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年次決算をスムーズに!基礎知識と業務のポイント

更新日:2024.11.25

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年次_決算

年次決算は経理部門にとって非常に責任が重い業務です。さらに短期間に業務が集中するため、年次決算の時期は例年忙しくなるでしょう。

年次決算は、企業の1年間の業績などをまとめる重要度の高い作業です。経理部門だけでなく、企業の全ての部署が協力して行う場面も多くあります。そのため、経理担当者以外の人にとっても年次決算業務の理解を深めておくことが大切です。

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この記事では、年次決算の基本的な内容から業務の手順、負荷の大きい年次決算業務を効率化する方法を解説します。ぜひ最後までご覧下さい。

年次決算とは

年次決算という言葉自体は多くの人が聞いたことがあるでしょう。しかし、具体的な業務内容や月次決算との違いなど、正確に理解している人は少ないといえます。まずは年次決算の概要から解説します。

年次決算の概要

年次決算とは、事業年度の終わりに年間の「決算」を行うことです。決算とは定められた期間の業績や財政状態をまとめて、決算書や関連する書類を作成する業務を指します。決算書は貸借対照表や損益計算書などで構成された、企業の財政状態、経営成績を示す書類です。

決算書の作成は、会社法上全ての企業に義務付けられています。「決算書」は通称であり、会社法上は計算書類と定められています。計算書類は、定時株主総会で承認を得た上で遅滞なく公告しなければなりません。

また、企業は事業年度末から原則2ヶ月以内に、税務申告をする必要があります。税務申告は、確定した決算内容の数字を基に納税額を算定し、決算書を添付した税務申告書を税務署に提出することです。

なお、企業の事業年度は一般的に1年間です。会社法では、事業年度は原則として1年を超えることはできないとされています。そのため、1年以内であれば自由に設定できますが、多くの企業では1年間としています。

経理業務の年間スケジュールについては、以下の記事に詳しく解説しているので参考にしてください。

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年次決算の意義

年次決算の意義・目的は、主に以下の通りです。

(1)正しい納税を行う

年次決算で作成した決算書を基に税務申告を行います。正しい納税のためには、正しい決算業務と税務計算が必要です。

(2)取引先や株主などのステークホルダーの判断材料を提供する

決算書は1年間の自社の営業活動の結果を数値で明らかにし、事業年度末時点での財政状態を示す書類です。この情報は、取引先や株主などのステークホルダーが、企業に対して取引や投資を行う際の判断材料となります。

(3)自社の経営判断に役立つ資料を作成する

決算書は自社の財政状態、経営成績などを表すものです。この情報を分析すれば、事業の課題や経営の改善点などが洗い出せ、今後の経営に対する判断材料になります。

(4)銀行の融資審査で役立つ

銀行から融資を受けるには、銀行の審査を通らなければなりません。決算書は銀行が審査をするに当たり、重要な判断材料になります。

月次決算との違い

月次決算は1ヶ月単位で行う決算です。毎月の経営成績、月末時点での財政状態などを明らかにします。年次決算とは、主に以下の点で異なります。

(1)法的義務はない

年次決算は、会社法で決算書の作成が求められているため法的な義務がありますが、月次決算は企業の任意です。定時株主総会での承認や、公告の義務もありません。

(2)目的は主に企業内部の経営判断のため

前述のように年次決算ではさまざまな目的がありますが、月次決算では主に企業内部での経営状態の分析、経営判断のために行うケースが多いといえます。月次で営業活動の成果を把握することで、早めの対策や意思決定が可能です。

このため月次決算は、年次決算と比較すると経営成績や資金繰りの把握に重点を置く傾向があります。年次決算は月次決算を毎月積み上げた集大成であるため、月次決算を毎月適切に行うことで年次決算の業務負担が軽くなります。

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年次決算の手順

年次決算の一般的な流れは以下の通りです。

  1. 決算整理の実行
  2. 決算書の作成
  3. 納税額の確定
  4. 申告書の提出・納税

それぞれの工程の詳細を見てみましょう。

1. 決算整理の実行

決算整理では、まず年間の取引の記帳を精査し、誤りや未計上のものがあれば修正します。

次に決算整理仕訳を計上します。決算整理仕訳とは、決算時に決算書を作成するために計上する仕訳です。日常の営業活動の流れで計上する仕訳と異なり、決算を行うために計上します。例えば以下のような仕訳があります。

  • 減価償却費の計上(確定)
  • 棚卸資産の計上(確定)
  • 貸倒引当金などの引当金の計上
  • 経過勘定(前払費用、未払費用など)の計上(確定)

2. 決算書の作成

決算整理仕訳を計上したら、それを反映した決算整理後残高試算表を作成し、試算表を基にして決算書を作成します。株式会社は会社法により、計算書類(決算書)・事業報告・それぞれの附属明細書の作成が義務付けられています。

また、株式会社は計算書類について定時株主総会で承認を得なければなりません

ただし、取締役会設置会社かつ会計監査人設置会社は、取締役会で承認を受けた上で財産および損益の状況を正しく表示している場合、定時株主総会の承認は不要です。ただしこの場合でも、定時株主総会での計算書類の内容の報告はしなければなりません。

上場企業などでなければ、一般的に定時株主総会は税務申告の期限(事業年度末から原則として2ヶ月以内)までに行います。これは税務申告書に決算書を添付しなければならないためです。

3. 納税額の確定

決算書が株主総会(または取締役会)で承認されて決算が確定すれば、納税額を計算します。法人が計算する税金は以下の通りです。

(1)法人税等

法人税等には、以下の3種類があります。

  • 法人税:営業活動の結果得られた所得に応じて負担する国税
  • 法人住民税:企業の事業所がある地域に支払う地方税。都道府県に支払うものと市町村に支払うものがあり、それぞれ法人税額に応じて課税される法人税割と、所得に関係なく支払う均等割がある。
  • 法人事業税:事業活動を行う上で公共サービスなどを利用することから、それにかかる費用の一部を企業が負担するもの。事業所がある都道府県に対して支払う。

納税額を計算する際は、まず決算書の利益を基に税務調整を考慮して、所得を算定します。最終的な納税額は、所得に対して税率をかけることで計算できます。税務調整は、会計と税務で処理が異なる部分を確定申告書に反映させることです。

例えば、会計上は回収不能とした売掛金を貸倒として費用処理したものの、税務上は損金として認められる要件に当てはまらない場合は、所得を計算する際に決算書の利益に足さなければなりません。このように税務上課税対象となる所得の金額を計算し、税務申告書を完成させます。

(2)消費税

消費者から預かった消費税を、国に納付するものです。原則として受け取った消費税から企業が支払った消費税を差し引いて計算します。

4. 申告書の提出・納税

税務申告書を作成し、確定した納税額を反映させることで決算書は完成です。そして、納税額を反映させた決算書について定時株主総会で承認を得た後、税務申告書を提出して納税します。

税務申告書の提出期限は、事業年度末から原則として2ヶ月以内です。ただし申告期限の延長の届出を税務署に提出すれば、法人税、消費税の申告期限を1ヶ月延長できます。

税務申告書には以下の種類があり、それぞれ提出先が異なります。

  • 法人税申告書(提出先:税務署)
  • 道府県民税等の申告書(提出先:都道府県)
  • 市町村民税の申告書(提出先:市町村)
  • 消費税申告書(提出先:税務署)

年次決算に関係する書類

前述のように、年次決算には決算書を作成する業務と税務申告を行う業務があります。それぞれ作成する書類の詳細を見てみましょう。

決算に関する書類(決算書)

前述のように、株式会社は会社法により計算書類(決算書)、事業報告書、両者それぞれの附属明細書の作成が義務付けられています。ここではそれぞれの書類の概要を解説します。

【計算書類】

計算書類は以下の5種類です。

(1)貸借対照表

事業年度末時点での企業の財政状態を表すものです。資産の部、負債の部、純資産の部に分かれており、企業の資産、負債、資本の一覧が明記されています。

(2)損益計算書

事業年度間の企業の経営成績を表す書類です。収益から費用を差し引き、最終的に企業が儲けた利益が分かります。

(3)株主資本等変動計算書

株主資本の変動を表すものです。株主資本は純資産のことであり、純資産の部の増減項目を明記します。

(4)個別注記表

貸借対照表や損益計算書などに補足して提供する情報をまとめたものです。

(5)キャッシュ・フロー計算書(上場企業など、一部の企業のみ)

事業年度間における企業の現金の流れと残高を表すものです。原資の性質により、営業キャッシュ・フロー、投資キャッシュ・フロー、財務キャッシュ・フローに分けて表示します。

計算書類は全ての株式会社に作成義務がありますが、キャッシュ・フロー計算書だけは上場企業のみ義務づけられています。

【事業報告書】

事業の内容や社員の情報、経過の説明、対処すべき課題など、事業に関する重要な事項を報告するものです。会社法によって全ての企業に作成義務があります。

【附属明細書】

計算書類の附属明細書、事業報告書の附属明細書をそれぞれ作成しなければなりません。

附属明細書は、会社法施行規則によって記載内容が定められています。

(1)計算書類の附属明細書

賃借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表を補足する書類。無形固定資産、有形固定資産の明細や引当金の明細などを明記します。会社計算規則によって記載内容が定められています。

(2)事業報告の附属明細書

事業報告の補足となる重要な内容を記載するものです。例えば、他企業の取締役を兼ねる役員の業務状況の詳細など。

税務申告に関する書類

法人が提出する税務申告書の中でも、法人税申告書と消費税申告書について詳細を解説します。

(1)法人税の申告の場合

法人税の申告には以下の書類が必要です。下記書類を決算書に添付して税務署へ提出します。

法人税申告書

法人税額の計算根拠を示すための書類です。確定申告書を含む、別表1から20までの書類の総称を法人税申告書と呼びます。

勘定科目内訳書

貸借対照表と損益計算書の勘定科目の内訳を示す書類です。

法人事業概況説明書

事業内容や従業員数、主要な勘定科目の数値など、企業の概況を示す書類です。

(2)消費税の申告の場合

消費税の計算方法には2種類あり、一般課税(本則課税)を採用した場合は「一般用」、簡易課税を採用した場合は「簡易用」の書式で消費税申告書を作成します。また、消費税申告書付表には付表の添付が必要です。付表も一般用と簡易用で異なるため、適切なものを用意しましょう。

参考:国税庁|消費税及び地方消費税の申告書・添付書類等

効率的な年次決算のコツ

年次決算では多くの業務が短期間に集中するため、経理部門に大きな負担がかかります。効率的に業務を遂行するための主なポイントを紹介します。

月次決算を入念に行う

前述の通り、月次決算に法的義務はありません。しかし、月次決算を行うことで年次決算の負担を軽減できます。主な理由は以下の通りです。

  • 仮勘定など詳細が不明な内容を年次決算の際に突き止める手間が省ける
  • 早期にミスを修正できる

取引で精査が必要な部分を、年末まで待たずに月次で随時解決することで、年末の業務負担を減らせます

月次決算は毎月の業務負担になりますが、年末の業務負担を月次に分散できるため、年末の集中的な負荷を避けられます。

月次決算の手順については、以下の記事にて詳しく解説しているので参考にしてください。

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システムを導入し、電子上で管理する

システムを導入して年次決算に必要な帳票類を電子上で管理すれば、手作業で転記する手間が省け、業務の省力化が図れるしょう。

例えば日々の取引から決算書を作成できる会計システムでは、表示科目を設定すれば数値を自動で集計し、決算書を作成できます。このようなシステムを導入すれば、試算表から決算書を作成する際に手作業で転記する手間が省けて、業務を効率化できます。

期日から逆算してスケジュールを立てる

年次決算は定時株主総会、税務申告とそれぞれ期限があるため、限られた期間で正確に行わなければなりません。事前に期日から逆算して立てたスケジュールに沿って、遂行することが大切です。

あらかじめ業務フローとスケジュールを確認し、必要な業務をチェックリストなどでまとめておけばスムーズに取り組めるでしょう。

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負担の大きい年次決算の業務を効率化しよう

この記事では年次決算の基本的な内容から、業務の手順、必要な書類の内容や法的義務について解説しました。

年次決算は短期間で多くの業務が集中します。業務遂行時だけでなく、自社で業務フローを見直す際などにもこの記事のポイントを参考にして下さい。

また、年次決算に詳しくなかった人もこの記事をきっかけに理解を深め、関心をもって頂けたら幸いです。最後までお読み下さり、ありがとうございました。

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