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退職金は、会社が独自で積み立てているお金なので普段意識することがないかもしれませんね。会社によっては、退職金を基金に積み立てていたり、確定拠出年金ような形で毎月従業員の口座の中に給付しているところもあります。
今回の記事では、退職金で使う勘定科目や経理処理のための仕訳を紹介します。退職金を経費(損金)として認識するタイミングも紹介するので、参考にしてください。
私は、上場企業の経理部で退職給付会計の担当をしていました。したがって、退職金の扱いや経理処理についてはよく心得ています。順を追ってわかりやすく説明していくので、ぜひイチから読んでみてください。
退職金とは?2つに分類可能
会社の退職金は、従業員や役員が退職した際に、給料とは別に受け取ることのできるお金です。そのような退職金は大きく分けて2つに分類することができます。
それが、一般従業員の退職金と役員の退職金です。それぞれで利用する勘定科目や経理処理が異なるので、まずどちらに該当するのかが大切です。
それぞれの退職金を分けるための根拠あるので次で紹介します。
一般従業員と役員の退職金を分ける根拠を解説
退職金は、何かに基づいて支払われるものでしょうか?
退職金はある規定によって支払うことが定められています。それは就業規則もしくは労働協約です。原則として、一般従業員の退職金の規定はこの2つに制度によって定められています。
一方で、役員の場合は社会の定款で定めていたり、株主総会で決議をする必要があります。大きな会社では、役員のための内規で退職金について規定してあることもあります。
退職金で利用する勘定科目を2パターン解説
退職金を支払う際に利用する勘定科目は、以下の表の通りです。
一般従業員 | 役 員 | 備 考 | |
勘定科目 | 退職金 | 役員退職慰労金 | 勘定科目は会社によって変わる |
分類1. | 販売費および一般管理費 | 販売費および一般管理費 | |
分類2. | 製造原価 | – | 退職者の給料の計上基準に従う |
計上時期 | 退職金を支給した時 | 退職金を支給した時 | |
消費税 | 不課税 | 不課税 |
退職金で利用する勘定科目は、会社によって異なります。例えば、退職金を退職金勘定で処理するところもあれば、退職給付費用勘定で処理する会社もあります。
私の在籍した会社では、退職金の勘定科目は利用しませんでした。代わりに利用していた勘定科目は退職給付引当金です。月次で退職給付引当金繰入を利用し、退職給付引当金に積み立てていました。そして、退職金が発生した際は退職給付引当金から取り崩すことで処理をしていました。なお、役員退職慰労金については、廃止していたので計上をしていませんでした。
言葉で説明してもわかりづらいと思うので、以下では具体的に退職金の設問を設けて、その設問に対応した仕訳を紹介します。
会社が従業員へ退職金を支払う場合の設問と仕訳例
退職金の仕訳については言葉で説明してもわかりにくいところがあります。したがって、以下では、実際に設問を設けて仕訳を紹介していきます。退職金の積み立てから支払いまでの一連の流れを追えるように、月次から支払いまで、順を追っていきます。
会社で退職金を積み立てている場合の設問と仕訳は以下の通りです。
1.従業員の将来の退職に備えて、合理的に見積もった退職金を毎月5万円ずつ積み立てている。
借 方 | 金 額 | 貸 方 | 金 額 | 摘 要 |
退職給付引当金繰入 | 50,000 | 退職給付引当金 | 50,000 | ◯◯氏 退職金 |
2.従業員の退職にあたり、退職金300万円を当座預金から振り込んだ。
(従業員退職仕訳1)
借 方 | 金 額 | 貸 方 | 金 額 | 摘 要 |
退職給付引当金 | 3,000,000 | 当座預金 | 3,000,000 | ◯◯氏 退職金 |
(従業員退職仕訳2)
借 方 | 金 額 | 貸 方 | 金 額 | 摘 要 |
退職給付引当金 | 2,500,000 | 当座預金 | 3,000,000 | ◯◯氏 退職金 |
退職金※ | 500,000 | ◯◯氏 退職金 |
※月次で引き当てていた退職給付引当金が足りなかったので、退職金勘定を使用した。
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役員へ退職金を支払う場合の設問と仕訳例
次に役員へ会社が退職金を支払う場合の仕訳例を解説します
1.役員の退職に備えて、株主総会で決議した退職金見積額を引き当てた。
借 方 | 金 額 | 貸 方 | 金 額 | 摘 要 |
役員退職慰労引当金繰入 | 70,000 | 役員退職慰労引当金 | 70,000 | ◯◯氏 退職金 |
2.役員の退職にあたり、退職金500万円を当座預金から振り込んだ。
(従業員退職仕訳1)
借 方 | 金 額 | 貸 方 | 金 額 | 摘 要 |
役員退職慰労引当金 | 5,000,000 | 当座預金 | 5,000,000 | ◯◯氏 退職金 |
(従業員退職仕訳2)
借 方 | 金 額 | 貸 方 | 金 額 | 摘 要 |
役員退職慰労引当金 | 4,000,000 | 当座預金 | 5,000,000 | ◯◯氏 退職金 |
役員退職慰労金※ | 1,000,000 | ◯◯氏 退職金 |
※総会の決議で引き当てていた役員退職慰労引当金が足りなかったので、役員退職慰労金勘定を使用した。
具体的に退職金が支給される事例
どういう感じで退職したら、退職金が支給されるのでしょうか?
退職金が支給されるのは円満退社のみでしょうか?
以下では、退職給付会計担当者のあなたに役立つ、 「 どのような退職なら退職金が支給されるのか 」 について具体的な退職事例を紹介します。会社によっては、状況に応じて退職金が支払われないこともあったりするので必見です。
- 従業員が自己都合及び会社都合で退職した場合に、就業規則に準じた退職金を支給する
- 役員が退職した場合は、内規に基づくか株主総会によって退職金の決議を行い支給する
- 懲戒解雇の場合には、退職金の減額もしくは支給されないことがある
- リストラ(固定費削減)による退職の場合は、退職金に合わせて退職加算金を支給されることがある
あらためて、退職金は、就業規則や労働協約に準じています。だからこそ、退職金は、規約に沿った行動で支給をしなければなりません。
今回紹介した4つの事例は、大多数の会社で当てはまる事例です。しかし、中には就業規則や労働協約に退職金の規約がない会社もあります。したがって、退職金が支給されるのかどうかは、規約をみて確認しましょう。
退職金を損金(経費)にするタイミング
ここからは退職金の税務についての取り扱いを紹介します。
経理と税務を兼任している部署では、損金は身近なものですが、経理と税務が分かれている会社にとって、税務の言葉は耳慣れず、複雑ですよね。経理と税務をこなしている人ならご存知かもしれませんが、退職金は法人税で優遇されています。すなわち、節税効果があります。例えば、月次で見積もった退職給付引当金繰入を当期の損金として認められていません。しかし、退職金を支払った際には全額が損金として計上することが可能です。
退職金は、退職者によっては何千万円もあるお金なので、どのタイミングで計上されるかは非常に重要です。もし、退職金の支払いが事業年度をまたぐかまたがないかに直面した時には、計上のタイミングの大切さについて実感することになるでしょう。
私も経理だけをしていた時は、退職金の税務について詳しく考えていませんでした。しかし、税務や退職金の支払いも担当するようになってからは、退職金の損金計上タイミングについて、よく考えるようになりました。退職金の税務は単純なので、この機会にしっかり覚えておきましょう。
従業員の退職金(経費)を損金に計上するタイミング
従業員の退職金(経費)を損金に計上するタイミングは、退職金を支払った日もしくは退職日です。難しい言葉で表現すると退職する日の属する事業年度に損金を計上すれば問題ありません。
役員の退職金(経費)を損金に計上するタイミング
役員の退職金(経費)に計上するタイミングは、国税庁では以下のように定義しています。
原則として、株主総会の決議等によって退職金の額が具体的に確定した日の属する事業年度となります。ただし、法人が退職金を実際に支払った事業年度において、損金経理をした場合は、その支払った事業年度において損金の額に算入することも認められます。
参照元:役員の退職金の損金算入時期
2つの内、一度どちらかに決めたら継続しなければなりませんが、法人税の課税上有利な時期を選ぶことができます。
損金として認められない場合も
中小企業にありがちですが、役員の退職金が損金として認められないことがあります。なぜなら、合理的な方法で退職金を見積もっていないからです。例えば、2年で任期が切れた役員に1億円近い役員慰労退職金を与えた事例があります。これはどう見ても合理的に退職金を見積もっていませんよね。
こういった行為は、退職金の損金算入を利用した故意の節税として損金不算入にされます。
役員退職金の損金計上可能額を算出するために、代表的な功績倍率を利用した計算式を以下で紹介します。
- 最終役員報酬月額 × 役員在任期間 × 功績倍率
会計ソフトに退職金の勘定科目が見当たらない
会計ソフトは何を利用されていますか?
恐らく、ほとんどの会社で何かしらのパッケージシステムを利用して伝票を切っていることと思います。
私の在籍していた会社では、自社で作成したシステムを利用していたので、中にはそういう会社に勤めている人もいることでしょう。
さて、会計ソフトによって利用できる勘定科目が異なります。勘定科目を制作できるシステムばかりですが、既存の勘定科目をスタンダードにして利用している会社もあることでしょう。そのような時、費用欄に退職金勘定が見当たらない場合は、退職給付費用勘定を利用するといいでしょう。厳密に勘定を定義すると、意味が異なりますが代替として利用するには適した勘定です。
まとめ
今回の記事では、退職金の勘定科目と仕訳、経費精算方法として退職金の損金について紹介しました。
退職金は学習を進めていくについて難解な部分が増えてきます。だから、今回紹介した基礎的な部分についてはしっかりと理解しておきましょう。
同じく引当金を計上しなければならない、以下の記事もぜひご覧ください。
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近年多くの企業では、経費精算システムを使って勘定科目の設定が簡略化されています。申請から承認までをスマートフォンで完結できる「TOKIUM経費精算」では、勘定科目を従業員が理解しやすい言葉に置き換えて設定できます。
従業員はわかりやすくなった科目名を選んで申請できるため、経理担当者の確認時において勘定科目の訂正が不要になります。また、会計システムにデータを連携する際には、正規の勘定科目名やコード情報を出力できるので、データの加工や修正に手間がかからない点も安心です。
TOKIUM経費精算の月額費用は、基本利用料(1万円〜)+領収書の件数に基づく従量制で決まります。また、利用できるアカウント数は無制限なので、従業員が何名であっても追加料金なしで利用可能です。そのため企業規模に関わらず、最小限のコストで経費精算を効率化できます。
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