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ガバナンスとは、経営者や社員が適切なルールや倫理観に基づいて企業を運営し、社会的な責任を果たすための仕組みのことです。日本語では「統治・支配・管理」を表し、国や企業をまとめ上げ治める仕組みであると考えましょう。
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そして、ガバナンスが機能していないと、企業内の管理体制が機能不全に陥ります。つまり、内部で不正を働く社員や役員がいたとしても知られることなく放置され、気が付いたら自主廃業や倒産など深刻な事態に至ることも珍しくありません。企業が安定して経営を続けていくには、ガバナンスを機能させることは必要不可欠です。この記事を読むことで、ガバナンスの重要性を理解し、ガバナンスを強化する方法が分かるので、ぜひ最後までお読み下さい。
ガバナンスとは
ガバナンスとは、企業が目的を達成するために経営資源を有効活用し、リスクを適切に管理しながら、健全な経営を維持していくための仕組みを指します。企業経営においては「コーポレートガバナンス」や「企業統治」と呼ばれることもありますが、基本的には同じ意味と考えてかまいません。以降において、ガバナンスと混同されがちな単語との違いについて詳しく解説します。
コンプライアンスとの違い
コンプライアンスは、法律や規則などの外部からの要請に従うことで、企業が守らなければならない義務や基準を表す言葉として使われています。具体的には、以下のものが含まれると考えましょう。
- 法令
- 条例
- 社内規範
- 社会規範
- 企業倫理
コンプライアンスは「決まりに従うこと」であるのに対し、ガバナンスは「企業が自らを統治すること」であり、基本的な意味が全く異なります。
ただし、コンプライアンスを維持・改善するための管理体制がガバナンスともいえるため、両者は密接な関係を有しています。
内部統制との違い
内部統制とは、企業が事業活動を適正かつ効率的に行うために、経営者が整備・運用する仕組みのことです。以下の4つの目的を達成するための手段として位置づけられています。
- 業務の有効性および効率性
- 報告の信頼性
- 事業活動に関わる法令などの遵守
- 資産の保全
なお、内部統制はガバナンスの一要素であるため、意味こそ違うものの、密接な関係を有している言葉であると言えます。
内部統制については、以下の記事でも詳しく解説しています。
リスクマネジメントとの違い
リスクマネジメントとは、企業が事業活動に伴うさまざまなリスクを認識、評価、分析し、適切な対策を講じることで、リスクを最小限に抑え、事業の継続性を確保することを目的とした取り組みのことです。ガバナンスは企業内の管理体制を意味する言葉ですが、その中にリスクマネジメントというリスクに対応するための手法が組み込まれていると考えると分かりやすくなります。
ガバナンス関連で知っておきたい用語
より深くガバナンスを理解するために知っておきたい言葉として、以下の5つを詳しく解説します。
- ガバナンス効果
- ガバナンス強化
- ガバナンスプロセス
- ガバナンスモデル
- コーポレートガバナンス・コード
ガバナンス効果
ガバナンス効果とは、ガバナンスが適切に機能することで得られる効果のことです。具体例として、以下の効果が挙げられます。
- 企業価値の向上
- 企業の持続的な成長力や競争力の上昇
- 不正リスク
これらの効果については、後述する「ガバナンスが機能している企業のメリット」で解説するので、そちらもぜひ参考にして下さい。
ガバナンス強化
ガバナンス強化とは、ガバナンスを強化するプロセスのことです。具体例として以下のことが挙げられます。
- 企業の行動規範や倫理憲章の作成
- 社外取締役・監査役の設置
- 内部監査の実施
ガバナンス強化は、企業が持続的な成長と競争力を維持するために不可欠な取り組みと言えます。より詳しくは、後述する「ガバナンスを強化する方法」で解説しているので、ぜひ参考にして下さい。
ガバナンスプロセス
ガバナンスプロセスとは、企業がガバナンスを効果的に機能させるために実施する必要がある具体的な手順や仕組みのことです。より簡単にいうと、以下の手順や仕組みを整備して、実践していくと考えましょう。
- 目標設定
- 計画立案
- 実行・運営
- 監視・評価
- 改善
なお、整備する際には透明性、説明責任、継続的改善に注意しなくてはいけません。つまり「何のためにやるのか」を明らかにした上で、改善すべき点を見つけ、改善を続けていくことが不可欠です。
ガバナンスモデル
ガバナンスモデルとは、企業がガバナンスを実施するために整備した仕組みやアプローチ手法のことです。企業の目的や目標に沿って、異なる意思決定の方法や管理・監視方法を設定する必要があることが大きな特徴です。そのため、企業によって望ましいガバナンスモデルは個々に異なります。
コーポレートガバナンス・コード
コーポレートガバナンス・コードとは、東京証券取引所が上場企業に対して示している企業統治に関する行動規範です。企業価値の持続的な向上を目指すための指針を示しているもので、以下の5つの原則が定められています。
- 原則1. 株主の権利・平等性の確保
- 原則2. 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
- 原則3. 適切な情報開示と透明性の確保
- 原則4. 取締役会等の責務
- 原則5. 株主との対話
「原則1. 株主の権利・平等性の確保」とは、企業の実質的な所有者である株主の権利と平等性を確保することを求める原則を指します。具体的に講じることが望ましい施策の例を紹介しましょう。
- 資本政策について、基本的な方針を説明する
- 株主の判断に資するべく、的確な情報を提供する
「原則2. 株主以外のステークホルダーとの適切な協働」とは、企業を取り巻く利害関係者=ステークホルダーとの協議の必要性に言及した原則です。つまり、以下のステークホルダーの権利や立場を守り、協働することが企業の取締役会や経営陣に求められていると考えましょう。
- 社員
- 顧客
- 取引先
- 債権者
- 地域社会
「原則3. 適切な情報開示と透明性の確保」とは、企業の財務情報および非財務情報について、適切な開示を求める原則のことです。具体的には、以下の情報を適切に開示することが推奨されていると考えましょう。
- 企業の経営理念、経営戦略、経営計画
- コーポレートガバナンス・コードの各原則を踏襲した、コーポレートガバナンスに対する基本的な考え方・方針
- 経営陣幹部・取締役の報酬決定に関する方針・手続き
- 経営陣幹部・取締役・監査役の選任・解任に関する方針と手続き
- 個々の経営陣幹部・取締役・監査役の選任・解任に関する詳細な説明
「原則4. 取締役会等の責務」とは、取締役会に対し、独立かつ客観的な立場から高い実効性を有する監督を行うことが求められる、という原則を指します。企業が持続的に成長するためには、取締役会が適切な意思決定を行うことが不可欠です。そして、適切な意思決定のためには監督機能が適切に働かないといけないため、取締役会が実効性のある監督を行わないと意味がなくなります。
「原則5. 株主との対話」とは、企業の持続的成長と企業価値の向上に役立てるべく、株主総会以外にも建設的な対話の場を設けることが望ましい、という原則を指します。
ガバナンスが整備され機能している企業のメリット
ガバナンスが整備され、機能している企業のメリットとして以下の点が挙げられます。
- 企業価値の向上
- 企業の持続的な成長力や競争力の向上
- 不正の防止に役立つ
- 資金調達の際に有利に働く
企業価値の向上
コーポレートガバナンスが適切に機能している企業では、その企業価値が向上していきます。企業価値とは、企業が将来にわたって生み出す利益の価値を合計したもののことです。コーポレートガバナンスが機能している企業であれば、以下の5つの効果がもたらされるため、結果として企業価値が向上していきます。
- 経営の透明性の上昇
- 経営の効率化
- リスクマネジメントの強化
- 不正の防止力の向上
- 社会的責任を果たしやすくなる
企業の持続的な成長力や競争力の向上
ガバナンスが整備され、機能している企業であれば、持続的な成長力や競争力の向上が見込まれるのも大きなメリットです。企業価値が高い企業は、株主や社員、取引先などのステークホルダーにとっても価値があると判断されます。より簡単にいうと「長続きし、これからも成果を挙げていくであろう企業」と判断されるため、成長が見込める上に、他社と比較して優位に立てる可能性が高い、と考えましょう。
不正の防止に役立つ
ガバナンスが整備され、機能している企業のメリットとして「不正の防止に役立つ」ことも見逃せません。ガバナンスが未整備で機能していない企業に起こりがちなトラブルとして、「役員や社員が不正を働いていても、それが表沙汰になりにくい」ことが挙げられます。役員や社員が不正を働きやすい環境にある上に、他の役員や社員がそれを見つけても見て見ぬふりをする、というのは珍しくありません。結果として不正の発覚が遅れ、状況次第では自主廃業や倒産を余儀なくされることもあり得ます。
一方、ガバナンスが整備されている企業では以下の3つが実施されており、企業の不正防止にも多大な貢献をしていますます。
- コンプライアンスの徹底
- リスクマネジメント
- 内部統制の強化
資金調達の際に有利に働く
「資金調達の際に有利に働く」ことも、ガバナンスが整備され機能している企業のメリットです。ガバナンスが整備され、機能している企業であれば、企業が将来にわたって生み出す価値は大きくなる上に、いわゆる「不祥事」も起きにくいと考えられます。株価が急落する要素が少ない企業ともいえるため、株主が安心して投資することが可能です。さらに、株主の投資によって株価が上昇すれば、より企業価値の高い企業として認知してもらうことができるため、資金調達においてもプラスになります。
ガバナンスが機能していないと起きる問題点
ガバナンスが機能していないと起きる問題点は、前述したメリットと逆のことが起きると考えると分かりやすくなります。ここではより具体的な問題点として、以下の4点について解説します。
- 社員の不祥事が発生するリスクが高まる
- 経営者の私利私欲が働くリスクが高まる
- 企業の体裁を保つための不正のリスクが高まる
- 世界経済のグローバル化に対応できなくなる
社員の不祥事が発生するリスクが高まる
代表的な問題点として挙げられるのが「社員の不祥事が発生するリスクが高まる」ことです。ガバナンスが機能していないと自浄作用が働かないため、社員が不正を働いていても、深刻な事態に至るまで発見されないことは十分にあり得ます。そして、社員の不祥事が発覚すると、以下の2つの事態が懸念されます。
- 企業の社会的信頼が失墜し、顧客や取引先との信頼関係が破壊される
- ブランドイメージが悪化し、訴訟・行政処分による損害賠償が科せられる
企業とそこで働く社員の行動規範・倫理憲章が明確になっており、かつ、経営陣も不正やコンプライアンス違反を黙認しないという厳しい姿勢で臨んでいれば、社員の倫理観は高まっていくはずです。結局、個々の社員が正しい倫理観を持てない企業では、不祥事が発覚するのも時間の問題と言えるでしょう。
経営者の私利私欲が働くリスクが高まる
経営者の私利私欲が働くリスクが高まることも、ガバナンスが機能不全に陥った企業で起きるトラブルと言えます。例えば、経営者が横領や利益相反取引、情報漏えいに手を染めることが典型例ですが、顧客や取引先、社員からの信頼は失墜しかねません。企業利益が大きく損なわれるため、以下の施策を講じることで抑止力の向上が望まれます。
- 経営陣の報酬体系の見直し
- 社外取締役の導入
- 内部告発制度の整備
- コンプライアンス体制の強化
企業の体裁を保つための不正のリスクが高まる
ガバナンスが機能していないと起きる問題点として、「企業の体裁を保つための不正のリスクが高まる」も挙げられます。より簡単にいうと「体裁を保つためなら、なりふり構わない事態が起きる」ということです。例えば、経営目標を達成するために利益を水増し計上するなどの粉飾決算や、利益を確保するための脱税・談合が挙げられます。当然ですが、これらも発覚した場合、企業の信頼は地に堕ちるため避けなくてはいけません。
世界経済のグローバル化に対応できなくなる
世界経済のグローバル化に対応できなくなることも、ガバナンス不全の企業ならではのデメリットと言えます。企業が海外の企業と取引を行うことは、もはや珍しくありません。しかし、ガバナンスが効いていない企業は、経営の健全性・透明性・公平性、業務執行の効率性を確保できないため、いずれは取引を打ち切られるなど、深刻なトラブルに見舞われる可能性があります。結果として、経営状況が極めて悪化したり、廃業や倒産も視野に入れなくてはいけなくなったりするため要注意です。
ガバナンスを強化する方法
ガバナンスが正常に機能していることは、企業が事業を続けていくためには不可欠といえます。そこでここでは、何をすればガバナンスが強化できるのか、具体的な方法として以下の5つを解説します。
- 企業の行動規範や倫理憲章を作成し徹底する
- 内部統制を構築・強化する
- 内部監査を実施する
- 社外取締役や社外監査役を設置する
- システムやツールを導入する
企業の行動規範や倫理憲章を作成し徹底する
企業の行動規範や倫理憲章を作成し、社員に周知して、企業全体で監視・監督する体制を構築することは、ガバナンス強化のために不可欠です。つまり、行動規範や倫理憲章をつくったとしても、社員がそれを理解し、行動に落とし込んでいなければ意味がありません。また、行動規範や倫理憲章に反する行動をしている社員がいた場合は、可及的速やかに発見し改善を求めないと、より大きなトラブルにつながります。
内部統制を構築・強化する
内部統制とは、企業が効率的かつ健全に運営されるための仕組みのことです。具体的には以下の社内管理体制が相互に機能することで、高い指揮・監督機能を有するように整備することを指します。
- 取締役
- 取締役会
- 監査役
- 監査役会
- 内部監査
- 社内組織
- 社内規定
- ITシステム
- 経営計画(組織運用・制度運用)
ガバナンスの強化のためには、内部統制の整備は不可欠です。なお、内部統制の強化については以下の記事で詳しく解説しているので、参考にして下さい。
内部監査を実施する
内部監査とは、不正防止・低減や業務効率化を目的として、企業の監査役や担当者が行う監査を指します。ガバナンスの強化には、不正の防止・早期発見が不可欠です。そこで不正がないかチェックすること=内部監査を行うことは、ガバナンスの強化という意味でも重要になります。
なお、内部監査については以下の記事で詳しく説明しているので参考にして下さい。
社外取締役や社外監査役を設置する
社外取締役や社外監査役を設置することも、以下のメリットがあるという意味でガバナンスの強化にとってはプラスになります。
- 客観的な視点による経営監視
- 専門的な知識や経験による経営判断への助言
- 経営の透明性の向上
- 投資家や債権者からの信頼の向上
システムやツールを導入する
システムやツールを導入することも、ガバナンスの強化や内部統制における課題を解決するために効果的です。取締役など役員や社員が行動規範や倫理憲章に従い、不正を許さないという強い意志を持つことは、ガバナンスの強化にとって不可欠となります。
ただし、個々人の意識を高めることだけでは限界があるため、システムやツールで有効な内部統制を構築することを目指しましょう。支出管理プラットフォームTOKIUMでは、有効な内部統制を構築すると同時に、セキュリティやコンプライアンスを強化します。
ガバナンスの整備は企業の成長に不可欠
ガバナンスとは、企業が目的を達成するために経営資源を有効活用し、リスクを適切に管理しながら、健全な経営を維持していくための仕組みです。ガバナンスが機能している企業では、企業価値が高く保たれ、持続的な成長や競争力の向上が見込めます。また、社会的に信頼される企業となりうることから、不正の防止や有利な資金調達にも役立つことが大きなメリットです。
ガバナンスを強化する方法として、企業の行動規範や倫理憲章の作成・徹底、内部統制の構築や内部監査の実施、社外取締役・監査役の設置を検討しましょう。さらに、システムやツールの導入は、内部統制の構築やセキュリティやコンプライアンスの強化にも役立つため、前向きに検討する価値があります。