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領収書は、金銭の支払いなどを受けたことを証明するために必要な書類であり、税務調査時においても証憑として有効なものです。近年、インボイス制度の施行や軽減税率の導入などにより、領収書の処理は以前に増して煩雑になっています。そのため、適切な発行方法を理解できていないと正確な経理処理もできません。
この記事では、領収書の必要性や発行時のポイントを解説していきます。また、領収書のテンプレートも用意しているので、特に企業の経理担当者の人はぜひご活用下さい。
領収書とは
領収書とは、商品やサービスを提供し、その対価として金銭の支払いを受けた際に発行する書類で、「証憑」に該当します。
証憑とは取引が成立したことを証明するために発行する書類です。領収書の場合は商品やサービスと金銭のやり取りがあったことを事後的に確認するために発行します。そのため、「いつ誰が誰に何をいくらでやりとりしたか」が分かるようにする必要があります。
領収書に記載される主な項目は次の通りです。
- 発行日
- 発行者名
- 宛名
- 金額
- 但し書き
なお、印鑑の押印は法的義務ではないため、必ずしも必要ではありません。ただし、日本の商習慣上、領収書には発行者が押印をするのが一般的であり、法人の場合であれば社判を押印します。
領収書はなぜ必要なのか
領収書が必要な理由としては主に次の3点が挙げられます。
- 法的義務
商品やサービスを提供するものは、その商品やサービスを購入し、金銭を支払ったものから依頼を受けた際、民法486条に基づき、必ず領収書を発行しなければなりません。
民法486条
弁済をする者は、弁済と引換えに、弁済を受領する者に対して受取証書の交付を請求することができる。
金銭を支払った側は紙もしくはPDFや画像など電子化された領収書の請求ができ、金銭を受け取った側はこれを拒否することはできないため、領収書の発行は必須となります。ただし、電子化された領収書については、提供に不相当な負担がかかる場合のみ、拒否することが可能です。
- 取引相手とのトラブル回避
領収書は取引相手との取引を正常に行ったことを証明するものです。領収書を発行し、取引相手が受け取った時点で支払いは完了したことになります。そのため、領収書の発行により、過払いや二重請求といったトラブル防止が可能です。
- 適切な経理処理の実現
領収書は税務申告をする際の証憑として有効な書類です。領収書の存在により、売り上げや経費の根拠を示すことができるため、適切な経理処理が実現します。月次や年次決算をする際にも金額が合わずに経理担当者の負担が増加するリスク低減が可能です。
領収書とレシートの違いは何か?
領収書とレシートの違いは、領収書が基本的に支払いの証明書として扱われるのに対し、レシートは購入の証明として扱われることが多い点です。そのため、レシートに記載されるのは支払いの情報までで、購入者の情報は通常記載されません。
ただし、ほとんどのレシートには購入日、金額、購入した商品の内容、発行者名までは記載されているため、領収書に該当するという扱いになります。
注意点としては、税務調査の際、領収書として認められない可能性がある点です。また、会社によっては宛名のない領収書は不正利用のリスクもあり、経理に受け取ってもらえない場合があります。
そのため、会社としてレシートを受け取る際には、少額であっても宛名を入れてもらえるよう、依頼するようにしましょう。
インボイス制度における領収書の扱い
2023年10月より施行されたインボイス制度では、軽減税率の導入に伴い、一定の事項が記載された帳簿と適格請求書の保存により仕入税額控除を受けられるようになりました。
領収書においても、一定の記載要件を満たせば、適格請求書として扱えるため、仕入税額控除を受けられます。適格請求書の具体的な要件は次の通りです。
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率の対象品目である旨)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜きまたは税込み)および適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額など
- 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
なお、小売業や飲食店業、タクシー業など不特定多数のものに対して販売やサービスの提供を行う事業者は、6の宛名を記載しなくても適格簡易請求書として認められます。
領収書を受け取る際はもちろん、発行する際にも上述した項目が記載されているかどうかの確認が欠かせません。もし、要件を満たしていない請求書を使用している場合は、記載要件を満たしたフォーマットにする必要があります。
インボイス制度での領収書の書き方については、以下の記事でも紹介しています。
特に、経費精算の際には簡易インボイスの正しい処理が求められます。
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領収書のテンプレート
実際に適格請求書を作成する上で、ExcelやWordでの作成を想定した記載すべき項目を解説します。テンプレート(雛形)は無料でダウンロードできるので、個人、法人問わずぜひ参考にして下さい。
- 交付を受ける者の氏名または名称
- 取引年月日
- 取引金額(税込)
- 取引の内容
- 発行者の氏名または名称
- 軽減税率の対象品目である旨(税率、軽減税率等の文言、*などのマークなど)
- 税率ごとに合計した対価の額(税込又は税別共に可)
- 税率ごとの消費税額
- 登録番号(税務署に申請し登録することが必要)
登録番号とは、適格請求書発行事業者の登録番号です。この登録番号を取得するには課税事業者になる必要があります。課税事業者登録をしていないと適格請求書の発行もできないので注意が必要です。
領収書の書き方のポイント
インボイス制度にも対応した領収書を書く際のポイントについて解説します。具体的には記載すべき項目を抑えること、そして軽減税率が適用されるかどうかを確認して記載することです。
記載すべき項目
記載すべき主な項目と記載する際の注意点について解説します。
- 日付
日付は商品やサービスの代金を受け取った日を記載します。領収書には「発行日」と記載されていることもあるため、領収書を発行した日と思われるかもしれません。
しかし、作成日ではなく代金を受け取った日を記載します。通常、代金を受け取った後、すぐに作成するため問題はないものの、代金の収受があった後日に領収書を作成する際には注意して下さい。
- 宛名
代金を支払った人もしくは企業の名前を記載します。小売業や飲食業の場合、お客様に「宛名は上様で」と言われるケースもありますが、税務調査において取引相手が誰だか分からない「上様」はあまり印象が良くありません。
小売りや飲食で混雑時に宛名のやり取りで時間を割くのは難しい場合もあるものの、特に対法人において、企業名を明確にする意味でも宛名は企業名を記載しましょう。
- 金額・但し書き
何を購入したのかを金額と併せて記載します。但し書きといえば「お品代として」が一般的です。しかし、「上様」同様、お品代では何を購入したのかが明確ではありません。
税法上、但し書きとして「お品代」は避け、「蛍光灯代として」「コピー用紙代として」など明確に購入した商品が分かるようにします。ただし、飲食店の場合は、料理名ではなく「飲食代として」でも問題はありません。
- 内訳
消費税額が分かりやすくなるよう、10%の商品にかかった金額と消費税額、8%の商品にかかった金額と消費税額を記載します。10%の商品のみ、8%の商品のみの場合でも購入した商品の税額を明確にするため、必ず記載するようにしましょう。
- 発行者
領収書を発行したものの名前、企業名を記載します。課税事業者の登録番号も必須です。
- 収入印紙
金額が税抜きで50,000円以上の場合、領収書に収入印紙を貼り、消印(割印)を押す必要があります。なお、詳しくは後述しますが、収入印紙が必要なのは紙の領収書だけで、電子的に発行した領収書は、金額に関わらず収入印紙を貼る必要はありません。
記載項目についてさらに詳しく知りたい場合、こちらの関連記事をご覧下さい。
軽減税率が適用されるかを確認して記載する
領収書を記載する際には、購入した商品が軽減税率適用商品かどうかも確認する必要があります。
軽減税率の対象となる商品とは、酒、外食、ケータリング以外の飲食品と週2回以上発行されている新聞です。
ただ、ひと口に飲食品と新聞といっても、その中でさらに細かく分類されています。具体的には次の通りです。
- 飲食品
- 飲食品で軽減税率(8%)が適用されるのは、酒類・外食・ケータリング以外
- テイクアウトで持ち帰った場合は8%、店内で飲食した場合は10%
- アルコール分1%未満の調味料(みりん)、甘酒などは8%のまま
- ホテルや旅館の冷蔵庫にある酒類以外の飲料水はその場で飲んでも8%、ただしルームサービスは10%
- 学校給食や老人ホームの食事も8%のまま
- 新聞
- 週2回以上発行される定期購読の新聞は8%
- 駅やコンビニで販売されている新聞は週2回以上発行されていても定期購読の対象とならないため10%
- 電子版の新聞は定期購読をしていても軽減税率の対象外のため10%
軽減税率について詳しくは、以下の記事で紹介しています。
領収書を発行するまでの流れ
領収書を発行するまでの一般的な流れは次の通りです。
- 商品やサービスを販売し、支払を受けた際、金額を確認して間違いがなければ支払った取引の相手に対して領収書を発行します。この際、取引相手から依頼がなければ発行しなくても構いません。
- 取引金額が50,000円以上だった場合は収入印紙を貼ります。詳細は後述しますが、金額によって収入印紙の税額も変わります。また、電子的な領収書を発行する場合は金額に関わらず収入印紙税は非課税のため、必要ありません。
- 紙の領収書は複写式になっているので、1枚を取引相手に渡し、複写した方の領収書は控えとして保管します。電子的な領収書の場合は印刷せずに電子データのままで保管します。
領収書は発行するだけでなく、その後の保管も非常に重要です。発行した電子領収書は、正確な帳簿管理や法的な要件を満たすために、適切に保管する必要があります。
より詳細について知りたい方は下記資料をぜひご覧ください。
【関連する無料ガイドブック】
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領収書を発行する際の注意点
領収書を発行する際にはいくつかの注意点があります。特に次に挙げる3点については注意が必要です。
収入印紙の金額
領収書は法律上、17号「売上代金に係る金銭または有価証券の受取書」の課税文書として扱われます。ここでは5万円以上1,000万円までの収入印紙税額について紹介します。
記載金額 | 税額 |
5万円未満 | 非課税 |
5万円以上100万円以下 | 200円 |
100万円を超え200万円以下 | 400円 |
200万円を超え300万円以下 | 600円 |
300万円を超え500万円以下 | 1,000円 |
500万円を超え1,000万円以下 | 2,000円 |
出典:国税庁 | 印紙税額
領収書に収入印紙を貼る際の注意点については、以下の記事で紹介しています。
領収書に印鑑は必須ではない
領収書といえば印鑑を押印するのが当たり前と思われている人も多いのではないでしょうか。しかし、法律上、領収書には押印しなくてはならない決まりはありません。
ただし、日本の商習慣では印鑑を押印するのが一般的になっています。会社によっては印鑑のない領収書は領収書として認めないとしている場合もあるため、押印が必要かどうか確認しましょう。
また、法律上、領収書に印鑑は必要ないものの、収入印紙を貼った際には割り印が必要になります。割り印とは収入印紙の再利用を防止するために収入印紙を貼った領収書と収入印紙の彩紋をまたぐように押印するものです。詳しい押印方法は関連記事を参照して下さい。
収入印紙の割り印について詳しくは、以下の記事で紹介しています。
複写した領収書を保管する
複写した領収書は法人の場合、原則として7年間保存しなければなりません。
ただし、青色申告書を提出した事業年度で欠損金金額が生じた事業年度、もしくは青色申告書を提出しなかった事業年度で災害損失金額が生じた事業年度においては10年間です。また、2018年4月1日以前に開始した事業年度は9年間の保存期間となります。
なお、領収書の保存期間に関しては、紙でも電子でも変わらず7年間です。
領収書の保存期間について詳しくは、以下の記事で紹介しています。
仕入税額控除の適用を受けるためにもテンプレートを活用し正確な領収書の記載を
領収書とは、商品やサービスを提供し、その対価として金銭の支払いを受けた際に発行する書類で、「証憑」に該当します。取引相手から依頼された場合はもちろん、過払いや二重請求の防止、適切な経理処理の実現のためにも欠かせない書類の一つです。
また、2023年10月から施行されたインボイス制度に対応する上で、領収書は適格請求書としての役割も果たします。仕入税控除の適用を受けるためにも適格請求書のテンプレートを活用し、正確な記載を心がけるようにしましょう。