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近年、公文書や承認手続きなどの電子化が進んでいます。稟議書や契約書、経費精算書類などの文書は、申請・承認のフローが必要です。そこで、工数の削減と効率化に向けて、電子化を検討している会社も多いでしょう。
本記事では、電子承認の概要やメリットから、電子承認に必要なシステムと導入時の注意点まで詳しく解説します。紙の文書を電子化して、効率的なワークフローを確立するためにぜひ参考にして下さい。
電子承認とは
電子承認とは、押印や署名といった紙の文書における承認作業を電子化することです。契約書や稟議書、人事総務の届出など社内の申請・承認フローが必要な場面において、プロセスをデジタル化することを意味します。
従来は紙での保存が義務付けられていた法定保存文書について、電子データ保存を容認する法律「e文書法」が2005年に施行されました。それ以降、さまざまな法改正を経て、多くの書類に対して電子承認が認められています。
紙の文書では、印鑑証明などで本人が印鑑を押したことを証明していました。電子承認においても、法的有効性を確保するために「本人性の証明」と「非改ざん性の証明」の2点が担保される必要があります。
本人性の証明
「本人性の証明」は、特定の個人によって電子文書が承認されたことを証明することです。紙の書類に使用する印鑑は、押し加減やインクの色が毎回異なり、完全に同じ印影を再現することが難しいという特徴があります。その特徴を活かし、書類に押印があれば本人性の証明や書類の非改ざん性を証明することが可能です。
電子認証では、本人が承認したことを証明する必要があります。電子承認で本人性を証明する方法はいくつかありますが、代表的な方法は以下の3つです。
- 電子印鑑
- 電子署名
- 承認URL
電子印鑑を使う際、実際の印影を模したものや印影の画像で簡単に押印を再現できてしまうため、本人証明には不十分です。押印者や押印日時などの識別データが付与されたものを使う必要があります。
電子署名(デジタル署名)は、電子認証局が発行した電子証明書により本人性の保証が可能です。電子認証局が発行した電子証明書は、電子印鑑より高いセキュリティを保っています。また、公開鍵基盤(PKI)の暗号化技術を用いて、承認者の身元を確実に特定し、なりすましや偽造による不正を防ぎます。
承認URLは、認証メール内のURLにアクセスして本人性を証明する方法です。承認用のURLは通常長く複雑で、有効期限の設定など第三者が偶然アクセスできないよう工夫されています。ただ、URLにアクセスできるのは本人のみという前提で使われており、なりすましの危険性が100%ないとは言い切れないため注意が必要です。
非改ざん性の証明
非改ざん性の証明とは、承認後に文書が改ざんされていないことを保証するものです。電子承認で扱うデータは、内容のコピーや書き換えが簡単なため、改ざんされる危険性があります。そこで、承認時に文書が原本であること、内容が変更されていないこと、などを証明するために非改ざん性の証明が必要です。
一般的には、書類のタイムスタンプ機能やブロックチェーン技術を用います。
タイムスタンプ機能は、作成日時や変更があった日時を正確に記録できる機能です。ファイルが編集された場合には、作成日時を確認することで改ざんを検知できます。非改ざん性の証明を確実に行うなら、パソコンで確認できるファイルのタイムスタンプではなく、時刻認証局により作成日時を取得し、暗号化された情報を保管する方法を推奨します。
また、ブロックチェーン技術では、文書は改ざんが極めて困難とされる分散型台帳に保存されるため、高い安全性を確保することが可能です。
電子承認システム(ワークフローシステム)とは
多くの企業が、電子承認のプロセスにシステムを取り入れています。電子承認システムを活用することで、申請・承認・決裁という一連のワークフローを電子化できます。
また、電子承認システムには高いセキュリティ性能が備わっており、安全性の向上にも寄与します。一般的な電子承認システムでは、申請者や承認者の操作記録や内容の改ざん防止機能、電子証明書など承認フローに必要な多くの機能を利用できます。他にも、閲覧・更新権限の付与など監査のエビデンスとしても利用可能です。
ワークフローシステムの一部として電子承認機能が提供されているものなど、製品ごとに機能や特性は異なります。文書のデジタル化や業務効率化をスムーズに進めるためには、自社のニーズに合わせて最適なシステムを選ぶことが大切です。
電子承認のメリット
電子承認の導入によって期待できるメリットは、申請・承認フローにおける効率化だけに留まりません。ここでは、電子承認を導入するメリットについて具体的に解説します。
承認までの時間が短縮できる
全ての必要な承認を得るまでに、紙の文書だと早くても数日、長い場合は数週間かかります。また、契約書類を取引先まで持参する、郵送するといった手間が発生し、修正が必要な場合は一から作り直さなければなりません。
一方、電子承認システムでは、基本的にはデータの送受信だけで申請から承認まで完了します。オフィスにいなくても、システム上で押印し、送信すればリアルタイムで相手に届けられます。
そして、受け取った側もすぐに押印し承認、返信できるため、時間を大幅に短縮できます。修正箇所があっても、正しいデータが瞬時に反映されるため、業務効率も向上するでしょう。
コストを削減できる
紙書類の承認プロセスでは、印刷代や用紙代、郵送代などのコストが発生します。1つずつの金額は少額であっても、長期的に見ると大きな金額になるでしょう。また、紙の書類は保管が必要なため、保管スペースの賃料や管理者の人件費などもかかる場合があります。
その点、電子承認では各種書類をデータ化し、サーバーで管理するため、紙での管理にかかっていたコストを削減できます。電子承認システムを導入する際に初期費用が発生する場合もありますが、長期的にはコスト削減によるメリットが見込めるでしょう。加えて、管理担当者の負担軽減にもつながります。
申請・承認フローのプロセスをデジタル化することで、手書きと比べてミスの発生率が低下しやすいでしょう。デジタルデータの一元管理により、情報の検索や共有が容易になることで、結果的に作業効率の向上や人件費の節約にもつながると考えられます。
安全に書類を送付できる
電子承認を用いることで、紙の書類よりも安全に送付できます。紙の書類は、スキャナで取り込むかコピーすれば簡単に模倣できてしまいます。一方、電子承認では作成者や承認者の本人証明に加え、文書が改ざんされていないことの証明もできるため、安全性が確保されます。
また、データはメールでの送受信やクラウド共有を使うため、紙の書類の手渡しや郵送のように、やり取りの途中で紛失や情報漏えいが起こるリスクも回避されています。
内部統制が強化できる
内部統制とは、企業が経営目標を達成するために、全従業員に示すルールや仕組みのことです。内部統制の基準は、金融庁が「財務報告にかかる内部統制の評価及び監査の基準」において4つの定義を挙げており、電子承認は「業務の有効性と効率性」と「財務報告の信頼性」という項目に関係があります。
電子承認システムにより業務効率化が進み、電子署名やタイムスタンプ機能を使うことで、信頼性の向上も期待できるため内部統制の強化につながります。
電子承認システム導入時の注意点
メリットの多い電子承認ですが、システムを導入するにあたってマイナス面についても知っておく必要があります。ここでは、電子承認システムを導入する際の注意点について解説します。
全ての書類や契約が電子承認化できる訳ではない
電子承認システムは、全ての書類や契約に活用できる訳ではない点に注意が必要です。法改正に伴い、企業で扱う多くの書類について電子契約が認められています。ただし、現時点では、公正証書による締結が必要な契約など、書面での契約が義務付けられているものに関しては、電子承認を使うことはできません。
自社で取り扱う契約や書類が、電子承認システムに対応できるかどうか、事前によく確認しておくことが大切です。
取引先の環境や許可を得る必要がある
自社で電子承認システムを導入しても、取引先が紙の書類にしか対応していない場合は、電子承認は利用できないため注意しましょう。押印した紙の請求書や契約書しか認めない取引先も存在する可能性があり、どの企業でも電子承認が受け入れられるとは限りません。
また、企業によっては、電子承認や文書データに慣れていない、もしくは紙の方が安心だという考えが根付いている、などの理由で電子承認化に消極的な場合も考えられます。この機会に取引先に電子化を勧めることも可能ですが、強制はできない上、強く伝えると関係性に影響を及ぼしかねないでしょう。
トラブルを回避するためにも、取引先ごとに紙の書類と電子承認を分けて対応する必要があります。
システム導入のコストを確認する必要がある
電子承認システムを導入する際には、費用について確認しておく必要があります。電子証明書の発行や承認フローで必要なシステムの導入では、初期コストだけでなく運用中のランニングコストも発生します。
システムの規模や使える機能などにより費用は変わるため、予算とのバランスを考慮して決めることが大切です。長期的に削減できるコストを考えつつ、初期投資の回収期間やROI(投資収益率)を計算し、費用対効果を明確にすると判断しやすいでしょう。
電子契約サービスと電子承認の関係性に注意する
電子承認では、「秘密鍵」を用意する必要があります。秘密鍵とは、電子署名でよく使われる暗号技術(公開鍵暗号)において必要な鍵の一種です。電子署名は、秘密鍵で署名を作成し、秘密鍵と対となる公開鍵で検証する仕組みです。
秘密鍵には、「当事者型」と「立会人型」の2種類があります。当事者型は、秘密鍵を当事者同士で用意し、サーバーやICカードなどで各自が保存する仕様で、立会人型はサービス提供側が提供するため秘密鍵を自分で保管します。
立会人型の場合、秘密鍵の用意は不要です。採用したい電子承認サービスや電子契約サービスがいずれの方式なのか、あらかじめ調べておきましょう。
電子承認システム導入の手順
電子承認システムの導入では、全社的に影響する可能性もあるため、計画的に進める必要があります。電子承認システムを導入する手順を紹介します。導入に必要な準備を行うためにお役立て下さい。
電子化したい業務の整理
電子承認システムの導入前に、電子化する業務を整理します。どの業務に電子承認を採用するか、電子化によって業務効率化が図れるのか、などを明確にするために各部署の業務を洗い出して検討しましょう。
法律に関する問題や取引先の業態によっては、紙媒体での管理が必須の場合があります。また、スキャナ保存ができない公的書類など、電子化せずに紙媒体のまま扱う方が効率的なケースもあるため、システム導入前に電子化する業務を明確化しておきましょう。
導入・メンテナンス担当者の選定
電子承認の導入では、社内におけるIT化の進捗状況とのすり合わせが必須です。電子承認システムを導入するだけでは、申請・承認フローを円滑に進められない部分も多いでしょう。そのため、システム導入の担当者を選定しておいて、導入時の各フェーズを効率的に進行させるとスムーズです。
また、導入した後はシステムメンテナンスを定期的に行う必要があります。既存システムとの連携やユーザーアカウントの作成など関係業務を進めながら、適切に運用できる環境を構築することが大切です。
システム選定とテスト運用
電子承認の導入では、自社にとって最適なシステムを選ぶことが重要です。電子化したい業務に合わせて必要な機能と、あると便利な機能などを加味し、優先順位の高いものから使いやすい製品を検討していくとスムーズです。また、導入コストやランニングコストと予算とのバランスや、既存システムとの連携、導入後のサポート体制もチェックポイントです。
電子承認システムの無料トライアルを提供しているベンダーも多いため、導入前のテスト運用として積極的に活用することをおすすめします。操作性やカスタマイズ性など、不明点があれば直接問い合わせて、比較検討しながら最適なシステムを見極めましょう。
電子承認システムを日々の業務効率化に役立てよう
電子承認は、従来は紙の書面で行っていた申請・承認フローを電子化し、効率的に作業を進めることです。電子承認の導入により、承認フローにかかる時間の短縮やコスト削減、安全性や内部統制の強化といったメリットが見込まれます。
申請・承認フローの電子化では、本人性や非改ざん性の証明が重要であり、これらの機能が搭載された電子承認システムを活用するのが一般的です。ただ、自社で扱う書類や契約が電子承認に対応していないケースや、取引先の許可が必要な場合もあるため、注意点を含めてよく検討する必要があります。
今回紹介した内容を参考に、自社に合った電子承認システムを選定し、日々の業務効率化に役立てましょう。