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企業が事業を続ける限りは、日々発生する課題をどのように解決していくか悩み続けることになります。コンプライアンスや内部統制の強化も企業における悩みの代表例です。多くの経理担当者が、「社内のコンプライアンス体制は万全だろうか?」「内部統制の具体的な構築方法が分からない」といった疑問を抱えています。
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特に、内部統制の強化は法的リスクを回避し、効率的な業務運営を実現するという意味でも欠かせません。この記事では、コンプライアンスと内部統制の基本的な概念から、実際に強化するための具体的な手順や導入方法までを詳しく解説します。現在進行中で経理や内部統制関連業務に従事している人や興味がある人は、ぜひ参考にして下さい。
コンプライアンスとは
まず、コンプライアンスの基本的な意味と、守る目的について解説します。言葉自体は有名ですが、意味をはっきり知らないという人は、ぜひここで理解しましょう。
コンプライアンスの意味
コンプライアンスとは、法律や規則などの外部からの要請に従うことで、企業が守らなければならない義務や基準を指す言葉です。守らなければならない義務や基準には以下のものが含まれます。
- 法令
- 条例
- 社内規範
- 社会規範
- 企業倫理
簡単に言うと「決まりを守ること、もしくは守るべき決まり」と理解しておきましょう。
コンプライアンスを守る目的
コンプライアンスを守る目的を一言でまとめると「社会的信頼を獲得し、長期的に成功するために不可欠であるから」です。
まず、法令違反や不祥事を起こさないためには法令や条例、社内・社会規範を守り、倫理に基づいた行動をしなくてはいけません。仮に、企業のコンプライアンス違反が発覚すると、法的に罰則が科せられる可能性があります。加えて、取引先や消費者からの信頼を失い、取引の打ち切りや不買運動につながりかねません。
分かりやすく言うと「決まりも守れない企業とは関わりたくない」という嫌悪感を抱かせるため、信頼回復には長い年月がかかります。このことが引き金となり、大幅な事業縮小や廃業、倒産などの深刻なトラブルを招きかねないため、些細なコンプライアンス違反でも見逃さない意識が重要です。
内部統制とは
次に、コンプライアンスと密接な関係を有する言葉である「内部統制」について解説します。
内部統制の意味
内部統制とは、企業が事業活動を適正かつ効率的に行うために、経営者が整備・運用する仕組みのことを指します。より具体的には、以下の社内管理体制が適切に機能することで、高い指揮・監督機能を有する状態と考えましょう。
- 取締役会
- 取締役
- 監査役会
- 監査役
- 内部監査
- 社内組織
- 社内規定
- ITシステム
- 経営計画(組織運用・制度運用)
なお、金融庁「財務報告に係る内部統制の評価および監査の基準」によれば、以下の4つが、内部統制で達成すべき目的であるとされています。
- 業務の有効性および効率性
- 財務報告の信頼性
- 事業活動にかかわる法令等の遵守
- 資産の保全
また、内部統制については、以下の記事で詳しく解説しているので、参考にして下さい。
内部統制が必要な理由
内部統制が必要な理由を一言でまとめると「企業の事業活動にプラスになるため」です。
仮に、内部統制が整備されていなければ、従業員の不正や法令違反が起きても、そのまま放置され、さらに深刻な事態に至るまで気付かれないかもしれません。深刻な事態にまで至らなかったとしても、その事実が他の従業員や株主などの関係者に知られれば、反発は免れないでしょう。
しかし、内部統制が整備されていれば、従業員の不正や法令違反を防止でき、企業は事業活動を適正かつ効率的に行えます。結果として、企業に対する信頼を保つことができ、事業活動においてもプラスになるはずです。
内部統制を構築すべき企業
内部統制を構築すべき企業については、法律で明確な定めがあります。
まず、金融商品取引法第24条によって、上場企業は有価証券報告書と共に内部統制報告書を提出しなくてはいけません。また、会社法362条5項によれば、大会社(資本金が5億円以上または負債額が200億円以上である)は、取締役会において内部統制の整備が義務付けられています。さらに、会社法436条によれば、監査役設置会社では、監査役による内部統制システムの監査を受けなくてはいけません。つまり、上場企業やいわゆる大会社、監査役設置会社では、内部統制が構築されていることが前提で書類の提出を含めた義務が課せられています。
一方、これらの条件に当てはまらない中堅・中小企業では、内部統制の構築は義務ではありません。しかし、将来上場を目指す企業であれば、内部統制を整備しないことによるリスクを回避するためにも、構築する価値はあるでしょう。
内部統制とコンプライアンスの関係性
内部統制とコンプライアンスは全く違う概念ではあるものの、実は密接に関係しています。簡単にまとめると、内部統制は企業が業務を進めるにあたっての「望ましいプロセス、システム、仕組み」であるのに対し、コンプライアンスは内部統制などによって企業が守らなければならない「あるべき姿」です。つまり、内部統制の仕組みを構築することで、結果としてコンプライアンスが強化されるという意味で、関係を有しています。
内部統制によるコンプライアンスを強化するメリット
内部統制の整備によりコンプライアンスを強化することには、さまざまなメリットがあります。ここでは、具体的なメリットとして以下の3点について解説します。
- 企業のブランドイメージが向上する
- 株主の信頼を獲得できる
- 従業員とのトラブルリスクを抑えられる
企業のブランドイメージが向上する
まず「企業のブランドイメージが向上する」ことがメリットとして挙げられます。コンプライアンスが強化されれば、企業は健全に事業活動を行えるようになる上に、従業員のモラルも向上していくためです。
さらに、近年は企業のコンプライアンスへの取り組みに対する社会的な関心が高まっています。コンプライアンスに対する取り組みが活発な企業であれば「信頼に値する会社」として認知され、企業のブランドイメージにとってもプラスです。
逆に、コンプライアンス違反が発覚すると、企業のブランドイメージが毀損してしまいます。「信頼できない企業」と思われないよう、まずはコンプライアンス違反を起こさない体制を構築しましょう。
株主の信頼を獲得できる
内部統制を整備することは、株主の信頼を獲得するためにも役立ちます。内部統制を整備することで、財務報告により高い信憑性を持たせられることに加え、業務の有効性や効率性も高められ、結果として企業の透明性も高くなるからです。
株主から信頼される企業になるためには、内部監査や外部監査の導入も検討しましょう。業務が適切に進められ、適切な情報開示がなされていることを証明できるため、より強く「信頼に値する会社」であることを印象付けられます。
なお、内部監査とは企業内部の独立した組織が、効率的かつ適切に業務が実施されているかをチェックすることです。これに対し、外部監査は、監査法人や公認会計士が企業の財務諸表について、適正な開示が行われているかを証明するために行います。それぞれの項目について、詳しくは以下の記事で解説しているので参考にして下さい。
従業員とのトラブルリスクを抑えられる
内部統制を整備することは、従業員とのトラブルリスクを抑えるためにも役立ちます。結果として、社内規定等の業務ルールなど、従業員が何を遵守して業務をすべきかという指針が明確になるためです。
つまり「何をしてはいけないか」がはっきりするため、従業員も業務を進める上で判断に迷うことがなくなります。法令違反や不祥事を未然に防ぐという意味でも重要であるため、コンプライアンス意識を日常的に従業員に浸透させておきましょう。
また、内部統制が整備されれば、従業員にとっても働きやすい企業になります。サービス残業やハラスメントが抑制される上に、人的資源に関する方針が定まるからです。従業員が適切に評価されることで、業務に対するモチベーションが向上すれば、企業と従業員の双方にとってプラスになります。
効率的に内部統制でコンプライアンスを強化する方法
内部統制の整備は、個々の企業ごとに適した方法があるため、取捨選択して取り入れましょう。ここでは、効率的に内部統制の整備を行い、コンプライアンスを強化できる具体的な方法として、以下の4つを紹介します。
- ワークフローシステムを導入する
- ERPを導入する
- 企業行動規範や企業理念を整備する
- 従業員へのコンプライアンス教育を実施する
ワークフローシステムを導入する
1つ目の方法は、ワークフローシステムの導入です。
前提として、ワークフローとは「Work(仕事)」と「Flow(流れ)」を組み合わせた造語です。仕事の流れ、もしくは仕事の流れを図示したものと考えて下さい。従前、ワークフローでは紙ベースで情報伝達、承認、決裁が行われてきました。しかし、この方法では書類が他の書類に紛れて、いつまでも承認や決裁が行われなかったり、書類自体が紛失・改ざんされたりするというリスクがあります。
しかし、昨今ではパソコンやインターネットが普及したことで、紙ベースで行われていた手続きの電子化が進みました。そして、手続きの電子化を行うためのシステムがワークフローシステムです。ワークフローシステムでは、システム上で情報伝達、承認、決裁を進めていくため、履歴が残ります。「今、どこまで進んでいるか」を当事者間で確認できることに加え、改ざん・紛失のリスクの低減が可能です。紙媒体でのワークフローの場合よりもコンプライアンスが強化できるという大きな強みがあるため、積極的に導入を検討しましょう。
なお、TOKIUMでもワークフローシステムとして支出管理プラットフォームを扱っているので、以下のリンクから内容をご確認下さい。
ERPを導入する
2つ目の方法は、ERPの導入です。ERPとは「Enterprise Resource Planning」の略語で、自社の経営情報を集約するシステムの総称として用いられています。日本語では「統合基幹業務システム」や「基幹系情報システム」と呼ばれ、以下に掲げるような企業内のあらゆる情報の一元管理が可能です。
- 営業情報
- 物流情報
- 経理情報
- 財務情報
なお、ERPの導入により内部統制が整備されるだけでなく、生産性の向上も見込めます。個々のシステムによって詳細は異なりますが、ERPの中には外部サービスと連携可能なものもあるため、自社が利用しているシステムに合わせて選びましょう。
企業行動規範や企業理念を整備する
3つ目の方法は、企業行動規範や企業理念の整備です。企業行動規範とは、企業の倫理基準と行動原則を示します。簡単に言うと、従業員が日常業務において守るガイドラインです。また、企業理念とは企業の根幹となる考え方や価値観のことで、「なぜ、この企業が存在するのか」「何を目指すのか」を表しています。
企業行動規範は、企業文化や時代の流れと一致していなくてはいけません。最初に決めた際は何ら問題がなかったとしても、時間が経過するにつれそぐわなくなる可能性があります。そのためにも、定期的な見直しと更新が必要です。また、企業行動規範があっても、従業員が理解し、具体的な行動に落とし込めていないと意味がありません。そのため、企業行動規範を作成・改善したらそのままにするのではなく、従業員に定期的に教育していきましょう。
従業員へのコンプライアンス教育を実施する
4つ目は、従業員へのコンプライアンス教育を実施することです。コンプライアンスという言葉自体は社会で広く用いられています。そして、従業員の中にも、コンプライアンスという言葉を知っている人は少なくないでしょう。
しかし、具体的に何をすればコンプライアンスを遵守できているのか、何をしたら違反になるのかまで理解できていないと、いつかはトラブルが起き得ます。そこで、コンプライアンスについて定期的な研修と教育、行動規範に基づいた意思決定の促進、違反事例の共有と分析を行うことが重要です。これにより「何をどうすればコンプライアンス的に問題がないか」を従業員に浸透させられます。
内部統制とコンプライアンスに関する注意点
内部統制とコンプライアンスに関する注意点として「仕組みを構築後、手を加えないと形骸化する」ことが挙げられます。例えば、内部監査部門を設置しても、経営者の取り組みを何ら確認することがなければ、設置した意味がありません。このような状態では「何をやっても変わらない」と、従業員のコンプライアンス遵守に対する意識も薄れていきます。
内部統制の仕組みを構築したことに意味を持たせるなら、役員を初めとした経営陣が、内部統制の整備・運用を行うという強い意志を持ち進めていかなくてはいけません。また、従業員に対しても、教育・トレーニングを行い、コンプライアンス意識を高めるよう働きかける必要があります。不正を早い段階で見抜き、是正するためには内部通報システムの設置や活用も有効でしょう。いずれにしても、内部統制の形骸化を防ぐためには、社会や企業の変化に合わせ、内部統制の整備や見直しを定期的に行うことが有効です。
内部統制の強化策は複数組み合わせると効果的
内部統制とは、企業が事業活動を適正かつ効率的に行うために、経営者が整備・運用する仕組みです。これに対し、コンプライアンスとは、法律や規則などの外部からの要請に従うことで、企業が守らなければならない義務や基準、もしくはそれらを遵守することを指します。
内部統制の整備によりコンプライアンスを強化すれば、企業のブランドイメージを向上させると共に、株主や従業員からの信頼を勝ち取ることが可能です。
内部統制によるコンプライアンスを強化するためには、ワークフローシステムやERPの導入、企業行動規範や企業理念の整備、従業員への教育が有効になります。これらの施策は複数組み合わせて行うとさらに効果的であるため、システムやツールの導入もぜひ併せてご検討下さい。