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機械設備や車両など、事業で使う高額な資産を購入した際の会計処理に悩む経営者や個人事業主は多いものです。減価償却の仕組みを理解すれば、高額な支出を上手に経費計上でき、節税対策にも生かせます。
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この記事では、減価償却のメリットや計算方法を、具体例を交えてわかりやすく解説します。経理の初心者でも理解できる内容となっています。
減価償却とは
事業経営において大切な会計処理の一つが減価償却です。例えば、配送業を営む企業が1,000万円のトラックを購入した場合、この金額を一度に経費として計上すると、その年の会計は大きな赤字になってしまうでしょう。しかし実際には、このトラックは何年も使い続けて収益を生み出すことができます。
そこで資産価値が落ちていく分を、耐用年数に応じて少しずつ経費として計上する仕組みが減価償却です。経費を分散することで、経営状態を正確に把握できるようになります。
減価償却できる資産
会社で使用する資産のうち、時間とともに価値が減少するものが減価償却の対象となります。建物や建物に付随する設備、事業用の機械や装置、パソコンなどの事務機器、そして営業用の車両などが代表的な例です。
また目に見える資産だけでなく、ソフトウェアや特許権、商標権といった無形の資産も減価償却できます。さらに農業や畜産業で使用する家畜や果樹なども対象となり、事業形態に応じて幅広い資産を経費として計上できるのです。
【減価償却できる資産】
- 建物、機械装置、営業車両などの有形固定資産
- ソフトウェア、特許権、商標権などの無形固定資産
- 家畜、果樹などの生物資産
- 工具、器具、備品などの事務用資産 など
ソフトウェアの耐用年数については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
減価償却できない資産
一方で、時間が経過しても価値が下がらない資産は減価償却の対象外です。最も代表的な例が土地で、土地は使用していても劣化することはありません。
また骨董品や美術品、書画なども、むしろ時間とともに価値が上がる可能性があるため、減価償却はできません。さらに電話加入権や借地権といった権利も、時間経過による価値の減少がないため対象外です。
なお、事業で使用していない遊休資産や、まだ稼働していない建設中の資産なども減価償却はできないため、注意が必要です。
【減価償却できない資産】
- 土地
- 美術品、骨董品、書画
- 電話加入権、借地権
- 稼働休止中の資産や建設中の資産 など
減価償却を行う目的
事業で使う高額な資産を減価償却せずに一括で経費計上すると、実際の経営状態とかけ離れた会計処理になってしまいます。
3,000万円の工作機械を購入して10年使用する予定があるものの購入年度に全額を経費計上すると、その年は大きな赤字になります。しかし翌年以降は、この機械を使って製品を作り収益を上げているにもかかわらず、機械の経費が計上されないことになってしまいます。
減価償却を行えば、10年間で毎年300万円ずつ経費計上できるため、実際の経営状態に近い形で会計処理ができます。このように、減価償却は会社の経営状態を正しく理解するための大切な会計処理なのです。
経営判断や投資家への説明、金融機関への融資申請などにおいても、減価償却を適切に行うことで信頼性の高い財務諸表を作成することができます。
減価償却のメリット
会社の経営において、減価償却には大きく4つのメリットがあります。まず経費を分割して計上できるため、節税効果が期待できます。次に実際の現金支出を伴わない会計処理のため、会社に資産として残ります。
さらに、収益と費用の関係から正確な損益状況を把握できます。そして法人の場合は、金融機関からの信頼度が高まり、融資を受けやすくなるといったメリットもあります。それぞれのメリットについて、詳しく見ていきましょう。
【減価償却のメリット】
- 節税になる
- 資産が残る
- 損益を把握できる
- 法人の場合、金融機関からの信頼を得やすい
節税になる
減価償却費は経費として認められるため、課税対象となる所得を減らすことができます。1,000万円の機械を10年で減価償却すると、毎年100万円を経費として計上できます。これにより年間の課税所得が100万円減少するため、法人税や所得税の負担を抑えられます。
また中小企業向けの特例では、30万円未満の資産を年間300万円まで一括で経費計上できるため、計画的な設備投資と組み合わせることで、さらなる節税効果も期待できます。
資産が残る
減価償却は会計上の処理であり、実際にお金が支出されるわけではありません。そのため、減価償却費として計上した金額は会社の資産として残ります。例えば500万円の設備を5年で減価償却する場合、毎年100万円を経費計上しますが、実際の現金支出は購入時の1回だけです。
この仕組みにより、会社の中に資金を残したまま経費計上できるため、将来の設備投資や運転資金として活用できる資産を確保することができます。
損益を把握できる
高額な資産を購入した際に一括で経費計上すると、その年は大きな赤字になり、翌年以降は経費が計上されないため、実態とかけ離れた会計処理になってしまいます。
減価償却を行えば、資産を使用する期間に応じて経費を分散できるため、より実態に近い形で損益を把握できます。工場の生産設備なら、設備を使って製品を作り売上を上げている期間と、その設備の経費を計上する期間が一致するため、正確な採算性を把握できます。
法人の場合、金融機関からの信頼を得やすい
金融機関は融資の審査において、企業の財務状況を詳しく確認します。減価償却を正しく行っている企業は、財務諸表が実態を反映しており信頼性が高いと評価されます。
また減価償却費は実際の現金支出を伴わない費用のため、返済能力を判断する際にプラスの要素となります。年間利益が1,000万円で減価償却費が500万円の場合、実質的な資金的余裕は1,500万円と判断されるため、より有利な条件での融資を受けられる可能性が高いです。
減価償却のデメリット
減価償却を行うことで会社の経営状態を正しく把握できる一方で、実務面では課題もあります。特に多くの事業者が感じているのが、税制改正への対応と煩雑な事務作業です。
税制は毎年のように改正され、その都度新しい制度に対応する必要があります。また、資産の種類ごとに耐用年数を確認し、毎年正確に計算して記帳するなど、地道な作業も欠かせません。
とはいえ、これらの課題は会計ソフトの活用や税理士への相談で解決できます。
【減価償却のデメリット】
- 税制の改正への対応が必要
- 手間がかかる
税制の改正への対応が必要
減価償却にまつわる税制は、定期的に見直しや改正が行われます。少額減価償却資産の特例制度は、対象となる資産の金額や適用期限が変更されることがあります。
また、耐用年数や償却率の基準が変わることもあるため、常に最新の税制に注意を払う必要があります。税制改正に気づかないまま古い基準で計算を続けてしまうと、申告内容に誤りが生じる可能性があります。特に経理担当者がいない小規模な事業者にとって、税制改正の情報収集と対応は大きな負担となります。
税理士に相談するなど、専門家のサポートを受けることも検討すべきでしょう。
手間がかかる
減価償却を正しく行うためには、資産ごとの耐用年数を確認し、定額法や定率法といった計算方法を選択し、毎年の償却額を計算しなければなりません。
また、年度の途中で資産を購入した場合は月割り計算が必要になり、計算はさらに複雑になります。事業規模が大きくなるにつれて管理すべき資産も増えていくため、手間も比例して増えていきます。さらに、資産を売却や廃棄する際にも、特別な会計処理が必要です。
このように減価償却には継続的な管理と複雑な計算が必要で、会計ソフトを使用しても一定の手間は避けられません。経理の知識が十分でない事業者にとって、これらの作業は大きな負担となることがあります。
減価償却の計算方法
減価償却の計算方法には、主に「定額法」と「定率法」があります。定額法は毎年同じ金額を償却していく方法で、計算がシンプルなため多くの事業者に選ばれています。
一方の定率法は、初年度に大きな金額を償却し、その後は徐々に償却額を減らしていく方法です。建物や建物付属設備、ソフトウェアなどの無形固定資産は定額法での計算が義務付けられていますが、それ以外の資産は事業者が自由に選択できます。
2つの方法にはそれぞれ特徴があり、事業の形態や経営方針に合わせて選ぶことができます。なお、一度選択した計算方法は継続して使用する必要があり、途中で変更する場合は税務署への届出が必要です。
定額法
定額法は、資産の取得価額を耐用年数で割って、毎年同じ金額を償却する方法です。
定額法のメリットは計算が簡単で、将来の経費計上額が予測しやすいことです。特に長期的な経営計画を立てる際に役立ちます。
■定額法の計算方法 減価償却費 = 取得価額 × 定額法の償却率定額法の償却率 = 1 ÷ 耐用年数 |
取得価額500万円、耐用年数5年の営業車両を購入した場合、毎年100万円ずつ減価償却費として計算します。500万円×0.2(償却率)=100万円となります。
定率法
定率法は、資産の未償却残高に一定の償却率をかけて計算する方法です。
また定率法には「償却保証額」という考え方があります。これは、取得価額に法定耐用年数に基づく保証率をかけた金額で、資産の取得価額の10%相当額です。つまり、資産の価値を取得価額の10%まで償却できることを保証する仕組みです。
定率法は初年度の償却額が大きいため、設備投資を行った年の節税効果が高くなります。特に、技術革新の速い機械装置などは、使用開始直後の価値減少が大きいため、定率法が実態に即していると言えます。
■定率法の計算方法減価償却費 = 未償却残高 × 定率法の償却率 |
取得価額500万円、償却率0.4の営業車両を購入した場合、償却保証額は500万円×0.1=50万円となります。初年度の償却額は500万円×0.4=200万円、2年目は未償却残高300万円×0.4=120万円と計算します。このように毎年の償却額が償却保証額(50万円)を下回る年度からは、残りの金額を耐用年数の残り期間で均等に償却します。
減価償却費の仕訳については、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
減価償却を行う際の注意点
減価償却は経営に役立つ会計処理ですが、いくつかの重要な注意点があります。経営形態によって計算方法が異なり、資産の種類によって耐用年数も変わります。
また、資産を途中で廃棄したり売却したりする際には特別な処理が必要です。これらの注意点を把握していないと、正しい会計処理ができず、税務申告に誤りが生じる可能性があります。ここでは、減価償却を行う際に特に気をつけたい3つのポイントを解説します。
【減価償却を行う際の注意点】
- 法人と個人事業主では減価償却の方法が違う
- 資産によっては耐用年数が異なる
- 減価償却中の資産を廃棄・除去・処分する際の処理に注意
法人と個人事業主では減価償却の方法が違う
法人と個人事業主では、原則として使用する減価償却の計算方法が異なります。法人は定率法が原則とされ、初年度に大きな減価償却費を計上できます。
一方、個人事業主は定額法が原則で、毎年同じ金額を計上します。この違いは税制上の取り扱いによるもので、事業形態によって有利な計算方法が異なるためです。ただし税務署に届け出ることで、法人が定額法、個人事業主が定率法を選択することも可能です。
計算方法を変更する場合は事前に税務署への届出が必要で、むやみに変更はできません。選択した方法は継続して使用することが求められるため、事業計画を考慮して慎重に選びましょう。
資産によっては耐用年数が異なる
減価償却を行う際、同じような資産でも素材や使用目的によって耐用年数が異なることがあります。建物の場合、木造か鉄骨造か、事務所として使用するのか工場として使用するのかによって耐用年数が変わります。
また、パソコンなどの電子機器と、工作機械では耐用年数が大きく異なります。これは資産の経済的な寿命や使用による価値の減少度合いが違うためです。耐用年数を間違えると、本来認められない金額を経費として計上してしまう可能性があります。
国税庁が公開している耐用年数表を確認し、不明な点があれば税理士に相談するなど、正確な年数で計算することが大切です。
減価償却中の資産を廃棄・除去・処分する際の処理に注意
減価償却中の資産を途中で廃棄したり売却したりする場合は、特別な会計処理が必要になります。まだ減価償却が終わっていない機械を廃棄する場合、残りの未償却額は固定資産除却損として計上します。
また、売却する場合は、売却価格と未償却残高の差額を固定資産売却損益として処理します。これらの処理を忘れると、実際には存在しない資産の減価償却を続けることになり、適切な経理処理とは言えません。
資産の状況が変わった際は、速やかに適切な会計処理を行い、帳簿上の資産価値を実態に合わせることが重要です。
まとめ
減価償却は、事業で使用する高額な資産の価値減少を、耐用年数に応じて経費計上する会計処理です。建物や機械設備、車両などの資産を購入した際に一括で経費計上すると、その年は大きな赤字になってしまいます。減価償却を活用すれば、資産の価値減少に合わせて経費を分散できるため、正確な経営状態を把握できます。
計算方法には定額法と定率法があり、法人と個人事業主で原則的な方法が異なります。また、資産の種類によって耐用年数が変わり、廃棄や売却時には特別な処理が必要など、いくつかの注意点もあります。税制改正への対応や会計処理の手間はかかりますが、経営判断や節税に役立つ重要な会計処理といえるでしょう。