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外部監査の準備に不安を感じていませんか?経験があるならまだしも、まったく経験がなければ何をするのかという基本的な部分から疑問を感じるはずです。この記事では、外部監査の基本から目的、プロセスまでを丁寧に解説します。また、経理担当者としての疑問や悩みに寄り添い、業務効率を改善するヒントも紹介するので解決のお役に立てるはずです。
→ダウンロード:請求書支払業務を取り巻く内部統制の課題と4つの解決策
この記事を読むことで、外部監査への理解が深まり、不正防止やリスク管理の強化にも役立ちます。初めての外部監査でも安心して対応できるよう、しっかりサポートしますので、ぜひ最後までご覧ください。
外部監査とは?
外部監査は、監査法人や公認会計士によって、企業の財務諸表が正しく会計処理されているか、客観的に評価するために行うものです。
外部監査の結果は有価証券報告書に記載され、株主総会で報告されます。以下の条件に当てはまる企業であれば、法律にのっとり外部監査を行わなくてはいけません。
- 上場企業
- 資本金5億円以上または負債金額が総額200億円以上の非上場企業
なお、これらの条件に当てはまらない場合でも、企業の希望により任意監査が行われることはあります。
外部監査の目的
外部監査は、株主や投資家などの利害関係者に対して、企業の会計処理や日々の業務が法律にのっとって進められていることを証明するために行います。仮に外部監査がなければ、企業が粉飾決算などの不正に手を染めていたとしても、見抜くことはかなり難しくなります。企業が発信する偽りの情報を元に投資した投資家も害することにもなりかねません。
そこで、投資家保護の観点から、企業が法律にのっとって適正に会計処理、業務を進めているかを第三者の立場からチェックするという目的で、外部監査が行われています。
外部監査と内部監査の違い
外部監査と対になる言葉として内部監査がありますが、どちらも企業の活動を評価するために行うものです。ただし、以下の点が異なるため、違いを理解しておきましょう。
- 目的
- 監査を行う主体(監査人)
- 監査の対象となる活動・情報
- 報告の有無に違いがある
内部監査については以下の記事で詳しく解説しています。
外部監査の必要性
適正な情報を開示するため
外部監査が必要になる理由として、適正な情報を開示するためであることが挙げられます。株主や投資家が株式の売買を行う際に参考にする情報の1つが、企業の財務状況です。そのため、企業が発信する財務情報が適切なプロセスを経て作成されていない誤ったものだったり、社内の人間が意図的に調整したりしたものだった場合、投資家が判断を誤ることになりかねません。投資配分や事業拡大・縮小の判断を誤り、大きな損害に発展することもあり得ます。
そこで、財務情報が適正かどうかは、外部の第三者がチェックするべきです。発信する財務情報が適切なプロセスを経て作成された、意図的な調整のない情報であるかを第三者の立場から保証するために、外部監査を行うことが必要になります。
不正を防止するため
不正を防止するという意味でも、外部監査は重要です。仮に、外部監査がなければ経理担当者による粉飾、銀行へ金銭の預入・引出のタイミングでの着服、不正な送金が可能になってしまいます。これらは企業の財産を減少させる上に、社会的信用も失墜させるので食い止めなくてはいけません。不正の防止、発見という意味でも、外部監査を行う必要が出てきます。
リスクを回避するため
リスクを回避するという意味でも、外部監査は重要です。たとえ従業員に不正や違法行為を行う意図がまったくなかったとしても、知識や経験がないゆえに誤った判断をしてしまうことは珍しくありません。会計に詳しい従業員がいなかったり、バックオフィスにまで手が回らなかったりすると、結果として不正や違法行為につながる可能性があります。
このような場合でも、外部監査を行うことで、早期に法的な問題や罰則を回避し、経営判断や税金への対応に影響が及ぶことを防止できるでしょう。
外部監査の種類
一口に外部監査といっても、根拠となる法律によりさらに細かく区分することが可能です。企業を対象にした外部監査は根拠となる法律があることから、法定監査と呼ぶこともあります。
会社法監査
会社法監査とは、会社法にのっとって行われる外部監査です。会社法435条第2項においては、「貸借対照表、損益計算書その他株式会社の財産および損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるもの」と規定されています(参考:e-GOV法令検索|会社法435条第2項)。具体的には、以下の書類(計算書類)について適正かどうかを判断するために行われると考えましょう。
- 貸借対照表
- 損益計算書
- 株主資本等変動計算書
- 個別注記表
金融商品取引法監査
金融商品取引法監査とは、金融商品取引法の規定にのっとって行われる外部監査です。より厳密には、金融商品取引法第193条2項を根拠に、有価証券報告書の経理の状況に載っている財務諸表と連結計算書について監査が行われます(参考:e-GOV法令検索|金融商品取引法第193条2項)。
財務諸表 | 貸借対照表 損益計算書 株主資本等変動計算書 個別注記表 |
連結計算書 | 連結貸借対照表 連結損益計算書 |
詳しくは後述しますが、いわゆる上場会社であれば、法律で金融商品取引法監査を受けることが義務付けられていると考えて構いません。
地方自治体が行う包括外部監査
企業の監査とは直接関係ありませんが、地方自治体も監査を受けなくてはいけません。
地方自治法の改正により、地方自治体が自らを監査する包括外部監査を、毎年1回以上行わないといけない決まりになりました。包括外部監査は地方自治法252条の27第2項によって規定されており、実際に監査を行う際は公認会計士や弁護士、税理士などと包括外部監査契約を結んだ上で進めていきます(参考:e-GOV法令検索|地方自治法252条の27第2項) 。
地方自治体が行う個別外部監査とは
個別外部監査とは、地方自治体の組織に属さない弁護士や公認会計士など、独立した専門家(=外部監査人)が地方自治体の事務などをチェックするものです。知事または住民から監査の請求もしくは要求があった場合に外部監査人が実施します。
外部監査が義務付けられている会社
以下のいずれかに当てはまれば、会社法監査や金融商品取引法監査などの外部監査を受けなくてはいけません。
- 上場企業
- 非上場企業のうち、資本金5億円以上または負債金額200億円以上の企業
上記に当てはまらないベンチャー企業や中小企業は必須ではありません。ただし、上場(IPO)を目指している場合は、いずれ金融商品取引法に基づくものと同じ監査を受ける必要が出てきます。
また、前述したように都道府県や市のような地方公共団体も受ける必要があることも覚えておきましょう。
外部監査のプロセス
外部監査のプロセスについて詳しく解説します。ここでは、企業が行う外部監査の導入に絞ってプロセスを紹介します。
1. 監査法人との契約
まず、監査法人と契約を結びます。監査法人に初めて外部監査を依頼する企業は、監査法人や伝手のある公認会計士や税理士に相談し、依頼先を選定するのが一般的です。なお、監査法人によっても提示する報酬は異なるため、見積もりを取ってもらい比較検討しましょう。
1-1. 監査法人が行う外部監査とは
外部監査自体は小規模な税理士・公認会計士事務所でも行えますが、資本金額が5億円以上の大規模な組織に対しては監査法人が担当することが一般的です。
小規模な税理士・公認会計士事務所では、グループ会社を合わせた連結貸借対照表や連結損益計算書など、膨大な業務量に対応できないことが背景として挙げられます。
1-2. 会計事務所・税理士法人が行う外部監査とは
一方で、外部監査の義務のない中小企業が監査対象となる場合、小規模な会計事務所や税理士法人が担当することが多いです。以下の経営課題を解決するために、独立した第三者の観点からの監査を受けたいという希望が背景にあります。
- 経理部の人材不足
- 会計関連業務への対応が不十分
- 従業員による不正の疑い
- 経営判断への利用
2. 監査計画の策定
監査法人と正式な監査契約を締結したら、1年間に行う監査の内容や工数について計画を立てます。なお、初めて契約するクライアントの場合、計画の立案に先立ち、予備調査を実施する場合もあります。監査法人の担当者と打ち合わせをし、どのようなスケジュールで進むかを把握しておくと良いでしょう。
3. 期中監査
監査計画を策定したら、実際に監査を進めていきます。四半期ごとに年4回の監査が行われ、年度最後の監査は期末監査、他は期中監査と呼んで区別するのが一般的です。
期末監査、期中監査共に、5~10人以上のチームが組まれ、数日にわたって監査が行われると考えましょう。以下の書類が必要になるため、事前に用意し、要望があればすぐに出せるようにしておくのが望ましいです。
- 試算表
- 仕訳表
- 総勘定元帳
- 固定資産台帳
- 請求書
- 見積書
- 稟議書
- 取締役会議事録
4. 棚卸しの立ち会い
監査対象に在庫も含まれるため、監査担当者が監査を受ける企業の棚卸しに立ち会う必要があります。棚卸についてのマニュアル類も確認されるため、外部監査前に内部監査にて業務に関するマニュアルを作成、運用しておくとスムーズに進められるのでお勧めです。
5. 実査
実査は、現金・手形・小切手・有価証券・切手といった金融資産が、帳簿における記録通りにあるか確認する手続きです。概算額ではなく1円単位でチェックされるため、監査期間でなくても、定期的にずれがないか確認しておくのが望ましいです。株式や投資信託などの外部に預けている金融資産も対象になるため、金融機関から残高証明書を取り寄せておきましょう。
6. 期末監査
年度末を迎えたら、期末監査を行います。現金預金・借入金・受取手形・売掛金・有価証券・社債・税金・引当金など、決算書の勘定科目それぞれを監査担当者総出で対応することになるため、事前に計画を立て、協力しながら進めましょう。
IPOの外部監査で実施すること
IPO(新規株式公開)の際も、外部監査を受けなくてはいけません。ここでは簡単に、どういったことが実施されるのかについて解説します。
ショートレビューを行う
まず、IPOに伴う外部監査では、ショートレビューが行われます。ショートレビューとは、迅速かつ簡易的な財務諸表の評価プロセスのことです。
企業の財務報告における主な問題やリスクを迅速に特定して、監査全体の方向性と焦点を定めることを目的として行われます。以下の3点が主に調査されるのも大きな特徴です。
- 会計処理の適切性
- 内部統制の有効性
- 予算との差異分析
これらの点を調査することで、詳細な監査を進める際の焦点が明らかになるため、効率的に業務を進められます。
財務諸表を監査する
ショートレビューを行った後に、財務諸表の監査が行われます。会計原則の適用状況や財務諸表の公正性、会計エラーの有無を確認するのが主な目的です。この際に会計処理に関するアドバイスや指導が行われることもあるため、課題や疑問点があるなら事前に共有しておくと良いでしょう。
内部統制・管理に関して指導する
IPOの外部監査では、内部統制の強化、リスク管理の改善、コンプライアンス体制の整備なども行われます。
IPOでは、投資家や規制当局からの信頼を担保するために、内部統制関連が特に重要です。内部統制とは、企業が経営・事業における目標を達成するためのルール・仕組みを整備し、正しく運用することを指します。これらの点があいまいだと、粉飾決算やリコール隠しなどの不祥事も起こりやすくなるため、注意が必要です。
内部統制や内部統制を強化する方法については、以下の記事で詳しく解説しています。
コンフォートレターを作成する
IPOに当たっては、監査人がコンフォートレターを作成します。コンフォートレターは、財務諸表の内容が信頼できるということを証明する書類のことです。実際は監査法人もしくは公認会計士が作成するもので、監査を受ける企業は作成しませんが、流れの1つとして把握しておきましょう。
外部監査を行う際の注意点
監査の目的を把握しておく
外部監査を受ける際は、目的を把握しておきましょう。監査の目的によって、監査法人側が重点的に確認する項目が変わるため、重点項目に関する情報の準備が不可欠となります。また、監査中書類の内容を質問されますが、目的のすり合わせができていないと、やり取りがちぐはぐになるかもしれません。すり合わせを十分に行って質問を予測できるようにしておくなど、スムーズに対応できるよう入念に準備しましょう。
ITツールの導入も選択肢
会計ソフトや、ワークフロー管理が可能なソフトなど、ITツールの導入も選択肢に入れましょう。外部監査を受ける場合、事前に用意しておくべき書類が多い上に、必要に応じて別の書類を求められることも珍しくありません。書類が紙で保存されている場合、すぐに見つけることが難しくなります。また、場所を取ることから、相応の保管スペースも必要です。そこで、ITツールを導入して書類をツール上で保管すれば、検索しやすくなる上に保管スペースも省けます。
外部監査の基本を押さえスムーズな監査を!
この記事では、外部監査の基本から目的、プロセスまでを詳しく解説しました。外部監査の目的は、株主や投資家などの利害関係者に対して、企業の会計処理や日々の業務が法律にのっとって進められていることを証明することです。適正な情報を開示する、不正を防止する、リスクを回避するために必要で、上場企業や一部の非上場企業に義務付けられています。
外部監査のプロセスをあらかじめ把握することによって、十分な準備をし、スムーズに監査を進められるでしょう。外部監査には必要な書類が多く存在するため、検索を効率的にし、保管の負担を軽減するためにも、ITツールの導入をおすすめします。
書類の電子化については、以下の記事に詳しくまとめているので参考にしてください。