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企業が事業を進めていく上で必須となる書類の一種に、契約書があります。内容にミスがあった場合、取引内容が変わってしまい、大損害が生じる恐れがあるため慎重に作成しなくてはいけません。しかし、そのような書類であるからこそ、どこか堅苦しく、難解な法律の知識がないと太刀打ちできないように感じている人は多いのではないでしょうか。
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企業の利益を確保するためにも、内容や作成時のポイント、法的知識を理解することは欠かせません。本記事では、契約書の基本から法的知識、作成時のポイントまでしっかりと解説します。本記事を読むことで、契約書と法律の関係について、初心者でも理解を深められるため、ぜひ最後までお読み下さい。
契約書とは
契約書とは、契約の締結を証明する文書のことです。法律では、口約束でも契約は成立する(民法第522条)ため、全ての契約において契約書をつくらなくてはいけないわけではありません。ただし、詳しくは後述しますが契約書をつくらないと成立しない契約もあります。ここでは、契約の種類と契約書作成の意義について解説するのでぜひ参考にして下さい。
4種類の契約方法
契約の成立に関しては、民法第522条において以下のように詳しく定められています。
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。 2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。(承諾の期間の定めのある申込み) 引用:e-Gov法令検索 |
簡単にまとめると「基本的に口頭でも契約は成立するが、法律で契約書を作ることが定められる場合もある」という内容です。以降では、実務において用いられている契約の方法として、次の4つを紹介します。
- 口頭の契約
- 書面上の契約
- 電子契約
- 公正証書
口頭の契約
1つ目は「口頭の契約」です。民法第522条にも定めがあるように、契約は当事者同士が話し合いをし、双方が口頭で合意に至っただけでも成立します。ただし、口頭でのやり取りでは記録に残らず、合意に至った内容が後にあやふやになりやすいため、トラブルも起きがちです。そのため、契約書を作成するのが通例である重要な契約に関しては、口頭での合意では契約成立と判断しないケースもあります。契約成立と判断されたとしても、トラブル防止のためにはやり取りを書面に残し、契約書として取り交わすのが望ましいでしょう。
書面上の契約
2つ目は「書面上の契約」です。契約内容を紙の契約書としてとりまとめ、当事者全員が署名捺印・記名押印することで契約が成立します。なお、発注書と発注請書を双方が取り交わすことで契約の成立とするのも、書面上の契約の一種です。
契約内容が紙に残るため、当事者が合意した内容を長期にわたって保管でき、紛争も防げることがこの方法の大きなメリットといえます。なお、法律で契約書類をつくるよう義務付けられていた場合、書面上での契約を行わなければ契約が無効になります。例えば、不動産の定期借家契約を締結する場合、公正証書など書面で契約を取り交わさないと、契約が無効になるため注意しなくてはいけません(借地借家法第38条1項)。
電子契約
3つ目は「電子契約」です。電子上で契約書を作成し、双方が電子署名を行うことで契約を成立させる方法を指します。インターネット環境と電子契約システムがあれば、リモートでも契約を取り交わすことが可能です。また、合意した内容はPDFファイルなどに変換することで、書面よりも管理しやすく長期にわたり保管できます。
PDF化した契約書のやり取りについては、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
なお、2020年初頭から日本を含めた世界中で新型コロナウイルス感染症が流行したことで、日本でも電子契約に切り替える企業が増えてきました。当事者がリモートワークをしていたとしても、特段問題なく契約を取り交わせるためです。
契約書の電子化については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
公正証書
4つ目は「公正証書」です。公証役場において公証人が作成する契約書(公正証書)が存在することを契約成立の要件とします。第三者である公証人が作成したものであることから客観性が保たれるため、取引の当事者双方が作成した契約書よりも証拠としての価値が高いとされるのが大きな特徴です。
契約書作成の意義
一部例外があるものの、法律上は契約書を作成しなくても成立する取引が多いのも事実です。しかし、実際の企業間取引では、大半のケースにおいて契約書が作成されています。ここでは、企業間取引において契約書を作成する意義を詳しく解説します。
合意の確認機能
1つ目は「合意の確認機能」です。契約を結ぶ際、その内容を当事者同士がよく理解しないまま進めてしまうと、後々トラブルが起きる原因になります。しかし、契約書をつくり、締結するというプロセスを経れば、当事者双方が内容を理解し熟考することが可能です。契約によりどのような義務やリスクが生じるのか、双方がしっかり理解・確認してから契約を結べます。
口頭で契約を取り交わした場合、後から振り返るのは難しいため、双方の認識が異なっていたらその溝を埋めるのはかなり難しくなるでしょう。しかし、文面に書き起こすことは、認識の食い違いを埋めるのにも役立ちます。
紛争抑止機能
2つ目は「紛争抑止機能」です。契約書を作成することで、双方が合意した内容の詳細を保管しておくことが可能となります。契約締結から時間がたっても、どのような内容で合意に至ったか確認できるため、「言った・言わない」の論争を避けられます。
万が一、契約内容をめぐって相手とトラブルになった場合にも、契約書の内容をもとに話し合いをすれば、訴訟にまで至らずに解決できるケースもあるでしょう。
訴訟時の証拠機能
3つ目は「訴訟時の証拠機能」です。契約書は、訴訟=裁判になった場合、重要な証拠として用いられます。民事訴訟法においては、署名または押印がなされた文書は「真正に成立したもの」とされています(民事訴訟法228条4項)。
契約書もこの「署名または押印がなされた文書」であるため、裁判で証拠として用いることが可能です。状況次第では、裁判の判決をも左右するため、内容にミスがないことが強く求められます。
契約書の法的効力
一部取引を除き、契約書の作成は法的に義務付けられている訳ではありません。ただし、契約書の内容には法的な効力があるため、訴訟の際などに重視されます。ここでは、契約書が法的効力を発揮する場合・しない場合について解説します。
契約が法律より優先される場合
前提として、一般的には法律の内容より契約書の内容が優先されます。法律には「任意規定」といって、契約書において別の規定を設けることが認められている規定があるためです。そして、契約書においては特定の規定を設けていなかった場合、任意規定が適用される点に注意しましょう。
なお、法律の規定のうち、特定の事業などを規制するための規定である「取締規定(別名:業法)」であっても、契約書の規定を直ちに覆すことはできません。あくまで、取締規定は事業者の行為を正すことが目的であって、自由な活動を過度に制限するためのものではないためです。ただし、取締規定に違反した場合、刑事罰が科されるおそれがあるため、実際は「取締規定に反しない範囲で、契約は法律より優先される」と考えましょう。
法律が契約より優先される場合
前述したように、契約書の内容は一般的には法律の内容よりも優先されるのが原則です。ただし、法律における「強行規定」に該当する場合は、契約書に記された内容よりも法律が優先されることに注意して下さい。強行規定に反する契約を結んでも、結局は無効となります。
なお、民法にも決まりがあるように、公の秩序に関する法規などは一般的に強行規定であることが多くなっています。
具体例として、以下の行為は公序良俗違反として無効になると考えられます。
- 密輸など犯罪行為をさせるために資金融資をする
- 金銭や物を提供して不倫関係を維持する
- 親の借金を子に違法な労働をさせて返済させる
- 人の知識のなさや窮状につけこんで不当な利益を得る(暴利行為など)
同じ取引の契約書が複数存在する場合
同じ取引の契約書が複数存在する場合の扱いについても解説しましょう。このような場合、内容が矛盾する箇所については、締結日が新しい契約書の内容に基づいて判断することになります。ただし、古い契約書に記されており、新しい契約書に記されていない内容に関しては、古い契約書に記された内容を基準に判断することになる点も併せて覚えておきましょう。
なお、古い契約書に記載された内容の効力をなくしたい場合は、終了手続き(契約解除)が必要です。また、契約のまき直しといって、変更契約書を作成することでも対応できます。
契約書作成時のポイント
企業が事業を続ける限り、契約書の作成は日々続いていきます。そして、契約書は裁判の証拠としても使われるほど効力の高い書類であるため、自社の不利益にならないよう慎重につくらなくてはいけません。以下において、契約書作成時に注意すべきポイントを解説します。
契約の目的と背景を意識する
まず、契約書を作成する上では、その契約が結ばれる背景と目的を理解することが非常に重要です。この作業を怠らないことで、避けるべきリスクや自社が獲得すべき条件が明らかになるため、自社にとって不利益な契約になるのを防ぐことができます。少なくとも以下の3点については明らかにした上で、契約書作成に臨みましょう。
- 獲得すべき条件
- 妥協しても良い事項
- 妥協しても良い事項について妥協が許される度合い
もし、明らかにならなければ、契約書の作成を依頼してきた相手に「なぜ、この取引をするのか」「どういう経緯で取引をする話になったのか」をストレートに聞いてみると効果的です。
双方の権利と義務を記載する
契約を結ぶ両者が、どのような権利と義務を有しているのかを整理して、契約書に盛り込みましょう。契約書をつくる理由の1つに、紛争の抑止機能が挙げられます。「何が得られるか、何をしなくてはいけないか」といった権利と義務について、双方の認識にギャップがあると揉める原因になりかねません。しかし、双方の権利と義務を契約書にはっきりと盛り込めば、そのギャップを埋めることができ、紛争を防げます。
なお、権利と義務を記載する際は以下の2つのポイントを意識しましょう。
- 主語を明確にし「誰の権利・義務」かを明確にする
- 権利・義務の内容を具体的に記載する
第三者に分かりやすい言葉を用いる
契約書を書く際は、第三者にも分かりやすい言葉を使いましょう。万が一、取引先などの相手との間でトラブルが起き、裁判にまで発展した場合、契約書は重要な証拠になるためです。
裁判官は法律のプロではあるものの、あくまで契約の当事者ではなく、第三者に過ぎません。契約の内容を事前に知っているわけではない以上、どのような契約を結んだことで裁判に発展したのか理解してもらえるよう、分かりにくい言葉を使うのはやめましょう。当事者間でしか分からない言葉が使われていた場合、その解釈が裁判の争点になる可能性もあります。
相手方が自分に有利に進めたいからと、思いもかけない解釈の主張をしてくるかもしれません。それが容認されてしまったことが原因で裁判に負ける恐れもあるため、どのような文言を用いるかは慎重に考える必要があります。
想定されるトラブルに対応する
権利と義務の整理が完了したら、想定されるトラブルとその対応策を洗い出し、契約書に盛り込みましょう。想定されるトラブルを洗いだす際には、以下の3つの方法を試してみて下さい。
- 過去の事例を調べる
- 時系列で考える
- 損害の性質ごとに考える
例えば、時系列で考える場合は、以下の点をチェックしてみましょう。
- 取引中に起こりうるトラブルは何か
- 取引の完了後に起こりうるトラブルは何か
また、損害の性質については、以下の点をチェックしてみると効果的です。
- 生命を脅かすものか
- 物損が生じるか
- 自社の利益が損なわれるか
自力での解決が難しい場合は、契約書の作成を依頼してきた相手にも聞いてみましょう。また、過去に問題になった事例があれば共有してもらえないか、周囲を頼るのも効果的です。
記載すべき項目
契約書が法令に違反していないか確認するのも欠かせません。契約書の種類にもよりますが、労働者派遣契約書のように、記載すべき項目が法律によって定められている契約書に関しては、所定の事項の記載を欠いてしまうと無効になるおそれが出てきます。
作成しようとしている契約書に関し、法律で記載内容が厳密に定められていないかは事前に確認しましょう。また、内容自体がそもそも法律違反となっていないか確認することも重要です。
関連する法律を調べておく
法律で記載内容が定められていない契約書を作成する場合でも、契約に関係のある法律の内容を調べておきましょう。取引において、契約書に記載のない内容に関しては、法律にしたがって判断することになります。
また、契約書に定められている内容であれば、基本的にはその定めが優先されます。しかし、強硬法規に反する場合は法律の定めが適用される点に注意が必要です。
無事に契約通り業務が進めばそれに越したことはありませんが、実際はトラブルや裁判沙汰になる可能性はゼロではありません。そのような場合のためにも、法律に照らし合わせた場合、どのような扱いがなされるのか調べておきましょう。
ひな形の内容を鵜呑みにしない
ネット上で見つかる契約書のひな形を鵜呑みにするのは好ましくありません。そもそも、契約書に記載すべき内容は個々の取引によって異なる以上、全てがひな形と同じように進むとは限らないためです。ひな形はあくまで参考程度に使い、細かい記載内容は契約の内容に基づいて精査した上で確定させましょう。
なるべく自社で作成する
契約書は可能な限り、自社で作成しましょう。特に、自社商品の売買契約書の場合は、自社で作成することが望ましいです。内容の精度を高めつつ、効率化を図るためにもひな形を作成しておきましょう。適宜必要と思う内容を追記していけば、ブラッシュアップできます。
また、自社商品の契約書に限らず、自社にとって重要な契約であれば、できるだけ自社で契約書を作成しましょう。そもそも、契約書は作成側の意図が反映されやすい書類であるため、相手方に作成してもらった場合は自社に不利な結果になりかねないためです。もちろん、途中で相手方にも見てもらう必要がありますが、自社で作成すれば意図を盛り込みやすくなります。
一般的な契約書の内容
一般的な契約書の内容をご紹介します。この契約書を参考にしつつ、自社にとって必要だと思う内容を適宜盛り込んで作成して下さい。
契約書ひな形(※一例)
(「一般的な契約書」のイメージ画像)
(出典:https://www.komon-lawyer.jp/format/baibai/)
具体的な記載内容は以下の通りです。
- タイトル:つけ方に決まりはないが、日付などを盛り込んでおくと後で特定しやすくなる
- 前文:契約の当事者が誰か、契約の基本的な内容や目的について記載
- 取引内容・権利義務:契約の対象である取引の具体的な内容、双方の権利義務を記載
- 一般条項:損害の際の賠償や個人情報の取り扱いなど、契約一般に定められる条項について定める。紛争を防ぐ観点から記載するのが通例
- 後文:契約書の作成部数、原本の所持者を記載。紛争が生じた場合、これらの点が重視されることがあるため記載するのが好ましい
- 契約書作成日:後ほど、契約を特定するために記載する。署名捺印、記名押印がなされた日付を盛り込めば良い
- 署名捺印・記名押印:契約の当事者が契約書に行う。なお、手書きで名前を書くことを「署名」、パソコンなど手書き以外で名前を書くことを「記名」という。捺印と押印はいずれも「印鑑を押す」こと
- 印紙の貼り付け(必要な場合):請負契約書など、一部の契約書は印紙税の対象となるため、印紙を貼らなくてはならない
- 割印・契印(必要な場合):特に重要な契約書に押す場合がある。割印には契約書の偽造を防止する、契印には契約書の用紙の一部の差し替えを防ぐ意味合いがある
参考:国税庁|No.7140 印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで
契約書の誤りはトラブルの引き金に
契約書の知識を網羅的かつ分かりやすく解説しました。契約書への理解は深まりましたか?契約書に誤りがあると、取引の内容が自社にとって不利なものになるなど、トラブルの引き金になります。この記事をきっかけに契約書の作成について見直してみて下さいね。最後までお読み頂きありがとうございました。