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企業の運営において欠かせない決算公告。名前は聞いたことがあるものの、いまいちその詳細を理解できていない人も多いかもしれません。特に経理担当者以外の人は、言葉は知っているけど内容は知らないという人も珍しくないでしょう。
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この記事では決算公告の概要からその法的義務、手続きの方法まで解説します。既によく知っている人も、そうでない人も、新しい気付きを得られる内容になっているため、ぜひ最後までご覧下さい。
決算公告とは
そもそも「公告」とは、会社の情報を広く一般に公開することです。決算公告も「公告」の一種ですが、ここでは決算公告の概要を解説します。
決算公告の概要
決算公告とは、会社の決算内容を外部に向けて公告することで、企業の財務状況の透明性を外部に向けて示す役割を担います。株主や債権者、取引先にとって決算公告は、相手企業の経営状況を知り、投資先・取引先として信用に値するかを判断する重要な情報と言えるでしょう。しかし、決算公告の発表がいい加減だった場合、企業の信用が低下し、取引を打ち切られるなどの不利益が発生する可能性があるため注意が必要です。
なお、期限は明言されていませんが、株式会社は定時株主総会終結後に可能な限り早く決算公告を行う必要があります(会社法第440条第1項)。実務上は、3月決算の株式会社では、6月下旬開催の定時株主総会の翌日以降、できるだけ早く決算公告を済ませなくてはなりません。
また、全ての株式会社は貸借対照表を公告する必要があります。なお、資本金5億円以上または負債総額200億円以上の大会社であれば損益計算書の公告も必要です。
決算公告の法的義務
決算公告について、どのような法的義務が課せられているかを知ることはとても重要です。ルールを無視してしまうと、罰則を受けることにもなりかねないので、しっかりと確認し、抜け・漏れがないようにしましょう。
決算公告の法的義務の詳細
原則、全ての株式会社は定時株主総会終結後に可能な限り早く決算公告を行わなくてはいけません(会社法第440条1)。上場会社だけでなく非上場企業でも義務を負うため、義務を怠れば罰則が科されます。
ただし、具体的に何をするかは、企業規模や公告方法、企業が置かれた状況によって異なります。以下において、さまざまな角度から詳しく解説するので、ぜひ参考にして下さい。
企業規模による違い
まず、企業の規模によって決算公告において公表すべき書類が異なるため、しっかりと理解しましょう(会社法440条1項)。
分類 | 公告すべき書類 |
大会社 | 貸借対照表と損益計算書 |
大会社以外の会社 | 貸借対照表 |
なお、大会社とは、以下のうちいずれかの条件を満たす企業を指します。
- 最終事業年度に係る貸借対照表の資本金の計上額が5億円以上
- 最終事業年度に係る貸借対照表の負債の部の計上額合計が200億円以上
ただし、「中小企業だから、決算公告は不要」とうわけではなく、法律では「株式会社は、貸借対照表(大会社は損益計算書も含む)を公告しなければならない」(会社法第440条1項)と定められているため、会社の規模はあまり関係ないことに注意して下さい。
公告方法による違い
決算公告の方法には、「官報」「日刊新聞紙」「電子公告」の3種類があります。公告の方法によって、公表すべき書類に違いがあるため、分かりやすくまとめました。
官報 | 貸借対照表の要旨のみ※大会社は貸借対照表と損益計算書それぞれの要旨(会社法440条2項) |
日刊新聞紙 | 貸借対照表の要旨のみ※大会社は貸借対照表と損益計算書それぞれの要旨(会社法440条2項) |
電子公告 | 貸借対照表の全文の掲載が必要※大会社は貸借対照表と損益計算書それぞれの全文(会社法第440条1項)※5年分の決算内容掲載の継続が必要(会社法第940条1項2号) |
公開会社の場合
公開会社においては、決算公告を要旨の記載のみで行う場合、貸借対照表の資産の部、負債の部を重要項目に細分化して詳細に記載する必要があります(会社計算規則第139条4項、同規則第140条4項)。
なお、公開会社とは、全てまたは一部の株式を、譲渡制限がない株式として発行できると定款で定めている株式会社のことです(会社法第2条の5)。証券取引所の上場企業は原則全て公開会社となります。
全ての株式について、定款で譲渡制限を設けている会社のことを非公開会社というため、併せて覚えておくと良いでしょう。誰もが知っているレベルの大企業でも、株式を上場しておらず、売買・譲渡ができない会社は非公開会社であるといえます。
決算公告が不要となる企業
前述したように、原則全ての株式会社は決算公告の義務を負っています。ただし、以下に該当する企業は決算公告が不要とされているためご注意下さい。
企業の条件 | 根拠 |
有価証券報告書を提出している企業(金融商品取引法第24条1項で有価証券報告書の提出義務が定められている企業) | 該当する企業は、EDINET上で決算内容が開示されているため。 |
インターネット上のホームページで計算書類を開示している企業(※1) | 決算公告の方法の一つである電子公告と同様の公開がなされているため。 |
特例有限会社(※2) | 会社法施行以前に決算公告の義務がなかったため。 |
※1:定時株主総会終了後遅滞なく貸借対照表(大会社の場合は貸借対照表と損益計算書)の全文を5年の間公表している場合に該当
※2:会社法施行以前に有限会社であった企業のこと。
なお、有価証券報告書を提出している企業の開示書類は、EDINETで閲覧できるため参考にしてください。
決算公告を行わなかった場合の罰則
決算公告は、一部の例外を除き、全ての企業に対して行うことが課せられています。しかし、法的義務があるにも関わらず決算公告を行わない企業が多いのが実情です。以下では違反した場合の罰則について詳しく解説します。
罰則の内容
決算公告を行わなかったといっても、期限に遅れたのか、期限には間に合ったものの不正を働いていたのかによって、罰則の内容は異なります。決算公告に関する代表的な罰則は以下をご覧下さい。
事象 | 罰則 |
適切な時期に決算公告を行わなかった不正な方法で決算公告を行った | 100万円以下の過料代表取締役などの違反者個人に課される(会社法第976条2項) |
不正な決算公告が第三者の損害につながった | 関与した企業役員、企業に損害賠償責任が発生(会社法第350条、会社法第429条2項1号ニ、民法第709条) |
決算公告を怠っている企業が多い実情
どのような規模の企業であっても、例外となる条件に当てはまらなければ、決算公告をしないといけません。しかし、その義務を守らない、つまり決算公告を怠っている企業が多いのが実情です。
民間調査会社・東京商工リサーチの『2022年「官報」決算公告調査』によると、定款で官報を決算公告の方法に定めている企業で、実際に官報での決算公告を行っているのはわずか1.8%でした。つまり、決算公告の義務がある企業が100社あったとしても、実際に行っているのは2社あるかないかということです。
このような状況に至る原因として、以下の3点が指摘されています。
- 罰則が実際に適用された事例が少ない
- 企業が経営状況を他社から秘匿したい
- 決算公告には費用がかかり、手間もかかる
目立った不利益がない上に、企業なりの事情もあるからといったところですが、ルールである以上決算公告は忘れずに済ませましょう。
決算公告や企業の内部統制における経理の重要なポイントを知りたい方は、以下の資料をご覧ください。
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決算公告の方法
決算公告の方法には「官報」「日刊新聞紙」「電子公告」の3種類があります。それぞれの方法について、以下で概要とメリット、デメリットを解説します。
官報
官報とは、国が発行する機関誌のことです。平日と年末年始を除いて毎日発行されており、購読者は全国にいます。発行主体が国である公的機関紙であるため、信頼性が非常に高いのがメリットです。また、要旨のみを記載・掲載すれば良いため、準備の負担が軽くなっています。料金が75,000円~150,000円程度と、後述する日刊新聞紙と比較して安く済むのもメリットです。
一方、申し込んでから実際に記載されるまでに1週間ほどかかる点がデメリットです。また、購読者が少なく、多くの人の目につく可能性が低いこともデメリットと言えます。ただし、あまり広く知られたくないと考えているなら、この点がメリットにもなりうるでしょう。
日刊新聞紙
日刊新聞紙に決算公告を掲載する方法で行うケースもあります。日刊新聞紙とは、日本経済新聞など、会社法第939条1項の「時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙」としての公告紙です。東京新聞などの地方紙でも構いませんが、日刊スポーツなどのスポーツ新聞などは除外されているため注意して下さい。
購読者が多く、多くの人に見てもらえることがメリットですが、あまり広く知られたくない場合は適した媒体とはいえません。また、要旨のみを掲載すれば良いため、準備の負担が軽くなります。
ただし、掲載料が高いことに注意しなくてはいけません。具体的な金額は個々の新聞社が定めるところによりますが、最低でも10万円はかかるでしょう。知名度の高い全国紙なら数百万円に上るケースもあります。
電子公告
電子公告とは、自社のホームページなどのWebサイト、信用調査機関のサイトなどに公告を載せる方法を指します。
官報、日刊新聞紙と比較して費用を抑えられるのがメリットです。情報のデータがあればすぐに公開できるため、準備の負担もかかりません。また、世界中の人に見てもらえる可能性があります。ただし、あまり広く知られたくない場合は、この点はデメリットになると考えられます。
一方、記載義務内容は全文となっているため、負担がかなり大きい点にも注意しなくてはいけません。その上、決算公告は公開後5年間継続して公開する必要があります。信用調査機関での公告の場合は、調査費用の負担が発生する点にも注意しなくてはいけません。
決算公告の手続き
決算公告はどのような手順で行うのか、以下で具体的な手続きについて解説します。基本的なルールとしてしっかりと理解し、実際に手続きをする際の参考にして下さい。
決算を行い、決算書類を作成する
決算公告を行うにあたっては、最初に決算(年次決算)を確定させ決算書類を作成しなくてはいけません。お金に関わることである以上、ミスも許されないため、担当する経理部だけではなく、全社が協力して正確な決算を実行できるように動きましょう。
決算が確定次第、その内容を反映した決算書類を作成します。作成する決算書類は企業規模や上場・非上場の別によって異なります。
決算については、以下の記事で詳しく解説しています。
決算書類の承認を受ける
決算書類の作成が完了したら、そのうちの計算書類(貸借対照表や損益計算書など)を承認手続きにかけます。株式会社の場合、計算書類は定時株主総会で承認を受けなくてはいけません。一方、取締役会または会計監査法人設置の企業は、取締役会で承認を受けた書類を株主総会で報告するだけで良い決まりになっています。
なお、決算書類は「計算書類」と「その他書類」に分けることが可能です。
計算書類 | ・貸借対照表 ・損益計算書 ・キャッシュ・フロー計算書 ・株主資本等変動計算書 ・個別注記表 |
その他書類 | ・事業法 ・計算書類の附属明細書 ・事業報告の附属明細書 |
決算公告資料を作成し、公告を行う
決算書類の承認が得られたら、決算公告資料を作成します。決算公告は定時株主総会の終結後速やかに行うことが定められている(会社法第440条1)ため、円滑に決算公告資料が作成できるようにしておきましょう。
1つの方法として、定時株主総会の前にあらかじめ資料の大枠を準備しておくと良いでしょう。具体的な期限は定められていませんが、決算月の終了から長時間経ってからの公表とならないよう、入念な準備を重ねておくことが望ましいです。
決算公告は企業の義務と考えて正しい対応を
今回は、決算公告の概要やその法的義務について解説しました。専門用語が多いため理解が難しい部分もあったかもしれませんが、繰り返し読むことで理解は深まります。
行っていない企業も多い決算公告ですが、しっかりと法的義務が定められているため、ぜひ対応を見直してみて下さい。
決算公告を行うことによるメリットについては、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。