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役員報酬の仕訳は、従業員の給与の仕訳とはどのように異なるのでしょうか。
仕訳の方法はほぼ同じなのですが、法人税法上、役員報酬を損金に算入する条件や手続きが限られており、注意しなければならないといえます。
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これらの取扱いは非常に分かりにくいだけでなく、一つ間違えると過大な税金をとられることになりかねません。
この記事では、筆者の会計事務所での勤務経験を踏まえて、役員報酬に関する仕訳の方法と、法人税法上、損金になる条件や手続き、役員の範囲まで、わかりやすく整理して解説します。
役員報酬の仕訳方法は
役員報酬の仕訳方法は、基本的に従業員給与の仕訳方法と同様に、給与対象期間の締め日に発生仕訳を計上し、支払日にその未払を取り崩す、という流れになります。
ただし、法人税法上、損金にできる役員報酬は、その種類が決められており、一定の手続きを踏んで決定されたものとされています。
役員賞与や、条件から外れた役員報酬は、損金に算入できなくなってしまうので、注意が必要です。
また、役員報酬とは、一般的に、取締役や監査役などの役員に対し、経営の職務執行の対価として支払われるものを言います。
ただし、同族会社の場合、役職に付いていない一定の同族株主等に支払った給与も、法人税法では役員報酬扱いになることがあります。
役員報酬の発生仕訳
まず、発生と支払いの仕訳を分けることを前提に、役員報酬の発生仕訳を解説します。
従業員に支払う給与の発生仕訳と同様ですが、従業員と異なり、雇用保険料を役員から預かることはありません。
役員報酬の総額が500,000円、健康保険料従業員負担分29,075円、厚生年金保険料従業員負担分45,750円、源泉所得税18,420円、住民税35,000円の場合、発生の仕訳は次のようになります。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
役員報酬 | 500,000円 | 未払費用 | 371,755円 | 役員報酬支給 |
預り金 | 29,075円 | 健康保険料 | ||
預り金 | 45,750円 | 年金保険料 | ||
預り金 | 18,420円 | 源泉所得税 | ||
預り金 | 35,000円 | 住民税 |
健康保険料、厚生年金保険料の役員負担分、源泉所得税、住民税は、預り金勘定で仕訳をおこない、実際に支給する金額が未払費用勘定となります。
健康保険料、厚生年金保険料の役員負担分は、法定福利費勘定で仕訳をおこなうケースもありますが、その場合、タイミングによっては法定福利費残高がマイナスとなってしまうので、推奨できる方法とはいえません。
役員報酬の支払仕訳
上記で発生仕訳をおこなった役員報酬を支払う際は、次のような仕訳になります。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
未払費用 | 371,755円 | 現金預金 | 371,755円 | 役員報酬支払 |
未払費用を取り崩し、反対仕訳を計上するのみとなります。
役員報酬が未払いのままだと、法人税の経費(損金)として認められない可能性が生じてくるので、決められた支給時期に支払うようにしましょう。
役員報酬が従業員給与と異なるのは、法人税法上、損金算入の条件が厳しく制限されていることです。この点について、以下で詳述していきます。
法人税法上損金になる役員報酬と報酬決定の手続き
法人税法上、損金にできる役員報酬は、次の3種類です。
- 定期同額給与:1カ月以下の一定期間ごとに、同じ金額が支払われる給与
- 事前確定届出給与:各役員に、支払う時期、支払う金額を、事前に税務署に届出てその届出に基づき支払われる給与
- 利益連動給与:同族会社ではない企業が、一定の要件の下、業務執行役員に支払う利益に連動する給与
このうち、一般的な企業で損金計上する役員報酬は、主に、定期同額給与と事前確定届出給与、です。
役員賞与は原則的に損金に算入できませんが、事前確定届出給与として要件を満たせば損金に算入できることになります。
要件を満たす役員報酬であっても、同業他社と比べて不相当に高額と認められた場合、損金に算入できないことがあります。
役員報酬の決定手続きとは
法人税法上、役員報酬を決定する手続きが決められています。
まず、定款または株主総会において、役員報酬の支給限度額を決めます。
この支給限度額の範囲内で、各事業年度に支払う役員報酬の金額を、1年に1回、法人税等の申告をおこなった後の定時株主総会で決めるのが通常の流れとなります。
- 定期同額給与:事業年度開始の日から3カ月以内に株主総会によって承認決定
- 事前確定届出給与:株主総会から1カ月以内に税務署へ届出
ただし、定期同額給与については、職制上の地位の変更・職務内容の重大な変更、経営状況の著しい悪化、のような臨時改定の事由があれば、期中における増額・減額がみとめられています。
事前確定届出給与については、株主総会から1カ月後が、会計期間開始の日から4カ月を超える場合は、4カ月以内とされています。
法人税法上の役員とは
法人税法上、役員とみなされるのは必ずしも、役職について経営に従事している者だけとは限りません。
次のような者も役員とみなされ、支払われた給与は役員報酬とみなされるので、損金に算入するには注意が必要です。
- 従業員以外の者で実質的に経営に従事している者
- 同族会社の従業員で、持株割合が第三順位までの株主グループに属し、その従業員の属する株主グループの持株割合が10%を超え、その従業員の持株割合が5%を超えており、経営に従事している者
ただし、法人税法上、同族会社とは、第1順位から第3順位までの持株割合の合計が50%を超える会社のことをいいます。
この従業員には、従業員の配偶者も含まれるので注意が必要です。
法定福利費の会社負担分の仕訳は?
通常、従業員にかかる社会保険料は、従業員と会社で、折半することになります。
会社負担分の社会保険料は、従業員負担分を給与から天引きした預り金といっしょに、納付時に仕訳をおこなうのが一般的です。
社会保険料の従業員負担分の徴収は、納付より1カ月遅れるのが通常です。
このため、納入告知書に基づいて納付する金額と、従業員からの社会保険料の預り金合計額が合わなくなることがあります。
これは、役員報酬においても変わりはありません。
たとえば、健康保険料会社負担分29,075円、厚生年金保険料会社負担分45,750円を同額の役員負担分といっしょに納付するときの仕訳は次のようになります。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
---|---|---|---|---|
法定福利費 | 29,075円 | 現金預金 | 149,650円 | 健康保険料会社負担分 |
法定福利費 | 45,750円 | 厚生年金保険料会社負担分 | ||
預り金 | 29,075円 | 健康保険料役員負担分 | ||
預り金 | 45,750円 | 厚生年金保険料役員負担分 |
なお、厚生年金保険料には、児童手当拠出金も発生しますが、これは全額が会社負担分になり、法定福利費勘定で仕訳をおこないます。
令和2年4月以降、児童手当拠出金の額は0.36%の料率となっています。
『法定福利費』についてもっと詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。
まとめ
以上、役員報酬の発生、納付に関係する仕訳と法人税法上の注意点がおわかりいただけたかと思います。
健康保険料、年金保険料、源泉所得税、住民税について、役員負担分を預り金勘定で仕訳して、納付時に会社負担分といっしょに取り崩します。
法人税法上、損金に算入できる役員報酬は、定期同額給与、事前確定届出給与など、決められた手続きに基づいて、決められた時期に支給された、決められた金額のみになります。
手続きには期限がありますので、本記事を参考に、計画的に役員報酬を支給し、仕訳をおこなうようにしましょう。
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