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企業の経理業務や会計処理では、納品書や請求書、帳票などさまざまな書類が使われます。伝票は、経理担当者が効率的に業務を行うための書類です。伝票にはさまざまな種類があり、記載内容や用途がそれぞれ異なります。
また、会計ソフトなどを利用していても伝票が役立つ場面もあるため、正しく理解し適切に活用することで、経理業務の効率化を促せます。
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本記事では、伝票の役割や種類、伝票保管のポイント、記入と仕訳の具体例などについて解説します。伝票の基礎知識を理解し、経理業務の効率化に役立てるためにぜひご覧下さい。
伝票とは何か?
伝票とは、取引の内容や金額などを記載した書類のことです。入金伝票や出金伝票などさまざまな種類があり、一般的には伝票の内容をもとに会計帳簿を作成します。
伝票を使用しない場合、取引内容を仕訳帳に記入した後で、総勘定元帳に転記する必要があります。仕訳帳は、取引を借方と貸方に分けて処理する必要があり、経理の知識を要します。また、取引の日付や発生順に1つずつ記載しなければならず、記載ミスを避けるために1人の担当者が管理するケースも少なくありません。
一方、伝票を用いることで、内容を後でまとめて総勘定元帳に転記する方法で会計処理ができ、仕訳帳への記入作業が不要になります。簿記などの知識がなくてもある程度は対応できる上、複数人で分担すれば作業負担が軽減され、業務効率化にもつながります。
最近は、中小企業や個人事業主でも会計ソフトを利用して会計帳簿を付けるのが主流となっています。会計ソフトでは、証憑書類があれば自動的に仕訳帳へ入力内容を記載できるため、基本的に伝票は不要です。
ただし、取引内容を伝票に記載しておくことで、証憑書類がない場合でも取引の事実を明確にでき、スムーズな会計処理につながります。また、取引先などによっては、売上高の証憑書類として伝票を用いる場合もあるため、伝票の使い方について正しく理解しておくことが重要です。
伝票の役割
伝票の役割は、日々発生する取引に関する情報を整理し、取引の事実を適切に保存し、効率的な経理業務や会計処理業務を行うことです。そのため、「いつ」「誰と」「どうなったのか」など、取引に関する情報を把握できるよう明確に記載する必要があります。
伝票には法律で決められた書式やフォーマットはありませんが、円滑な経理業務のために一定の形式が用いられます。企業において、経理部署以外でも伝票は多く扱われますが、シンプルで確実な伝票を使うことで、簿記など経理の知識がなくても正しく記録することが可能です。
前述の通り、多くの企業や個人事業主が会計ソフトを導入しており、伝票の入力から会計帳簿への反映までほぼ自動的に完了させることが可能です。また、取引完了を証明するための証憑書類があれば、伝票がなくても問題はないとされています。
しかし、伝票があれば取引の事実を確実に残せる上、複数の証憑書類をまとめて出金伝票として取引内容を整理することができます。
紙の伝票は、OCR(光学文字認識)を活用してデジタル化しておけば、人件費などのコスト削減や入力ミスの回避による生産性向上といった効果が期待できます。伝票処理にOCRを導入する主なメリットについては、以下の記事を参考にしてください。
請求書受領システムを利用すれば、会計ソフトに取り込むためのCSVデータも自動で作成でき、手作業の負担を大幅に軽減できます。業務効率をさらに高めたい方や、正確なデータ管理を目指したい方は、ぜひ下記の資料をご覧ください。
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伝票の種類
伝票は、主に下記5つの種類に分類されます。
- 振替伝票
- 入金伝票
- 出金伝票
- 仕入伝票
- 売上伝票
振替伝票とは、現金の入出金や仕入、売上以外の取引を記録するための伝票です。振替伝票の例は以下の通りです。
- 後払いで備品を購入した代金
- 売掛代金の普通預金口座への振込
入金伝票とは、会社に現金が入金される取引を記録するための伝票です。入金伝票と振替伝票を適切に使い分けるためには、入金状況に応じて使う伝票を指定しておくと良いでしょう。入金伝票の具体例としては以下のようなケースがあります。
- 商品の販売代金やサービス提供料金として現金を受け取った時
- 売掛金の回収を現金で行った時
出金伝票とは、会社から現金が出ていく取引を記録するための伝票です。出金伝票の具体例は、以下の通りです。
- 交通費や接待交際費を現金で支払った時
- 備品を現金で購入した時
- 買掛金を現金で支払った時
仕入伝票とは、仕入取引を記録するための伝票です。後で説明する5伝票制を利用する際に使われます。総勘定元帳に転記する際は、原則として貸方が「買掛金」、借方が「仕入」として仕訳されます。
売上伝票も、5伝票制を利用する場合にのみ使われ、売上取引の内容を記載するために使用する伝票です。総勘定元帳に転記する際は、貸方が「売上」、借方が「売掛金」として仕訳されます。現金取引については、売上伝票だけでなく入金伝票も作成します。
1伝票制・3伝票制・5伝票制の伝票式会計がある
取引内容を記した伝票を用いて記録する会計処理の方式は「伝票式会計」と言います。伝票式会計は、利用する伝票の数によって「1伝票制・3伝票制・5伝票制」に分けられます。
運営している事業の性質や普段利用する伝票の種類によって、適した種類が変わります。それぞれの特徴は、以下の通りです。
- 1伝票制:振替伝票のみを使用
- 3伝票制:入金伝票、出金伝票、振替伝票を使用
- 5伝票制:入金伝票、出金伝票、振替伝票、仕入伝票、売上伝票を使用
1伝票制は、全ての勘定科目を振替伝票にまとめる方法です。書類を集計する手間が増えやすいこともあり、採用する企業は減ってきています。3伝票制は、入出金以外を振替伝票にまとめる方法で、現金取引が多い企業や業種でよく採用されています。
5伝票制は、建設業や製造業など、現金よりも掛取引が多い業種を中心に利用されている方式です。
伝票を保管する際のポイント
伝票は取引の事実を証明する証憑書類であるため、保存期間が法律によって定められています。保存期間は、株式会社や持株会社といった会社法が適用される企業では10年間、法人税法の適用企業では7年間です。また、両方の法律の対象となる書類は10年間の保存義務があります。
個人事業主の場合は、青色申告と白色申告いずれでも5年間の保存期間が設けられています。伝票を含む経理関係書類を誤って処分してしまった場合、法律違反として罰則が課される可能性もあるため、適切に保管する必要があります。
伝票を保管する際には、必要な書類をすぐに取り出せるように、リストアップするなどして整理しましょう。また、紙の書類で保存していくうちに、量が増えてスペースを圧迫するのではという懸念がある場合は、電子化してデータとして保存する方法も検討すると良いでしょう。
伝票の電子化については、以下の記事で詳しく解説しています。
伝票の書き方
ここからは、伝票の書き方について具体的に解説します。前述の通り、伝票には決められた書式はありませんが、経理業務や会計処理に必要な項目を網羅している必要があります。伝票の記載事項や仕訳例を見ていきましょう。
伝票で記載すべき項目
伝票の記載項目として、主に以下5つを明記します。
- 日付:取引の日付
- 勘定科目:該当する勘定科目
- 金額:取引の金額
- 摘要:取引の内容(注釈など)
- 伝票記入をした人(起票者)のサインまたは押印
多くの場合、紙の伝票に上記情報を記入するか、Excelで作成したフォーマットに必要項目を入力する方法で作成します。上記の記載項目は、どの伝票にも共通の記載項目であり、誰が見ても取引内容を理解できるようわかりやすく明記することが重要です。
伝票の記入と仕訳の例をご紹介
ここで、実際の伝票の記入と仕訳の例を紹介します。
現金を受け取った場合の入金伝票の記入例
現金が入ってきた場合は、入金伝票を作成します。入金伝票では、借方の「現金」が省略されているため、仕訳で貸方の勘定科目として「現金」を補います。
例として、A社に200,000円商品を販売し、その代金を現金で受け取った場合の例を挙げます。入金伝票には以下のように記入します。
勘定科目 | 摘要 | 金額 |
売上 | 商品売上 A社 | 200,000 |
上記伝票は、借方の「現金」が省略され、「A社に商品を200,000円現金で売り上げた」という取引を示しています。なお、商品の売上代金を現金で回収していない場合は、入金伝票ではなく売上伝票または振替伝票を使って仮計上します。
現金を支払った場合の出金伝票の記入例
現金を支払った場合は、出金伝票が必要です。入金伝票と同様に、借方の「現金」は省略され、勘定科目と摘要、金額のみを記載するのが一般的です。
例として、B社から20万円で商品を仕入れて、その代金を現金で受け取ったケースを見てみましょう。「B社に商品代金として20万円を現金で支払った」という取引について、出金伝票には以下のように記入します。
勘定科目 | 摘要 | 金額 |
仕入 | 商品仕入 B社 | 200,000 |
振替伝票の記入例
入金や出金以外の取引については、振替伝票を作成します。振替伝票では、通常の仕訳同様に借方科目と貸方科目を記載する必要があります。
一般的な振替伝票は、取引の日付と取引内容を表す摘要欄、その左側に借方の勘定科目と金額、右側には貸方の勘定科目と金額を記入します。借方・貸方の勘定科目は貸借対照表と損益計算書に準じて選択しましょう。
例えば、C社に20万円の8月分請求書を発行した場合の振替伝票は、以下の通りです。
借方 | 金額 | 摘要 | 貸方 | 金額 |
売掛金 | 200,000 | C社8月分 | 売上 | 200,000 |
なお、同じ日の同じ仕訳の取引が複数ある場合、1枚の振替伝票にまとめて記載することも可能です。
その他の伝票
前述した伝票式会計で使用する種類のほかにも、伝票式会計に必須ではないものの、会計処理の効率化や取引の明確化に役立つ伝票があります。経理業務の補助として活用できる代表的な伝票とその用途は、以下の通りです。
伝票 | 目的・用途 |
お会計伝票 | 飲食店などで顧客が注文した品目や金額を記載する |
作業伝票 | 建設現場や工場での作業内容や使用した部材、作業時間などを記録する |
受発注伝票 | 顧客からの受注や発注の際に取引を記載する |
契約伝票 | 契約書を基にした受注(売上)を計上する際に記載する |
入出庫伝票 | 自社の倉庫などで商品の搬入または搬出の移動を管理するための伝票 |
訂正返品伝票 | 売上や仕入などの処理が既に終わった伝票を取り消すために発行する |
チェーンストア統一伝票 | 企業や業種ごとに伝票のサイズや書式を統一した伝票 |
伝票を活用して会計処理の効率化や正確な記帳に役立てよう!
伝票とは、日々発生する企業の取引内容を記録した書類で、経理業務を効率的に進めるために重要な役割を担っています。企業では、主に「入金伝票」「出金伝票」「振替伝票」「売上伝票」「仕入伝票」の5種類の伝票を扱います。
伝票を用いた会計処理は伝票式会計と言い、利用する伝票の数によって「1伝票制」「3伝票制」「5伝票制」の3つに分類されます。伝票の種類によらず、共通する記載項目として、取引の日付や金額、勘定科目、摘要が挙げられます。
伝票には保存義務があり、法人と個人それぞれで保存期間が決まっています。誤って破棄してしまうことのないよう、ルールを決めてファイリングするか、データ化して保存しましょう。
会計処理の効率化や取引の明確化に役立つ伝票は、5つのほかにも多数あります。伝票の種類やそれぞれの使い方を理解して、自社の会計処理業務における最適化を促しましょう。
経理業務を始めたばかりの方にとって、特に難しく感じるのが電子帳簿保存法の理解です。下記でこの法規についてわかりやすくまとめていますので、スムーズな法対応をしたい方はぜひご覧ください。
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よくある質問
伝票や経理業務に関するよくある質問とその回答をここで紹介します。
伝票と請求書の違いは何ですか?
伝票と請求書は、いずれも取引時に発行する書類ですが、作成するタイミングや役割に違いがあります。伝票は、取引の事実を記録するために、入出金の手続きが行われた段階で発行します。
一方、請求書は取引相手に支払いを請求することを目的とした書類で、入出金の手続きが発生することが確定した段階で作成します。記載内容は、請求金額や振り込み期限などで、入出金がまだ行われていない段階で発行し、取引相手に送付します。
3伝票制とは?
伝票処理の方法のうち、現金での取引を記載する「入金伝票」と「出金伝票」そして現金以外の全ての取引を記載する「振替伝票」の3種類を用いる手法を「3伝票制」と言います。
入金伝票と出金伝票を用いることで、現金の流れを可視化できるため、現金取引が多い業種などで採用されています。
伝票処理とは?
伝票処理とは、伝票に取引内容を記載することを指します。伝票処理では、取引の日付や取引相手、金額、摘要などの内容を伝票に記載します。伝票処理を行うことで、取引があったという事実を、法的に記録できます。
伝票処理の主な方法は、手書きやExcel、会計ソフトなどです。会計ソフトを活用することで、伝票作成から仕訳帳、総勘定元帳まで自動的に作成されるため、業務効率化につながります。