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企業の決算や経営管理において棚卸は最も重要な作業の1つです。
棚卸をしなければ売上原価を確定できませんし、社内で不正があっても気づきません。
また、最適な在庫状況を保つためにも棚卸は必要です。
しかし「棚卸は面倒で最適な方法が分からない」という人も多いのではないでしょうか?
棚卸はなぜ必要で、どのような方法で行うのか解説していきます。
効果的な棚卸を行い、決算のためだけでなく、経営の効率化にも棚卸を役立てるようにしましょう。
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棚卸の3つの目的
棚卸の目的は主に3つです。
- 売上原価を把握するため
- 適正な在庫状況を見極めるため
- 消失や不正を見つけるため
まずは棚卸を行う3つの目的について解説していきます。
目的1.売上原価を把握するため
決算の際には売上総利益(粗利益)を求めるために売上原価を求めなければなりません。売上原価は以下のように計算します。
売上原価=期首棚卸高−当期仕入高−期末棚卸高
期首と期末の棚卸高が分からなければ売上原価を求めることができません。そのため、売上原価を求めるために棚卸は絶対に必要な作業になります。
目的2.適正な在庫状況を見極めるため
ずっと眠っている在庫がどのくらいで、品質は劣っていないかなど、在庫が適正な状況を保っているかをチェックするためにも棚卸は必要な作業です。
在庫の中で品質が劣化しやすいものがあるのであれば、その在庫の仕入量を調整するなど適正な管理ができるようになります。
経営管理のためにも棚卸は必要な作業です。
目的3.消失や横領を把握するため
在庫が紛失してしまった、帳簿の記帳ミスがあったなどの事象も棚卸をしてみなければわかりません。
また、在庫は不正の温床などと言われ、従業員が在庫を横領してしまっていることもあります。
このようなミスや不正を見つけるためにも定期的に棚卸は行わなければならない作業です。
棚卸資産に該当する4つの資産
棚卸とは会社の棚卸資産を数える作業ですが「どのような資産が棚卸資産なのか分からない」という人も多いのではないでしょうか?
棚卸資産とは主に以下の4つの資産を示します。
- 商品、製品
- 仕掛品
- 原材料
- 貯蔵中の消耗品
どんな資産が該当するのか、詳しく見ていきましょう。
商品、製品
商品や製品とは、企業が営業活動において顧客に販売するために保有している資産です。
小売店であれば仕入れた商品ですし、製造業であれば完成品になります。
仕掛品
仕掛品とは、販売することを目的とした製造中の資産になります。
製造業において未完成の資産が仕掛品になります。
原材料
原材料とは、商品や製品を生産するために必要になる資産のことです。
製造業であれば原材料の鉄やアルミの材料など、飲食店でも食材などは原材料に該当します。
貯蔵中の消耗品
消耗品とは、販売活動および一般管理活動において消費される資産です。
梱包材料などがこれに該当しますが、一般活動において消耗される文具などの事務用品などもここに該当します。
「販売費および一般管理費」で費用計上した消耗品は棚卸資産として計上しなければなりません。
棚卸はいつ行う?
棚卸を行うタイミングは主に以下の2つのタイミングです。
- 期首および期末
- 半年や月1回
期首と期末には必ず棚卸を実施しなければなりません。
また、経営管理のためにさらに高い頻度で棚卸を行う場合もあります。
期首と期末が一般的
期首と期末は棚卸が必ず必要になります。
前述したように、売上原価を計算するためには、期首と期末の棚卸高を把握する必要があるためです。
半年や毎月1回も可能
期首と期末以外にも、会社の方針によって半年に1回、四半期に1回、毎月1回など定期的に棚卸を行なっている会社も多数存在します。
棚卸を定期的に行うことは、在庫管理の徹底や不正や在庫ロスを防ぐことに繋がるためです。
例えば、スーパーなどは賞味期限管理のために月1回程度は棚卸を行うことが一般的です。
休日や夜間に行う会社が多い
棚卸は休日や夜間に行なっている会社が多いようです。
棚卸は在庫を全てチェックするので、通常の営業時間中に行うことが難しいためです。
棚卸の2つの方法
棚卸には
- 実地棚卸
- 帳簿棚卸
という2つの方法があります。
実施棚卸が最も確実に棚卸資産を確認することができますが、効率化を図りたい場合には、帳簿棚卸と組み合わせて行うことも効果的です。
それぞれの棚卸方法の違いについて詳しく解説します。
棚卸の方法1.実地棚卸
実地棚卸とは、スタッフが店舗や倉庫の商品や製品の点数を数えて棚卸表に記載していく方法です。
「在庫を人間の目で確認して数える」のが実地棚卸です。
棚卸の方法2.帳簿棚卸
帳簿棚卸とは入出庫管理表や商品管理システムによって、商品を受け入れた人や出庫した人がその都度個数を記入もしくはシステムに入力していく方法です。
帳簿棚卸によって、在庫管理表やシステムを確認することで「現在、在庫がどの程度あるのか」ということを簡単に確認することができます。
実地棚卸は大規模な企業になると手間もコストも膨大になり、毎月行うことは難しくなります。
そこで、普段は帳簿棚卸によって在庫を確認しておき、年に1回もしくは数ヶ月に1回実地棚卸を行うことで、効率的な在庫管理ができるようになります。
業種によって異なる棚卸方法
棚卸方法は業種によっても異なります。
大きく異なるのは以下の3つの業種です。
- 卸、小売業等
- 建設土木業、不動産建売業等
- 製造業、加工業等
それぞれの業種ごとの棚卸方法を具体的に解説していきます。
業種1.卸売業・小売業等
仕入れた商品を販売するだけの卸売業・小売業の棚卸は比較的簡単です。
- 商品名
- 個数
を棚卸で調べて、そこに単価を乗じるだけで棚卸高を計算することができます。
業種2.建設土木業・不動産建売業等
建設土木業・不動産建売業等は工事後と現場ごとの原価を計算します。
仕掛品の計算は、投下材料、外注業者名、人件費などから、その仕掛品建設のためにどのくらいのコストを投じたのかを合理的に計算する必要があります。
工事ごと、現場ごとに計算することを忘れないようにしましょう。
製造業・加工業等
製造業・加工業等の場合には、工程表を作成することが重要です。
- 製品完成までの工程をA工程、B工程、C工程などと分ける
- 各工程へ在庫の投下個数・金額を加える
- 各工程に従事しているスタッフの人件費を加える
- 光熱費などを適正に振り分ける
こうすることで、仕掛品の棚卸高を算出することができます。
棚卸資産の計算方法
棚卸資産によって商品在庫の数を数えたら、その資産の価格を計算しなければなりません。
計算方法には
- 低価法
- 原価法
という2つの計算方法があり、さらに原価法には6つの計算方法に分かれます。
棚卸資産の計算方法を紹介していきます。
低価法
低価法とは、「原価法のいずれか1つの方法で評価した価額」と期末時点の「時価」のうち、いずれか低い方の価額で棚卸資産を評価する方法です。
時価が下がっていた場合には、時価が採用されるので、商品の価格変動をタイムリーに反映されることができる方法です。
なお、上場企業では低価法は強制適用となっています。
原価法
原価法とは購入原価や製造原価を元に棚卸資産を評価する方法で、原価法には以下の6つの評価方法があります。
- 個別法
- 先入先出法
- 総平均法
- 移動平均法
- 売価還元法
- 最終仕入原価法
それぞれの計算方法について解説していきます。
個別法
個別法とは、それぞれの仕入原価に基づいて原価を計算する方法です。
例えばA商品1万円、B商品1.5万円、C商品1.2万円で仕入れた場合
単純にAとBとCの仕入高を足した金額が棚卸資産評価額になります。
この場合であれば3.7万円が棚卸資産評価額となります。
個別の商品の評価を行う貴金属業などに適した評価方法ですが、大量に仕入れと販売を繰り替えす卸業などには向いていない方法です。
先入先出法
先入先出法とは、「先に仕入れた商品から先に販売される」と仮定して、期末に最も近い時期に取得したものは棚卸資産になると見做して、後から仕入れた取得単価をもとに棚卸資産を評価する方法です。
例えば期末(3月31日)に在庫が5つ残っていた場合に以下のような仕入れを行なっていたとすると
- 3月20日仕入れ:4個(単価1万円)
- 2月25日仕入れ:8個(単価1.1万円)
先入先出法では、3月20日に仕入れた4個と、2月25日に仕入れた1個が残っていると仮定されます。
この場合の棚卸資産評価額は、4個×1万円+1個×1.1万円=5.1万円という計算になります。
総平均法
総平均法とは、「期首棚卸資産の取得価額+期中に取得した棚卸資産の取得価額の総額」を総数量で割った単価によって棚卸資産を評価する方法です。
例えば
- 期首棚卸資産の取得価格総額:20万円
- 忌中棚卸資産の取得価格総額:100万円
- 期首棚卸資産個数:15個
- 期中棚卸資産取得個数:90個
というような場合は、(20万円+100万円)÷(15個+90個)=11,429円
となります。
総平均法では11,429円を単価として棚卸資産評価額を求めます。
期末時点で棚卸資産が20個ある場合には、20個×11,429円=228,580円が棚卸資産評価額と計算することができます。
最も簡単に評価することができる方法ですが、期末にならないと単価が確定しないというデメリットがあります。
移動平均法
移動平均法とは、棚卸資産を仕入れる都度、これまでの平均価額と合わせて計算する方法です。
(仕入前の棚卸資産の残高金額+今回の仕入金額)÷(仕入前の棚卸資産の数量+今回の仕入数量)
で計算します。
仕入れる都度、これまでの平均の単価で計算できるので、タイムリーに正確な平均原価を把握できるというメリットがありますが、計算が面倒なのでシステムを導入していない企業は利用することができません。
売価還元法
売価還元法とは、期末棚卸資産の販売価額の総額に、原価率を掛けて評価する方法です。
商品の売価に原価率を乗じるだけですので、非常に簡単に評価額を算出することができます。
商品や製品ごとにグループ分けし、グループごとに取得原価を売価で割ることで原価率を算定します。
例えば、商品単価1万円、原価率60%の商品の在庫が100点あった場合には、
1万円×60%×100個=60万円となります。
取り扱い商品の数が多く、製造を行なっていない小売店などで用いられる方法です。
最終仕入原価法
最終仕入原価法とは、期末に最も近い仕入時の金額を単価として評価する方法です。
例えば、期末に最も近い時期に仕入れた単価が7,000円で、在庫が100点あるのであれば、その商品の棚卸資産評価額は70万円となります。
期末まで計算することができないというデメリットがあるものの、計算が簡単であることから中小企業ではよく用いられる方法です。
返品された場合に在庫はどう計算する?
返品された場合には以下の2つの処理を行います。
- 売上を減らす
- 在庫を増やす
返品された分は在庫が増えるということですので、その分期末在庫を増やすとともに、返品分の売上を取り消すことも忘れないようにしましょう。
棚卸の流れ
棚卸の流れは以下のように準備と作業を行うことで効率的にミスなく進むようになります。
- 実地棚卸の責任者を決める
- 「棚卸の対象範囲」「商品別の担当者」「タイムスケジュール」を記した「実地棚卸計画書」を作成しスタッフに配布
- 2人1組のペアを決めておく
- 商品・製品の整理整頓を行なっておく
- (当日)当日のスケジュール・実際にカウントするペア・棚卸の範囲を確認・伝達
- ペアのうち1人が在庫をカウントし、もう1人が棚卸原票(実地棚卸を行うための記入用紙)へ記入しながら実地棚卸を行う
- 棚卸原票に「在庫の品名」「数量」「保管場所」などの情報を実地棚卸によって記入
- 実地棚卸の情報を集計し実際の数量を把握
- カウントミスや記入漏れがないかをチェックし、棚卸原票から棚卸集計表に集計
- 帳簿上の在庫数と、棚卸集計表にの実地棚卸の在庫数に差異がないかどうかを確認
棚卸はスタッフがスムーズに作業できるよう、事前の準備が重要になります。
事前に範囲やタイムスケジュールを明確にし、スムーズかつ正確に棚卸ができるように準備をしましょう。
「棚卸表」は7年間は保存
棚卸表は7年間の保存が義務付けられています。
棚卸を行なって棚卸資産の残高が確定した後でも、会社でしっかりと保管しておくようにしましょう。
棚卸まとめ
棚卸は手間がかかる作業ですが、売上原価確定のためや、経営管理のために欠かすことができない作業です。
効率よく行うためには事前の準備が非常に重要です。
作業がスピーディーかつ正確に進むために、事前にスケジュールやペアや範囲を明確にし、従業員に徹底しておきましょう。
なお、実地棚卸はコスト面でも従業員の労働力の面でも負担が大きいので、普段は帳簿棚卸によって継続的に在庫を把握しておき、年に数回程度実地棚卸を実施するなど、できる限り効率的な在庫管理を行うとよいでしょう。