この記事は約 7 分で読めます。
書類の電子化は、ペーパーレス化を進める上で必須の作業です。特にバックオフィスの業務では書類のやり取りが多く、DXを推進する企業にとって書類の電子化は避けて通れません。
→ダウンロード:成功事例に学ぶ!ペーパーレス化から始める経理DX
この記事では書類の電子化の概要やメリット・デメリット、適切な電子化の進め方などを紹介します。電子化を進める際に役立つシステムも紹介するので、ぜひ最後までご覧下さい。
書類の電子化とは?
書類の電子化と聞いても、具体的に何をするのかイメージできない人もいるでしょう。実は書類の電子化には2種類の形態があります。以下ではそれぞれの書類の形態と、電子化できる文書の例を併せて見てみましょう。
電子文書と電子化文書の違い
電子化された文書には、以下の2種類の形態があります。
- 電子文書:パソコンなどを利用して電子上で作成した書類
- 電子化文書:紙の文書をスキャナーなどで読み込んで電子化した書類
両者は混同されやすいですが、電子化を進める上で「電子文書」を作成するための業務プロセスと「電子化文書」を作成するための業務プロセスは異なります。そのため、書類の電子化を進めるなら、電子文書と電子化文書の違いを把握した上で推進することが重要です。
電子化する書類例
電子保存が認められる書類は多岐にわたります。法的根拠としては主にe-文書法、電子帳簿保存法があり、共に度々改正されています。
現在、電子保存が可能な書類は以下の通りです。
- 見積書
- 発注書
- 契約書
- 請求書
- 領収書
- 会計帳簿
- 決算書
- 稟議書
- 取締役会議事録 など
e-文書法と電子帳簿保存法の主な違いは、電子帳簿保存法が「国税関連の書類」を対象としており、e-文書法はそれよりも広い範囲の書類が認められている点です。
また、電子保存のための要件も異なります。電子化したい書類が国税関連の書類であれば、まずは電子帳簿保存法で保存要件を確認しましょう。
書類の電子保存に関して知っておきたい法律であるe-文書法と電子帳簿保存法については、以下の記事で詳しく解説しています。
書類電子化が義務付けられる条件
書類を電子化して保存するかどうかは、基本的に企業の自由な判断に委ねられています。しかし、電子化してはならない書類もあるため注意が必要です。
また、書類を電子データで受け取った場合には、電子データのまま保存することが義務付けられています。それぞれの詳細を解説します。
電子化が義務付けられている取引
2022年1月の電子帳簿保存法改正により、電子帳簿保存法上の電子取引で「電子データとして授受した書類」は、紙に出力せずに電子データのまま保存することが義務付けられました。
電子取引とは見積書や請求書、領収書、納品書など、取引に関する情報を電子的に授受することです。該当する書類は電子帳簿保存法で定められた要件にしたがって、電子データのまま保存する必要があります。
電子取引により電子データを授受する方法としては、電子メールの添付やインターネット上でのダウンロードをはじめ、さまざまなやり方があります。
電子取引により授受する電子データの具体例は、以下の通りです。
種類 | 保存対象データ例 |
電子メール★★ | 電子メールに添付された見積書や請求書のPDF。 |
インターネット★★ | Amazonなどのwebサイト上で閲覧できる領収書や請求書をPDFあるいは画面印刷(スクリーンショット)としてダウンロードしたもの。 |
クラウドサービス★★ | 請求書発行サービス、請求書受領サービス経由で授受した請求データ。 |
カード明細★★ | 従業員が立て替えたクレジットカードや交通系ICカードの利用明細。 |
EDIシステム★ | EDIシステムを介して授受した請求データ※EDI:Electronic Data Interchange。専用回線や通信回線で授受できるシステム。処理効率は高い反面、導入コストは大きいので大企業向け。 |
ペーパーレスFAX | ペーパーレスFAX(受信時に紙出力されず、電子的に保存できるFAX)で受信した請求書や領収書のPDF。 |
DVD | DVDに記録された請求書や領収書のPDF。 |
電子帳簿保存法における電子取引の詳細な保存要件などは、以下の記事をご覧下さい。
電子化できない書類
法改正により書類の電子化が推進される一方で、電子化できない書類もあります。それは公正証書で作成する必要がある契約書など、書面でしか作成できない書類です。
電子化できない書類の例には、以下が挙げられます。
- 任意後見契約書
- 派遣労働者に対する就業条件明示書
- 事業用借地権設定契約書
書類の電子化を推進しても、紙での運用が必要になる場面は発生することを念頭に置きましょう。
書類電子化のメリット
書類の電子化は業務のペーパーレス化につながり、さまざまなメリットを得られます。主なメリットは以下の通りです。
- コスト削減
- 業務の効率化
- RPAやAI-OCRとの連携
- 重要情報の紛失防止(BCP対策)
それぞれ解説します。
コスト削減
ペーパーレス化が進むと、紙の業務にかかっていた以下のコストの削減が可能です。
- 紙代・印刷代・インク代
- 郵送にかかる費用
- ファイリング代
- 保管スペース
特に注文書や請求書、領収書、納品書などは取引ごとに発生するため量が多く、印刷時の紙代をはじめ、印刷代、インク代がかさみます。また、書類を取引先に郵送すると郵便代がかかります。電子データであればメール送信やクラウド上でのやり取りが可能になり、印刷代や郵便代を節約できるでしょう。
税務関係書類は最低7年間の保管が求められます。紙で保管する場合はファイリングし、保管スペースも確保しなければなりません。電子化すればこういったコストを削減できます。
業務の効率化
書類の電子化により業務効率化が図れます。主な理由は以下の通りです。
- 検索機能を活用できる
- 書類のやりとりがスムーズになる
- システム導入により業務を一部自動化できる
書類を電子化することでパソコン上の検索機能を活用でき、書類をスムーズに探せるようになります。ファイリングされた書類の山から探し出す手間を省けるでしょう。
また、書類を電子化すると文書のやり取りがスムーズになります。例えば取引先へ注文・請求する場合、紙であれば印刷して郵送しなければなりませんが、電子であればすぐにメールで送付できます。書類が電子化されていれば、時間と場所を問わずやり取りが可能です。
また、システム導入により業務の一部自動化が図れ、業務効率化につながるでしょう。詳しくは次の項目で解説します。
RPAやAI-OCRとの連携
書類を電子化すると、従来手作業で行っていた業務をRPA(Robotic Process Automation)との連携によって一部自動化できます。電子上で書類を扱うため、AI-OCR※を活用して書類の内容の読み取りも自動化が可能です。
※AI-OCR:「光学文字認識(OCR:Optical Character Recognition/Reader)以下、OCR」にAI技術を加えたもの。OCRとは画像データのテキスト部分を認識して、文字データに変換する機能
RPAは、ロボットにより業務を自動化させるツールのことであり、繰り返し行う定型的な作業を自動化できます。例えば請求書の作成・発行に当たり、システムに入力された注文データや納品データから必要な情報を自動で抜き出し、請求書の作成の自動化が可能です。
注文書を電子化すればAI-OCRを活用して注文内容を読み取り、一部の情報をRPAに自動で読み込ませることで、納品データや支払データの管理・対応まで自動化できる可能性があります。
重要情報の紛失防止(BCP対策)
書類の電子化は「事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)以下、BCP」の対策にも役立ちます。紙の書類は洪水や火災などの災害が起きた場合、消失してしまうリスクが高くなるでしょう。書類を電子上に保存しておくと、消失のリスクを下げられます。
ただし電子化された書類を扱う場合、サイバー攻撃への対策やバックアップ体制の構築などが必須です。
書類電子化のデメリット
書類の電子化には多くのメリットがある半面、デメリットもあります。電子化を進める際はデメリットも理解した上で取り組む必要があります。主なデメリットは以下の通りです。
- システム導入などのコスト
- 業務内容の変化
それぞれ解説します。
システム導入などのコスト
書類電子化のデメリットの1つは、システム導入のコストが発生することです。
前述のように、書類の電子化には電子文書と電子化文書があります。電子文書を作成する場合、システム上で作成して電子化する必要があり、基本的にシステムを新たに導入しなければなりません。システムを自社で開発する場合も、人的コストや時間的コストがかかります。
電子化文書の作成は、紙でもらった書面を電子化して電子上で保存します。この場合でも電子化のためのスキャナーや、電子化した書類を保存するためのシステムが必要になるでしょう。他にも書類を電子化して他システムと連携するなら、周辺システムの整備にもコストがかかるケースがあります。
業務内容の変化
書類の電子化により従来の業務フローが変わります。例えば請求書を電子化した場合、これまで紙で印刷して取引先へ郵送していたところ、システムで作成して請求書の電子データをメールで取引先へ送付するといった流れに変わるでしょう。
そのため新しい業務フローを作成・浸透させなければならず、現場の社員が慣れるまで負担に感じる恐れがあります。特に現行の業務に慣れている従業員は、変化に対して乗り気でないことが多いといえます。
その場合、組織は電子化ツールの使い方や活用するメリットを、現場の従業員に根気強く伝えることが重要です。そうすることで「管理が楽になる」「書類が必要な時に検索で即座に探し出せる」など業務の効率化を実感しやすくなり、書類の電子化を進めやすくなります。
そのためにも書類の電子化には一定のルールを設け、併せて浸透させることも必須です。特に電子取引における電子データは検索しやすいファイル名で保存しましょう。またファイル名に関しては、電子帳簿保存法上の検索要件を満たすことが求められます。
電子帳簿保存法の要件を満たすファイル名については、以下の記事を参考にして下さい。
書類電子化の注意点とリスク管理
書類を電子化するにあたって注意すべき事項は、以下の通りです。
- 電子保存の際の保存要件を確認する
- スキャンしただけの契約書は法的効力を持たない
- セキュリティ対策が必須
それぞれの詳細を見てみましょう。
電子保存の際の保存要件を確認する
電子文書・電子化文書共に、書類はe-文書法や電子帳簿保存法の要件を満たす方法で保存しなければなりません。
電子帳簿保存法に違反した場合、以下のペナルティを受ける場合があります。
- 青色申告の承認の取り消し
- 追徴課税
- 会社法違反による過料
上記はあくまで可能性であり、実際のペナルティは違反の状況によります。しかしペナルティを受ける懸念がある以上、適切な方法で電子文書を保存しておきましょう。
保存要件や罰則について、詳細は以下の記事でも解説しているので参考にして下さい。
スキャンしただけの契約書は法的効力を持たない
契約書を電子化する場合、スキャンしただけでは必ずしも法的効力を持たず、民事訴訟法における「準文書」として扱われます。
この場合でも原本と同様の証拠能力がありますが、民事裁判においては証拠としての効力を持たない場合があります。
契約書が正当なものであることを証明するには原本が必要となるため、必ず原本を保存しておきましょう。電子署名法に基づき作成した一定の要件を満たす電子契約書であれば、最初から紙面での契約書はないものの、紙面の原本と同様の法的効力があると認められます。
契約書のペーパーレス化を図りたい場合は、電子契約書の仕組みを取り入れる方法があります。ただし前述したように、公正証書で作成する必要がある契約書は電子化できない点に注意が必要です。
セキュリティ対策
書類を電子化すると時間や場所を問わず、多人数が書類にアクセスできる状態になります。そのため、外部からサイバー攻撃を受ける恐れがあるでしょう。電子化した書類は紙の書類よりも大規模な範囲に流出しやすくなります。情報漏えいを防ぐためには十分なセキュリティ対策が必須です。
具体的には、まず以下のような事項を確認しましょう。
- 書類にアクセスできる人がどのくらい存在しているのか
- 書類にアクセスするためのロックは何段階かかっているのか
- 書類へのアクセスを確認するツールはあるか
- 従業員へのセキュリティ意識の教育は十分にされているか
その上で、以下のような対策が必要です。
- 電子データにパスワードを設定
- アクセス権限の設定
- 文書の暗号化、システムのパスワードの設定
- アクセスログの管理
- データを保管しているシステムのセキュリティ対策確認
対策を講じるだけでなく、それら機能の有効性を常に確認することが大切です。
文書電子化サービス・システムの選び方
書類の電子化は自社で行える場合もありますが、人的コスト・時間的コストを考慮すると、他社サービスやシステムを導入する方がコストを抑えられるケースが多いといえます。
書類電子化サービスの導入を検討する場合に考慮したい事項として、以下の3点を見てみましょう。
- スキャンの品質
- セキュリティ
- サービスと価格のバランス
スキャンの品質
書類を読み取る精度は導入するシステムにより異なります。AI-OCRにより自動で読み取るシステムだけでなく、システム供給元企業のオペレーターが人の目で読み取るサービスもあります。自社が求める読み取り精度に合ったシステムを選びましょう。
AI-OCRによる自動読み取りは即座に読み取れて効率的ですが、読み取りにくい書類では精度が落ちる場合があります。人の目によるサービスは、多少読み取りにくい書類や複雑なレイアウトでも読み取れて便利ですが、処理時間やコストがかかり情報漏えいのリスクも懸念されます。
セキュリティ
前述のように、書類の電子化にあたってはセキュリティ対策が重要です。セキュリティ対策の内容はサービス・システムを選ぶ上でよく確認する必要があります。
システム本体のセキュリティ対策に加えて、システム・サービス供給元のセキュリティ対策レベルもチェックしましょう。文書を読み取る際に、供給元企業に自社データが提供されるケースがあるためです。
供給元企業のセキュリティレベルを確認する際には、ISMS認証などの指標が参考になります。
サービスと価格のバランス
サービス・システムの導入にはコストがかかるため、導入によるメリットとコストのバランスも重要です。また、供給元企業によってサポート対応や追加機能の料金設定が異なります。
システム運用に際して別料金が発生する場合があるサービスには、以下が挙げられます。
- システムの初期設定・運用サポート
- トラブル時のサポートサービス
- 業務効率化に向けたコンサルティング
- スキャン代行
自社が目指す電子化の段階や、社内でのIT知識のフォローアップがどの程度必要か検討し、最適な料金体系のシステムを選びましょう。
電子帳簿保存法に対応した人気のシステムは以下の記事で紹介しているので、検討の際はぜひ参考にして下さい。
自社に合った方法で書類の電子化を進めよう
書類の電子化は業務効率化が図れるといったメリットが多くありますが、コストやセキュリティリスクなどのデメリットもあります。両者を踏まえた上で、自社に合った方法を選ぶことが重要です。
ただシステムを導入するだけでなく、書類を電子化することでどのように業務効率を上げられるか、メリットを最大化できるよう入念に検討することをおすすめします。導入に際しては本記事で紹介した注意点やリスク、システム選定時のポイントなどをぜひ参考にして下さい。
書類の電子化に有効なシステム・ツールについては、以下で資料をダウンロードできます。無料で確認できるため、検討の際はぜひ参考にして下さい。