内部統制

会社法の内部統制システムはなぜ求められる?基本方針や目的、罰則規定を解説

更新日:2024.10.30

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会社法の内部統制システムとは、企業の不正や情報漏えいなどの不祥事を未然に防ぎ、業務を適正に行うために求められる社内体制のことです。SNSの普及により、一度の不正で社会的信用が一気に失墜してしまうケースも珍しくありません。そのため、内部統制システムの導入による健全な経営体制の構築は、リスク回避はもちろん、さらなる成長やIPOを視野に入れる上で必須といえるでしょう。

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この記事を読めば、内部統制システムを導入する目的やメリット・デメリット、未導入による罰則、導入時の注意点などを理解できます。特に内部統制システムの導入を模索している経営者やコーポレート部門担当者の人はぜひ、参考にして下さい。

会社法における内部統制とは?

会社法における内部統制では、次のように定義されています。

取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備

出典:e-GOV 法令検索|会社法362条4項6号

内部統制の具体的な進め方については、以下の記事でも紹介しています。

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具体的には、大会社が取締役や子会社も含め、不正なく業務の適正を確保するための仕組みづくりに内部統制システムが必要であるというものです

内部統制システムが目指すものは、「社内規定も含めた法令遵守」「企業経営の透明性向上」「不正行為を防止するためのリスク管理」の大きく3つに分けられます。これらを実現し、健全な企業経営を行うことが企業の信頼感向上につながるのです。

金融商品取引法における内部統制との違いは?

内部統制は、会社法以外に金融商品取引法において次のように定義されています。

内閣府令で定めるところにより、事業年度ごとに、当該会社の属する企業集団及び当該会社に係る財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要なものとして内閣府令で定める体制について、内閣府令で定めるところにより評価した内部統制報告書を有価証券報告書と併せて内閣総理大臣に提出しなければならない。

出典:e-GOV法令検索|金融商品取引法第24条4項4号

会社法では取締役会が設置された大会社が適用対象になっているのに対し、金融商品取引法の適用対象は上場会社である点に違いがあります。また、目的が会社法はコンプライアンス強化と業務の適正確保なのに対し、金融商品取引法では財務報告の信頼性確保と投資家保護となっている点も大きな違いです。

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会社法の内部統制が義務化されている対象企業は?

内部統制が義務化されている取締役会が設置されている大会社とは、会社法第2条6項において次のどちらかに該当する株式会社を指します。

イ・最終事業年度に係る貸借対照表に資本金として計上した額が五億円以上であること

ロ・最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が二百億円以上であること

参考:e-GOV法令検索 | 会社法第2条6項(一部抜粋)

つまり、内部統制が義務化されているのは、取締役会が設置されている上、資本金が5億円以上あるもしくは負債の部に計上した額の合計が200億円以上ある株式会社です

内部統制の未導入による罰則はあるの?

会社法において、前述した大会社が内部統制を導入していなかったとしても罰則はありません。しかし、金融商品取引法においては、内部統制報告書を提出しないもしくは虚偽の報告をした場合、次の罰則(金融商品取引法第197条2項)が科されます

  • 5年以下の懲役または500万円以下の罰金もしくはその両方

この罰則の根拠となる法律は、金融商品取引法において、「金融商品取引法における内部統制報告制度(J-SOX法)」として2008年4月1日以降に開始する事業年度より適用されています。

J-SOX法とは、アメリカで不正会計事件をきっかけに生まれたSOX法の日本版です。具体的には、事業年度ごとの財務報告の内部統制が適切に管理されているかどうかを確認するため、有価証券報告書と併せて内部統制報告書を提出することを義務づけています。

罰則の事例ー大和銀行ー

実際に日本企業で罰則を科せられた企業事例を紹介します。

1984年から1995年の11年にわたり、大和銀行ニューヨーク支店で証券取引業務を担当していた行員が、取引で生じた損失を取り戻そうとして起こしたことが発端です。

行員は、銀行に無断で証券を簿外で売買し、それを隠微するため証書を作り替えました。しかし、この売買によりさらに11億ドルの損失を出してしまったのです。そこで行員は銀行の頭取に対し不正取引を告白し、不正が発覚したものの、銀行は米国当局に報告することなく、報告書に虚偽の記載をして隠微を図りました。

しかし、最終的には虚偽の報告だと発覚し、大和銀行は米国法令違反として、銀行本社、ニューヨーク支店長、11名の取締役に対し善管注意義務違反で罰金を科されたのです。

参考:大和銀行ニューヨーク支店損失事件 株主代表訴訟第一審判決|国立国会図書館デジタルコレクション

会社法の内部統制システムの目的やメリット3選

会社法の内部統制システムを適切に実施することで、どのようなメリットが得られるのでしょう。ここでは、3つの主なメリットを紹介します。

不祥事リスクの低減・損失回避

1つめのメリットは、不祥事リスクの低減・損失回避です。適切な内部統制システムが整備されれば、不正や情報漏えいリスクが低減します。

前述した大和銀行の不祥事は、本社や米国当局へ虚偽の報告をしたことが発端となり、罰則を科されました。なぜ虚偽の報告をしてしまったのかといえば、内部統制システムが適切に機能していなかったからです。

内部統制システムでは、相互牽制の仕組みや責任の明確化、情報伝達の共有が整備されるため、虚偽の報告がスルーされてしまう可能性は限りなく低くなります。その結果、不正行為に対する責任の所在が明確になり、不正行為の抑止が可能になります。

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マニュアル化による業務の効率化

企業が内部統制システムを構築する目的の一つは、業務の適正化を図るためです。業務プロセスを詳細に分析し文書化する過程で、各業務が標準化され業務マニュアルとして活用できます。既存社員や新入社員の研修・教育用のテキストとして使えるため、人材育成の効率化が可能です。

また、業務担当者の異動、退職時の引継ぎもスムーズになり、業務の属人化防止にもつながります。

現在紙で行っている業務も、電子化することで業務の見える化が進み、フローがよりスムーズで分かりやすくなることがあります。ペーパーレス化にご興味がある方は、ぜひ下記の資料をご覧ください。

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対外的な会社の信頼性向上

内部統制システム導入による自社の不正防止や業務効率化の実現を対外的にアピールすれば、株主や金融機関からの信用が向上し、結果として企業価値の向上にも繋がります。

企業が内部統制を行う最大の理由は、J-SOX法において内部統制報告書を提出する義務があるからです。法律で義務化されているのは上場企業のみですが、もちろん上場企業以外でも内部統制を実施することで、対外的な信用を高めることができます。上場企業に限らず、全ての企業にとって内部統制システムの構築は大きなメリットとなるのです。

参考:財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準|金融庁

会社法の内部統制システムのデメリット

会社法の内部統制システム実施にはさまざまなメリットがある反面、デメリットも存在します。具体的には実施に手間やコストがかかる点です。特に構築時と運用のタイミングで大きな手間とコストを要します。

  1. 内部統制システム構築時

内部統制システムを構築するには、既存業務プロセスの可視化、分析の他、業務リスクの洗い出し、チェック体制の整備、情報伝達システム確立などさまざまな準備が必要です。

特に初めて内部統制システムを構築する場合、何も分からない状況から始めるため、適切に構築するための手間やコストは相当なものとなるでしょう。ほとんどの場合、通常業務と並行して内部統制システムの構築を進めるため、担当者には大きな負荷となります。

  1. 運用時

内部統制システムは導入すれば終わりではなく、適切な運用によって初めて機能します。しかし、これまで内部統制システムの運用を行っていなかった企業にとっては手間やコストが増加するため、中途半端な運用になってしまうリスクも少なくありません。その結果、手間やコストだけが増え、適切な運用も行えなくなるのは大きなデメリットです。

会社法の内部統制の基本方針は会社によって異なる

会社法の内部統制における会社が取るべき基本方針は、監査役の有無で異なります。ここでは、会社法施行規則100条1~3項を基に共通の基本方針を解説した上で、監査役を設置している企業と設置していない企業に分けて基本方針の違いを見ていきましょう。

共通の基本方針

監査役の有無に関わらず取るべき共通の基本方針とは、会社法施行規則第100条1項で定義されている次の5つの項目について適切な体制を構築するものです。

  1. 取締役が職務を執行する上で必要な情報の保存と管理を行う体制
  2. 損失の危機管理に関する規定を明確するための体制
  3. 取締役が効率的に職務を執行するための環境を確保する体制
  4. 従業員の職務を執行する上で法令や定款に適合した内容であることを確保するための体制
  5. 本社だけではなく、関連グループ企業の業務適正化を確保するための体制

監査役を設置している企業

監査役を設置している企業が取るべき基本方針とは、会社法施行規則第100条3項で定義されている次の4つの事項について適切に整備するものです。

  1. 監査役が職務を執行する上で、職務の補助をする取締役や従業員を求めた場合の人員の事項
  2. 1で整備した取締役や従業員の独立性に関する事項
  3. 監査役が職務を執行する上で、取締役や従業員に対する指示の実行性を確保するための事項
  4. 監査役の監査が実効的に行われているかの報告に関する事項

監査役を設置していない企業

監査役を設置していない企業で求められる基本方針は、取締役が必要事項を株主に報告するための体制の整備です(会社法施行規則第100条2項)。取締役が執行する業務に関して、株主が実効的な監視ができるような体制づくりが求められます。

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FAQ(よくある質問)

会社法の内部統制システムの導入、運用を行う際のよくある質問とその回答を紹介します。

会社法と金融商品取引法における内部統制の違いは?

会社法と金融商品取引法における内部統制の大きな違いは、会社法の適用対象が取締役会が設置された大会社なのに対し、金融商品取引法は上場会社である点です。

また、金融商品取引法では内部統制の目的を達成するために必要な基本的要素として、次の6項目が必要だとされています。

  1. 統制環境
  2. リスクの評価と対応
  3. 統制活動
  4. 情報と伝達
  5. モニタリング
  6. ITへの対応

以上6項目が、金融商品取引法における内部統制の有効性を判断する基準です。

参考:内部統制の基本的枠組み(案)|金融庁

親会社に内部統制が義務化される場合、子会社にも導入する必要はある?

J-SOX法の対象となるのは大会社だけではなく、全ての上場企業とその子会社や関連会社、在外子会社、外部委託先も含まれます。ただし、子会社が非上場で連結している場合は、本社が子会社の分まで内部統制を行うのが一般的です。

参考:内部統制報告制度に関するQ&A|金融庁

また、在外子会社が所在する国にJ-SOX法と同種の法律がある場合、その法律を活用します。前述した大和銀行の事例も在外子会社で起きた事件であり、アメリカのSOX法によって罰則を科されました。

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会社法の内部統制を実施するには全社を挙げて取り組む姿勢が必須

会社法における内部統制とは、大会社が取締役や子会社も含め、不正なく業務の適正を確保するための仕組みづくりを指すものです。

内部統制を実施しないことでの罰則はないものの、金融商品取引法においては、内部統制報告書の提出がなければ罰則が科されます。また、不正防止や業務効率化、対外的な信頼性向上などのメリットもあるため、企業として対象であるかどうかに関わらず、適切に取り組む姿勢が欠かせません。

内部統制の実現には、法令遵守はもちろん、情報共有の徹底や業務プロセスの適正化など多くの取り組みが求められます。そのため、取締役や監査役だけではなく、全社を挙げて内部統制の重要性を理解し、協力していくことが重要だといえるでしょう。

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