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テレワークの浸透により電子印鑑の導入を検討する企業が増えていますが、「法的な効力はあるのか」「電子署名との違いは何か」という疑問を抱える方も多いのではないでしょうか。従来の印鑑文化が根付く日本では、電子印鑑への不安や戸惑いを感じるのも当然です。
本記事では、電子印鑑の法的効力や電子署名との違い、導入時の注意点を分かりやすく解説します。これを読めば、自社に最適な電子印鑑の選び方が明確になるはずです。
電子印鑑が法的効力を担保するには一定の条件を満たす必要がある
電子印鑑は、単なる印影のデジタル画像では法的な効力は認められません。法的効力を持たせるためには、2001年に施行された電子署名法が定める要件を満たす必要があります。
電子署名法第2条では、以下の2つの要件を満たすことが求められています。
- その情報が、電子署名をした本人の作成によるものであることを示すためのものであること
- その情報について、改変が行われていないかどうかを確認できるものであること
これらの要件を満たした電子署名が付された電子印鑑であれば、電子署名法第3条により、その電磁的記録は「真正に成立したものと推定する」とされ、従来の印鑑と同様の法的効力が認められます。
したがって、企業が電子印鑑を導入する際は、単なる印影画像ではなく、電子署名機能を備えた電子印鑑サービスを選択することが重要です。
電子印鑑に法的効力があると認められる条件
電子印鑑に法的効力が認められるためには、e‐文書法で定められた以下の5つの要件を満たす必要があります。
- いつでも表示・印刷ができること
- 紙の文書と同一のものであること
- 保存義務がある期間内に、改ざんや消去がされないこと
- セキュリティ対策が講じられていること
- すぐに検索できること
また、電子署名法に基づき、以下の2点も必要となります。
- 本人性の確認:電子署名が、確かに本人によって行われたことを示せること
- 非改ざん性:電子署名後に文書が改変されていないことを確認できること
これらの要件を満たすためには、国が認定した認証事業者が発行する電子証明書を活用するなど、適切な技術的措置を講じる必要があります。
電子印鑑が使用可能な書類
電子印鑑が使用できる書類は以下の通りです。
【電子印鑑が使用可能な書類】
- 見積書
- 納品書
- 請求書
- 領収証
- 帳簿
- 決算関係書類
- 預金通帳
- 建築図面
- 契約書
- 送り状
- 議決権行使書
- 総会議事録
- 取締役会議事録
- 組合員名簿
ただし、手書きの文書には電子印鑑は適用できません。また、使用前に取引先が電子印鑑での取引に対応しているか確認することが重要です。
なお、2022年1月の電子帳簿保存法改正により、電子取引データの保存が原則として義務化され、電子印鑑の活用範囲は今後さらに広がると予想されます。
そもそも電子印鑑とは?
電子印鑑とは、電子文書に押印できるデータ化された印鑑のことです。大きく分けて2種類存在します。
- 印影を画像化した電子印鑑
実際の印鑑をスキャンしたり、フリーソフトで作成したりした単純な画像データです。作成は簡単ですが、複製が容易で本人確認が困難という欠点があります。
- 識別情報を付与した電子印鑑
印影データに、作成者情報やタイムスタンプなどの識別情報が組み込まれているものです。専用サービスで作成する必要がありますが、セキュリティが確保されています。
普通の印鑑との違い
普通の印鑑は、民事訴訟法第228条4項により、押印された文書は本人が作成したと推定される効力があります。一方、電子印鑑の場合は、2001年施行の電子署名法に基づき、電子証明書(電子署名)が付与されている場合のみ、普通の印鑑と同等の法的効力が認められます。
つまり、単なる印影画像では法的効力は認められず、本人確認や改ざん防止のための技術的措置が必要となります。
電子署名との違い
電子署名とは、電子文書が確かに本人によって作成されたものであり、かつ改ざんされていないことを証明する電子的な認証方式です。電子印鑑と電子署名の主な違いは以下の通りです。
【性質の違い】
- 電子印鑑:印影そのもののデータ(モノ)
- 電子署名:文書の正当性を証明する手段(仕組み)
【証明力の違い】
- 電子印鑑:単体では本人性の証明が困難
- 電子署名:暗号技術により高い証明力を持つ
そのため、重要な文書では電子印鑑と電子署名を組み合わせて使用することが推奨されます。電子署名があれば、文書の改ざんがあった場合にも即座に検知することが可能です。
電子印鑑を使用するメリット
電子印鑑を導入することで、以下のような大きなメリットが得られます。
- 押印に関する業務を効率化できる
- 印刷・郵送コストを削減できる
- スピーディーな取引が実現できる
- 印章の紛失リスクがなくなる
- 書類の検索・閲覧が容易になる
これらのメリットが生まれる理由を具体的に説明します。
まず、押印業務の効率化については、従来のように印刷→押印→スキャン→保管という工程が不要になります。たとえば1件あたり5分かかっていた押印作業が、電子印鑑では3分の1程度に短縮できます。年間で考えると、大幅な時間短縮が実現できます。
コスト面では、用紙代・インク代などの印刷コストや、郵送費用が削減できます。また、FAX送信料や印紙税も不要となります。
取引のスピード向上については、決裁者が不在でも押印できるため、取引の進行が滞りません。また、郵送のタイムラグもなくなり、即座に相手方へ書類を送付できます。
さらに、電子データで一元管理できるため、書類の検索性が向上し、保管スペースも不要になります。これにより、業務効率の大幅な改善が期待できます。
このように、電子印鑑の導入は、業務効率化とコスト削減の両面で大きなメリットをもたらします。デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進する企業にとって、重要な取り組みの一つといえるでしょう。
以下の記事では、電子承認によるスピーディで安全な承認プロセスを実現する方法を詳しく解説していますので参考にしてください。
電子印鑑を使用するデメリット
電子印鑑の導入には、以下のようなデメリットがあります。
- セキュリティの脆弱性がある
- 導入・運用コストがかかる
- 普及率がまだ低い
- 一部の取引先が受け入れてくれない可能性がある
これらのデメリットについて、具体的に説明します。
最も重要な課題はセキュリティ面です。特に印影画像のみの電子印鑑は、複製や改ざんが容易で、なりすましのリスクがあります。このため、電子証明書の導入など、セキュリティ対策のための追加コストが必要となります。
また、日本の商習慣として「紙の契約書に実印を押印する」という文化が根強く残っているため、取引先によっては電子印鑑の使用を認めないケースがあります。特に重要な契約や、金融機関との取引では、従来通りの押印を求められることも多いでしょう。
さらに、電子証明書付きの電子印鑑サービスを導入する場合、初期費用やライセンス料などのランニングコストが発生します。
このように、電子印鑑の導入にはいくつかの課題がありますが、適切なセキュリティ対策を講じ、取引先との事前確認を行うことで、これらのデメリットは最小限に抑えることができます。
電子印鑑を使用する際の注意点
電子印鑑は業務効率化やペーパーレス化を推進する上で有効なツールですが、導入に関しては慎重な検討が必要です。 特に、取引先との関係性やセキュリティ面での配慮は重要なポイントとなります。
- 取引先が電子印鑑に対応しているか
- セキュリティ面がカバーできているか
以下では、電子印鑑を使用する際の主要な注意点について解説します。
取引先が電子印鑑に対応しているか
電子印鑑の使用可否は、取引先企業によって対応状況が大きく異なります。特に中小企業や零細企業では、従来の紙と実印による業務スタイルを継続しているケースが多く見られます。それでも電子認証のセキュリティ対策や運用システムへの理解が慎重な場合、電子認証の使用を認めないこともあります。
そのため電子認証を導入する前に、必ず取引先に対して電子文書での取引や電子印鑑の使用について事前確認を行う必要があります。取引先が求めるセキュリティレベルなども併せて確認し、スムーズな取引関係を維持することが重要です。
セキュリティ面がカバーできているか
電子印鑑を活用する際、最も重要な注意点となるのがセキュリティ面です。無料のソフトやアプリを使って作成した電子印鑑は、コピーが簡単で第三者による無断使用のリスクが高くなりますこれでは印鑑が本来持つ「本人性の証明」という役割を果たすことができません。
ビジネスでの活用を考える場合は、電子印鑑の専用サービスを利用し、印影データに押印者の識別情報やタイムスタンプを付与するなど、適切なセキュリティ対策を期間内に行うことが大切です。誰が、どの文書に押印したのかを明確に記録し、改ざんや不正使用を防ぐことができます。
以下の記事では、契約書を電子化する際のメリットや注意点を詳しく解説していますので参考にしてください。
まとめ
デジタル化が進む現代において、電子印鑑の活用は業務効率化の重要な鍵となります。ただし活用の際は、一定の条件を満たす必要があります。
信頼性の高い電子契約サービスを活用し、取引先との事前確認やセキュリティ対策を適切に行うことで、安全かつ効率的なビジネスコミュニケーションを実現することが可能です。