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電子帳簿保存法により、多くの企業でペーパーレス化が進んでいます。そこで改めて印鑑の存在がクローズアップされるようになりました。これまで紙の書類には当たり前のように印鑑を押してきたものの、電子書類にも印鑑は必要なのでしょうか。
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本記事では、そもそも請求書や契約書など紙の書類にも印鑑は必要なのかを解説した上で、電子書類への押印についてもお伝えします。特に、業務で請求書や領収書など印鑑を扱うことが多い場合は、ぜひ参考にしてください。
請求書に印鑑は必要か?
結論からいえば、法律上、請求書を含めビジネスで扱う書類への押印は不要です。請求書に印鑑が押印されていないからといって、契約が無効になる、料金を支払う義務が生じないわけではありません。
そもそも、企業間での契約において紙の書類を作成する必要もなく、口頭で意思表示の合致さえあれば、契約は成立します。当然、支払いの請求をすることも可能です。
請求書に印鑑を押す理由
法律上は印鑑を押す必要もなく、そもそも請求書を作成する義務さえないにも関わらず、日本では請求書を作成し、書類への押印も行っています。それは請求書を作成し、印鑑を押したものを正式な書類として扱うことがビジネス上の慣習となっているからです。
それ以外にも次のような理由があります。
1. データの改ざん・偽造防止
請求書だけでは、データの改ざんや偽造をされてしまうリスクがあるため、複製が困難な印鑑を押すことで、改ざんや偽造を防止します。
2. 請求書の信頼性担保
印鑑が押されていれば、誰が発行したものなのか、誰が承認したものなのかが明確になります。欧米ではサインをすることで信頼性の担保をしますが、日本ではサインの代わりに押印するのが一般的です。
請求書に押す印鑑の種類
ビジネスで扱う印鑑は主に実印、銀行印、角印の3種類で、それぞれ状況に応じて使い分ける必要があります。
また、請求書の形式によって押印する場所が異なる場合があり、適切な場所に押印しないと認められない場合もあるため注意が必要です。
ここでは、法人や個人事業主が使用する印鑑の概要と請求書に押印する位置について解説します。
法人が使用する印鑑の種類
法人が使用する印鑑は主に実印、銀行印、角印の3種類で、それぞれの特徴は次の通りです。
- 実印
別名、丸印や代表印とも呼ばれ、会社を正式に登記する際に必要で、法務省への登録が必要な印鑑です。
実印を使うのは、契約書や各種申請書類など重要な書類なため、慎重に取り扱う必要があります。万が一、複製されてしまうと不正な借り入れや資産の不正売却といったリスクもあるため、頻繁な利用は避けましょう。
- 銀行印
銀行口座を開設する際に必要な印鑑で、金融機関に届出をして登録します。手形や小切手の発行時にも必要なため、不正を防止するためにも請求書には使用しない方が良いでしょう。
- 角印
会社名が入った印鑑で通常は認印として使用される印鑑です。多くの会社で使われている形状が四角形のため、一般的に角印と呼ばれていますが、形に決まりはありません。
実印や銀行印のように届出を必要とするような印鑑ではないため、多くの場面で使われ、請求書に最も適した印鑑です。
本来は、役所や銀行へ届け出たものだけを印鑑と呼び、それ以外はハンコや印章と呼びますが、ここでは便宜上角印も印鑑として解説しています。
個人事業主・フリーランスが使用する印鑑の種類
個人事業主やフリーランスであれば、法人と同じように3種類の印鑑を揃えなくても支障はないでしょう。特に角印については、屋号がない場合、請求書や見積書などは個人名のシャチハタでも問題はありません。
ただ、不正や複製を防止するという意味では、個人事業主やフリーランスであっても、請求書に実印や銀行印は使用しないことをおすすめします。
また、企業を相手にビジネスを行っていくのであれば、信頼性を高めるため、屋号をつくり、それに合わせた印鑑もしくは仕事専用の印鑑を用意しましょう。
印鑑を押す位置
請求書で印鑑を押印する位置は、押印欄があればそこに押印します。押印欄がない場合は次の2点を意識して押印しましょう。
- 会社情報の右側に押印する:会社名、住所、電話番号、代表者氏名の右側に押印します。
- 社名や住所と重なるように押印する:印鑑の複製や不正利用を防止するため、必ず社名や住所と重なるように押印します。
なお、請求書の書き方については、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
請求書の印鑑を押す時の注意点
請求書に印鑑を押印する際、場所以外にも2点ほど注意すべき点があります。具体的には、次の通りです。
印影が鮮明になるように押印する
請求書に印鑑を押印する場合、印影、つまり紙に残る朱肉の跡はかすれたり欠けたりしないよう、鮮明になるようにすることが重要です。
角印は通常の印鑑よりも大きいため、できるだけ机に対して垂直に押印することを心がけましょう。印影が鮮明でないと印鑑としての証拠能力が認められない可能性もあります。
もし印影が鮮明でない場合は、新しい請求書を作成して押印し直しましょう。
訂正印は使用しない
印鑑は請求書に不正がないことを証明するために押印します。印影が鮮明ではない、押印する場所を間違えたといった場合でも訂正印は使用せず、あらためて請求書を作成して押印し直してください。修正テープも使用してはなりません。
請求書の信頼性を担保するには、間違いや修正がないことが重要です。押印をする際は、ミスのないよう、慎重に行いましょう。
電子請求書と電子印鑑の活用
近年、電子帳簿保存法の改正もあり、電子請求書を使用する企業が増加しました。ただ、電子文書は紙の書類に比べ容易に改ざんできることもあり、電子印鑑の重要性が高まっています。ここでは、電子印鑑の概要、法的な有効性について解説します。
請求書のペーパーレス化によるメリット・デメリットについては、以下の記事で詳しく解説しているので参考にしてください。
電子印鑑の法的有効性
電子印鑑とは、電子媒体上で印影データを用いて押印をする印鑑です。紙の書類と同様、電子印鑑を押さなくても、電子文書だけで契約は成立します。しかし、電子文書は紙の書類と比較して改ざんのリスクが高いため、電子印鑑があることで幾分かそのリスクを減らせます。
また、契約を成立させる上で電子印鑑は必須ではないものの、電子印鑑の印影に電子証明書を付与すれば「本人性の証明」を果たし、法的有効性を高めることはできます。
電子証明書とは、電子印鑑の印鑑証明書で、信頼できる第三者の認証局が発行する本人性を証明するものです。
電子印鑑だけでは簡単にコピーできてしまうため、電子印鑑の印影に電子証明書を付与すれば公文書や重要な契約書、社印などにも使用でき、訴訟の際の有力な証拠になりえます。
電子印鑑の注意点
電子請求書の作成に欠かせない電子印鑑は使用の際、いくつかの注意が必要です。ここでは、特に把握しておくべき注意点について解説します。
電子印鑑のセキュリティ
電子印鑑は大きく分けると、無料で作成できるタイプと、電子印鑑サービスを契約して有料で作成するタイプの2種類です。
無料のタイプは、印鑑の印影をデータ化して作成するタイプもあれば、Excelや画像作成ソフトを使って作成するタイプもあります。これらの電子印鑑のメリットは無料かつ容易に作成できる点です。
ただし、容易に作成できる分、改ざんもされやすく、セキュリティ面では大きなリスクがあります。そのため、請求書や契約書といった文書に利用するのはおすすめできません。
請求書や契約書といった重要な書類に電子印鑑を押印する場合は、時系列や入力者の判別が可能なタイムスタンプや認証機能のついた有料サービスが推奨されます。
相手先の理解が必要
セキュリティや法的効力の不安から、電子印鑑を認めていない企業も少なくありません。そもそも電子メールでの受領を受け付けていないケースもあり、請求書などの書類に関しては、書類を印刷し、押印して郵送といった形を求められることもあります。
相手の理解を得るためには、電子印鑑にもセキュリティに配慮した電子印鑑も存在すること、電子証明書の付与により本人性の証明になることを説明しなければなりません。
その上で、電子印鑑を使用することで請求書の送付や受領などの業務が大幅に効率化される点や、コスト削減にもつながる点をしっかりと伝え、理解してもらうことが重要です。
文書改ざん・偽造の危険性
最も気をつけるべきことは、文書改ざんや電子印鑑の偽造です。デジタルデータは紙のデータに比べ容易にコピーや改ざんが可能なため、防止策の徹底は欠かせません。
また、電子印鑑の偽造にも注意が必要です。前述したように無料サービスで作成した電子印鑑では、偽造も容易な上、正当な所有者や押印した時間といった情報の特定ができません。
そのため、仮に悪用されれば、企業として大きな損失になるだけではなく、社会的な信頼が失墜してしまうリスクもあります。
文書改ざんや電子印鑑の偽造リスクを避けるには、有料のサービスを利用するのはもちろん、取引先にも対策の徹底を求めていくことが重要です。
電子印鑑の作成方法
実際に電子印鑑を作成する方法について、印影をスキャンする、無料ソフトを使う、有料ツールを使うなどツール別に解説します。
印影をスキャンする
スキャナーやスキャンが可能なプリンター、スキャンアプリなどを使って印影を読み込んで画像にすることで電子印鑑を作成する方法です。
スキャナーやプリンターがなくとも、スマートフォンさえあればアプリで簡単にスキャンが可能な上、現在使用している印鑑と同じデザインの電子印鑑を作成できます。
印影の明るさや色調などの補正は必要になるものの、他の方法に比べて最も簡単に電子印鑑を作成する方法といえるでしょう。
ただし、普段使っている印鑑は印鑑証明書を取得しているものでも、電子印鑑にもそれが適用されるわけではありません。
単純に印影をスキャンしたものなので、本人性の証明も難しく、改ざん防止の措置が講じられてもいないため、法的効力は決して高くない点には注意が必要です。
Adobe Acrobat Readerを用いる
電子文書の多くはPDFで作成されます。そこで最も効率良く電子印鑑を作成するには、Acrobat Readerのスタンプ機能を使用するのがおすすめです。
Adobe Acrobat Readerには電子印鑑のテンプレートがデフォルトで搭載されていて、無料版でも容易に電子印鑑を作成できます。
電子印鑑は日付印・氏名印・検印の3種類が作成でき、操作手順も簡単で必要な際にはすぐに押印できるのがメリットです。
ただし、無料版の場合、印影をスキャンするタイプと同様に法的効力は乏しいため、請求書に使うにはおすすめできません。
無料ソフト・ツールで作成する
オンライン上には無料で電子印鑑を作成するソフトやツールが存在します。また、WordやExcelにも電子印鑑を作成する機能があるため、コストをかけずに電子印鑑を作成するならそうしたソフトやツールを使用するのも良いでしょう。
Acrobat Readerに比べ、認印・角印(社印)など多様なデザインの電子印鑑を容易に作成できるのが最大の魅力です。さらに、フォントやカラーの変更ができるものや、自動で背景を透過させられるものもあります。
ただ、他の無料サービスと同様に無料ソフトやツールは、容易に作成ができる反面、複製も容易にできるため、本人性の証明が難しく重要な書類への押印には向きません。
有料ツールを利用する
法的効力を有し、契約書や請求書などの重要書類の押印をしたいのであれば、有料ツールの使用がおすすめです。
改ざん防止や偽造を防ぐための機能が搭載されている上、電子証明書の付加も可能なため、安心して利用できます。
多くの電子契約サービスは、無料お試し期間があるため、まずは無料で電子印鑑を試し、その中で最も使いやすくセキュリティの高いサービスを選択すると良いでしょう。
業務の効率化には請求書の電子化もおすすめ!
請求書などの書類の電子化は、業務効率化による生産性向上にも大きく寄与します。そして、さらなる効率化を実現するのにおすすめなのが、請求書受領システムの導入です。
TOKIUMの請求書受領クラウドサービス「TOKIUMインボイス」は、最新の電子帳簿保存法にも対応したシステムで、確認や支払い漏れのリスクを最小限に抑えます。
請求書の確認業務効率化により、請求書支払いにかかる時間を5分の1まで大幅に削減できます。また、さまざまな会計ソフトと連携するため、新たにシステム導入を行う際のコスト削減も可能です。
請求書業務の効率化を目指す際には、請求書受領業務の効率化もあわせてご検討されてみてはいかがでしょう。
請求書業務で電子印鑑を導入する際は、セキュリティを重視することがポイント
請求書業務の効率化を図る上で、電子化は欠かせないポイントの一つです。ただし、電子書類や電子印鑑は作成が容易である分、紙の書類や印鑑に比べ改ざんや偽造も容易なため、セキュリティには十分に配慮しなければなりません。
現在、電子印鑑を作成するにはさまざまなサービスがあります。ただ、その多くは本人性の証明が難しく法的効力に乏しいため、請求書に使うのはおすすめできません。
法的効力を高め、安心して請求書の電子化を進めるのであれば、有料の電子印鑑サービスを導入するのがおすすめです。