インボイス制度

返還インボイスとは?基礎から学ぶ発行のタイミングと記載事項

更新日:2024.08.23

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2023年10月のインボイス制度開始に伴い、インボイス(適格請求書)の他に「返還インボイス(適格返還請求書)」を発行するケースがあります。返還インボイスは、適格請求書発行事業者が国内で行う課税取引において、値引きや返品があった場合に必要な書類です。

本記事では、返還インボイスの役割や必要な場面、記載要件、保存期間・方法についてわかりやすく解説します。迅速かつ正確にインボイス対応を行い、経理業務の効率化や顧客満足度の向上を実現するためにぜひお役立て下さい。

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適格返還請求書(返還インボイス)とは?

適格返還請求書(返還インボイス)とは、適格請求書発行事業者(課税事業者)が商品の値引きや返品に応じた際に発行する書類のことです。インボイス制度では、課税事業者に対してさまざまな義務付けがなされており、その中には必要に応じて返還インボイスを交付することも含まれています。

適格返還請求書が必要であるにもかかわらず、発行しなかった場合は罰則が科される場合もあるため、正しく理解して対応する必要があります。

適格返還請求書はいつ発行する?

返還インボイスは、課税事業者との取引において、値引きや返品など売り上げ対価の返還を行う際に発行する必要があります。通常は、買い手から支払いを受けるタイミングで返金を行うため、返還インボイスは返金前に発行します。

なお、値引きや返品をする相手が免税事業者または個人の消費者である場合は、インボイスを発行する必要がないため、返還インボイスの交付も不要です。

適格請求書と返還インボイス(適格返還請求書)の違い

2023年10月1日から施行されているインボイス制度では、登録済みの課税事業者のみがインボイスを発行できます。

商品・サービスの買い手は、購入についてのインボイスを受け取ります。ここで、値引きや返品があった場合に、返還インボイスを用いて売り上げの返還を証明することが可能です。つまり、返還インボイスがなければ値引き分や返品分の消費税額が反映されないため、正しい仕入税額控除を申請できなくなるのです。

返還インボイスは、インボイスと同様に電子記録として取り扱うことも可能です。また、同一の取引先である場合、要件を満たせばインボイスと返還インボイスを1枚にまとめて発行できます。前月分の値引きを今月分の請求と併せて行いたい場合に、各請求書に必要な情報を記載することで、1枚の書面内で値引き額を請求額との相殺が可能です。

適格請求書についてより深く知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。

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適格返還請求書が必要となるケース

返還インボイスが必要な場面として、主に以下の4つが挙げられます。

  • 商品の返品
  • 商品の値引き
  • 販売奨励金
  • 事業分量配当金

上記の場面における返還インボイスの作成について、次の段落より詳しく解説します。

商品の返品

商品の返品を受けた場合、返金するために返還インボイスが必要です。買い手が購入した商品などを返品した場合、売り手は商品代金の返還を行うために、買い手に対して返還インボイスを交付します。

商品の値引き

商品代金を値引きした際にも、返還インボイスの作成・交付が必要です。ただ、値引きのタイミングによって、2タイプの対応方法があります。商品の販売後に値引きを行う場合、インボイスを既に交付しているため、返還インボイスを新たに発行します。

一方、商品の販売時、つまりインボイスの発行と同時に値引きする場合は、インボイスの中に返還インボイスの記載項目を併記することで対応が可能です。なお、継続的に値引きを行っているケースでは、値引き前の合計金額など一部の項目を省略することも認められています。

販売奨励金

販売奨励金とは、自社が販売する商品・サービスを販売業者などに販売してもらった場合に支払うものです。例として、A社の販売商品をB社に販売してもらい、1つ売れるごとに100円を販売奨励金として支払うケースを取り上げます。

A社の商品が売れれば売れるほどB社の利益が増え、A社にとってもより多くの商品が売れれば利益向上につながるため、双方にメリットが期待できます。通常の取引としては、B社がA社の商品を仕入れて販売する形態のため、売り手(A社)と買い手(B社)という関係が成立しています。

この場合の販売奨励金は、B社が販売した分に対してA社が支払うものです。よって、B社からA社宛に販売奨励金についての返還インボイスを発行し、B社が受領することになります。

事業分量配当金

事業分量配当金とは、農業協同組合や生活協同組合などの協同組合が、組合員に対して分配する金銭のことです。組合で余剰金などが出た場合に、組合員の事業の従事分量などに応じて配当金が支払われます。

一般的には、企業が事業分量配当金の支払いにおいて返還インボイスを発行することは原則としてありません。ただ、組合から組合に属する事業主に配当金が支払われる際に、返還インボイスを受け取る可能性があります。

適格返還請求書が不要のケース

値引きや返品などの理由で、適格請求書発行事業者が返金する場合には返還インボイスの交付が必要です。ただし、中には返還インボイスが必要ないケースもあります。ここでは、返還インボイスが不要のケースを具体的に説明します。

返還インボイスの交付義務免除について

インボイスの交付義務が免除されている取引では、返還インボイスも同様に免除されます。インボイスの交付義務が免除される代表的な取引は、以下の5つです。

  • 3万円未満の公共交通機関の運賃
  • 3万円未満の自動販売機や自動サービス機による商品の販売
  • 郵便ポストに差し出された郵便物
  • 卸売市場での生鮮食品などの販売*
  • 農業協同組合、漁業協同組合、森林組合などに委託して行う農林水産物の販売*

*一定の要件を満たすものに限る

振込手数料を売り手が負担した際の対応

銀行振込による支払いを受けた場合、振込手数料は売り手側が負担するのが一般的です。ここで、振込手数料は実質値引きに該当するため、本来であれば返還インボイスをもって対応することになります。

ただ、通常振込手数料は少額であり、銀行振込の度に返還インボイスを作成、発行するとなると業務負担が増えてしまいます。そこで、2023年度の税制改正大綱にて「少額な返還インボイスの交付義務の免除」という措置が設けられました。

上記では、インボイスの交付義務がある取引についての返金であっても、税込1万円未満であれば返還インボイスは交付しなくて良いとされています。よって、振込手数料分を減額して支払うようなケースでは、返還インボイス不要で対応できます。

全ての企業に対し、無期限の恒久的な措置として適用されているため、振込手数料を負担している売り手側にとって負担軽減の効果が期待できるでしょう。

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適格返還請求書の正しい記載事項

返還インボイスの要件を満たすためには、記載すべき項目を網羅している必要があります。ここでは、返還インボイスに必要な記載事項について1つずつ説明します。

適格請求書発行事業者の氏名または名称、および登録番号

まず、値引きや返品などがあり、売り上げ代金を返金する課税事業者の名称または氏名を記載します。該当する課税事業者が法人の場合は法人の名称、個人事業主など個人の場合は事業主の氏名が必要です。

また、課税事業者が税務署から交付された登録番号も明記します。事業者が法人の場合は「T + 13桁の法人番号」、個人の場合は「T + 13桁の番号」です。なお、登録番号のない事業者の場合、代金の返金があったとしても返還インボイスは発行できないため注意しましょう。

対価の返還等を行う年月日、および対価の返還等の基となった取引を行った年月日

「対価の返還などを行う年月日」とは、実際に値引きや返品を行う日付を指します。返還インボイスは対価を返還するタイミングで発行するため、書類の発行日を採用して問題ありません。なお、この日付は消費税の計算に適用させる時期を明確にする上で重要な情報です。

一方、「対価の返還などの基となった取引を行った年月日」とは、値引きや返品を行うこととなった販売や譲渡などの取引の日付です。返品する商品を買い手が購入した日などが該当します。

ただし、販売奨励金のように各支払いの日付を記載するのが難しい場合、月単位や「○月~△月分」といった期間で区切ることも認められています。また、返還処理を合理性のもとで継続的に実行しているケースでは、「前月末日」「最終販売年月日」といった表記でも問題ないでしょう。

対価の返還等の取引内容(軽減税率の対象品目である場合はその旨も記載)

対価の返還などの取引内容には、値引きや返品などの基になった販売や譲渡などの取引内容を記載します。例えば、返品の場合は商品の名称と個数、販売奨励金の場合は対象となる商品の名称などです。

注意点として、軽減税率の対象品目が含まれる場合、その旨がわかるように記載する必要があります。該当する項目に「軽減税率対象商品」と添えるだけで問題ありませんが、記入欄からはみ出してしまう時は米印(※)を付け、欄外に「※は軽減税率対象」といった注釈を設けるとわかりやすくなります。

税率ごとに区分して合計した対価の返還等の金額(税抜または税込)

返還などを行う金額の合計額を、税率ごとに区分して記載します。具体的には、標準税率(10%)と軽減税率(8%)に分けて、それぞれの合計金額を計算し、各金額を記載する必要があります。金額は、税抜と税込いずれかわかるように明記しましょう。

対価の返還等の金額に係る消費税額等または適用税率

返還などを行う金額にかかる消費税額について、適用税率と具体的な金額を記載します。いずれか一方だけ、もしくは両方併記しても問題ありません。

適格返還請求書の注意点とリスク

返還インボイスは、インボイスと混同されやすい上、交付のタイミングや交付義務の免除などの要件も細かく決められており、複雑に感じられるかもしれません。ここでは、返還インボイスに関する注意点とリスクについて詳しく解説します。適切な使い方を理解し、事務業務をスムーズに行うために確認しておきましょう。

適格返還請求書は売り手に交付義務がある

そもそもの前提として、返還インボイスの交付義務があるのは売り手側です。そして、課税事業者として登録している事業者の売り手が、同じく課税事業者の買い手に対し、値引きや返品に伴う返金を行う際に必要になります。

つまり、返還インボイスを作成・発行し、消費税の仕入税額控除に利用できるのは、以下両方の条件を満たす場合のみです。

  • 買い手と売り手の両方が課税事業者である
  • 売り手側がインボイス発行事業者として登録している

上記以外のケースでは返還インボイスは発行できないため注意が必要です。

販売奨励金制度を設けている場合

繰り返しになりますが、返還インボイスは、値引きや返品などに対する返金時だけでなく、販売奨励金の支払いでも発行する必要があります。

販売奨励金制度や類似の制度を定めている場合、返還インボイスのフォーマット作成や業務フロー構築などを進めて、不備なく書類を作れる体制を整えましょう

適格返還請求書の保存期間と保存方法

インボイス制度では、インボイス発行事業者にはインボイスや返還インボイスの写しを保存する義務があります。ここでは、返還インボイスの保存期間や保存方法について解説します。

返還インボイスの保存期間

インボイスと同じように、返還インボイスについても、課税事業者は原本または写しを保存する義務があります。保存期間は、法人の場合は7年間ですが、青色申告書を提出した事業年度で、かつ欠損金が生じた場合などは10年間の保存義務があります。

青色申告書とは、所得税の確定申告方法の1つで、事業所得や不動産所得、山林所得がある場合に利用できる申告方法です。条件を満たすと最大65万円の所得税控除が受けられます。また、欠損金とは、課税所得額がマイナスとなる赤字決算の状態を指します。

個人の場合、返還インボイスまたはその写しの保存期間は、原則として5年間です。返還インボイスは、消費税の仕入税額控除を受ける要件に含まれているため、大切に保管しておきましょう。

返還インボイスの保存方法

返還インボイスは、紙媒体での保存が基本です。また、売り手側はインボイスの写しに限らず、記載事項が確認できる状態の一覧表やレジジャーナルなども認められています。電子データの返還インボイスについては、電子帳簿保存法の要件を満たした上で、電子データとして保存できます。

電子帳簿保存法とは、帳簿や決算関係書類などの書類を電子データで保存できると定めた法律です。 従来、税務関係書類は紙媒体で保存するのが原則でしたが、電子帳簿保存法の施行後は、電子データでの保存が認められました。 

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返還インボイスを理解してインボイス制度に柔軟に対応しよう

返還インボイス(適格返還請求書)は、商品の値引きや返品に伴う返金を行うために、売り手側の課税事業者が買い手側に対して交付する文書です。インボイス制度において、返還インボイスは消費税の仕入税額控除に必要な要件に含まれています

そのため、返還インボイスが必要になるケースを確認し、スムーズに対応できるように準備を整えておくことが大切です。また、返還インボイスを保存する際は、保存期間や保存方法も確認しておく必要があります。

今回紹介した返還インボイスに関する要点を参考にして、インボイス制度に柔軟に対応できるよう、日々の業務体制を整えていきましょう。

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