカメラなどを使用して読み取る際、特に圧縮して保存する場合には解像度の要件を満たすかどうか確認が必要です。
セキュリティ対策を徹底する
請求書をPDFでシステム上に保存する場合、システムに不正アクセスされると情報が漏えいしてしまいます。請求書は企業の重要書類であり、情報漏えいが起きると企業の信用を失い、思わぬ損害が生じるリスクがあります。
このため、保存するシステムや保存するPDFデータのセキュリティ対策を入念に行うことが大切です。例えばシステムのマルウエア対策、閲覧できる権限の設定、パスワードの設定、アクセスログの管理などを行うと共に、PDFデータにもパスワードを設定するといった対策が有効です。
請求書のPDF化におすすめのサービス
請求書を紙で受領してPDF化する場合、データ化の作業に手間がかかります。また前述のようにスキャンの品質に注意し、保存する際には電子帳簿保存法に従った保存が必要です。
このため、PDF化を進めるためには新たな業務フローを導入しなければなりません。ここからは、効率的に請求書のPDF化・保存を進められるおすすめのサービスを紹介します。
請求書スキャン代行サービス
請求書をPDF化するには紙をスキャンする必要があり、事務処理上の手間が発生します。スキャン代行サービスは企業に代わってスキャン作業をするため、自社での事務処理の負担が減り、業務フローを変更する必要もありません。
また、電子帳簿保存法に対応したデータ化、データ保存にも対応しています。電子帳簿保存法ではスキャナ保存の要件が定められていますが、理解した上で対応を進めるまでに時間がかかります。外部の専門的知識がある企業へ依頼できれば安心できるでしょう。
電子帳簿保存法対応のクラウドサービス
電子帳簿保存法の改正により電子保存の要件が緩和され、電子データで保存する企業が増えました。それに伴い、電子帳簿保存法に対応したクラウドサービスも多く提供されています。
電子帳簿保存法に対応したクラウドサービスには、以下の特徴があります。
- タイムスタンプの付与
- 定められた解像度の保持
- スキャナデータが訂正・削除された場合、その事実や内容を確認できるシステムまたは、訂正・削除ができないシステム
- スキャナデータとそのデータに関連する帳簿の記録事項との間で関連性を確認できる
- 高いセキュリティ体制
以下の記事では、電子帳簿保存法対応のシステムの比較を行っていますので参考にしてください。
請求書のPDF化は業務効率化の第一歩
法的には請求書の形式は決まっておらず、PDFで授受することは問題ありません。近年書類の電子保存が普及し、請求書をPDF化して発送・受領する企業が増えました。
請求書をPDFで発行・受領すると、書類の作成や保管に要する費用をはじめ、封入・発送にかかる人件費などのコストを削減できます。さらには検索機能を活用することで、業務効率化も可能です。
ただし、電子帳簿保存法における電子取引またはスキャナ取引に該当するため、要件を満たす必要があります。PDF化を進めるためには、電子帳簿保存法に対応するシステムの導入がほぼ必須といえるでしょう。自社に合ったシステムを導入できるよう、比較して検討することをおすすめします。