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減損処理と呼ばれる会計処理をご存知でしょうか。資産価値を減らす点では減価償却と共通しており、混同してしまうかもしれませんが、概念としては大きく異なります。
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本記事では、減損処理についての基礎理解を深め、実際に減損処理をする場合の留意点についても解説していきます。
減損処理とは
まずは、減損処理について、大枠となる概念を理解していきましょう。
減損処理とは、固定資産に関する会計処理方法の一つで、その名前の通り、資産価値を減少させる処理となります。例えば、購入した固定資産による売上が予測通り回収できない見込みとなった場合に、減損処理を利用し、売上の回収が見込める金額まで資産価値を減少させるのが、減損処理となります。
事業を拡大させたり、より高い売上を確保しようとするときに、投資的に固定資産を購入することがありますが、この資産がきちんと売上につながるかどうかは、確実ではありませんよね。
万が一、購入した資産に対して、思うような売上が立つ見込みが薄くなってしまった場合に、結果として、実際の価値よりも大きい金額が帳簿に残ってしまうことになります。そういった場合に、減損処理をします。これについては、後述する「減損処理をするタイミング」で更に詳しく取り扱います。
減損処理には、一定の制約があり、自由に減損処理をして良いわけではありません。自由に減損処理ができてしまうと、節税対策としての資産購入が可能になってしまい、正確な損益計算書にならない、というのが大きな理由としてあります。
減損処理の対象となる固定資産一覧
まずは、全ての固定資産が対象となるわけではない点に注意が必要です。ここでは、減損処理の対象となる固定資産について解説していきます。
減損処理の対象となる固定資産について、見ていきましょう。
1.有形固定資産
まずは、「有形固定資産」と呼ばれる固定資産です。有形固定資産は、機械装置・工具器具などが含まれます。新事業を立ち上げたりする場合に、新しい機械を仕入れたり、建物を購入したりすることがあります。
この事業がうまくいかなかったりして、購入した資産に対する売上が思うように確保できない見込みとなってしまったような場合に、減損処理をすることがあります。
2.無形固定資産
次に、「無形固定資産」と呼ばれる固定資産です。無形固定資産は、ソフトウェア・のれんなどが含まれます。ソフトウェアについては有形固定資産と同様の事由による減損処理が考えられます。
それに対してのれんは、M&Aをした場合に計上される勘定科目ですが、M&Aの効果が思うように得られなかった場合に、減損処理を行うようなケースがあります。
3.投資その他の資産
最後に、「投資その他の資産」に分類される資産です。投資その他の資産は、投資有価証券などが含まれます。
例えば、株式を購入したが、株価が著しく下落し、回復する見込みもないと判断できるような場合に、減損処理をする場合があります。
減損処理に当たらない資産
例えば、固定資産でなく、仕入れた商品などの価値が著しく下落したような場合を考えてみましょう。この場合、減損処理をするわけではなく、評価損として計上することになります。
他にも、特定の資産(金融資産・繰延税金資産などの一部)については、個別の減損会計に関する指針が定められている場合がありますので、該当しそうな資産があり、減損処理をする場合には注意が必要です。
減損処理のメリット・デメリット
減損処理は、売上が落ちた時に適用することから、悪いイメージが先行しがちです。しかしながら、減損処理のメリット・デメリットは表裏一体で、良い面と悪い面についてそれぞれ理解しておかなければ、効果的な減損処理をすることができません。
ここでは、減損処理のメリット・デメリットについて見ていきましょう。
減損処理のメリット
まずは減損処理のメリットから解説していきます。
減損処理のメリットは、期間収益と期間費用をよりリアルに表すことができる点にあります。売上に貢献する見込みの低い資産を早期に費用化することで、翌年以降の損益計算書をより実際に近い形で作成することが可能になります。
減損処理をした年度は損失が大きく増加しますが、それは売上見込が落ちてしまったからで、本来、翌年度以降に引き継がせるべき費用ではない、と考えられることから、翌年度以降の利益を適切に把握できる、という点において有効な処理と言えます。
減損処理のデメリット
逆に減損処理のデメリットを考えてみましょう。
企業には、繰越利益剰余金といって、創業以来の利益の積み重ねの金額があります。減損損失の計上額が多額になると、繰越利益剰余金に多大な影響を与える可能性があり、結果として、企業評価や企業価値が暴落する可能性があります。
減損処理を行った年度は、大赤字になるケースがほとんどですから、多くの企業や投資家から資金調達をしているような場合は、株主に対して減損処理の理由や経緯をきちんと説明する必要が出てくるでしょう。
減損処理をするタイミングは?
次に、実際に減損処理を検討するタイミングについて解説していきます。主な場面は次の2点です。
- 複数年にわたる営業損失
- 景気後退
それぞれ順番に見ていきましょう。
複数年にわたる営業損失
営業損失は、会社の主な事業で利益を出すことができていない状態で発生します。資産に投資したにもかかわらず、それを利益として回収できていない年度が複数年続いているような場合は、その対象となる資産について、減損損失を計上し、翌年度以降の決算に影響を与えない形にすべきか検討の余地があるでしょう。
景気後退
外的要因によっても減損損失は起こり得ます。例えば、景気後退による売上規模の縮小により、予想していた売上が確保できなくなってしまったような場合がこれにあたります。
減損処理の計算方法は?
では、実際にどのように減損処理を行っていくのかを簡単にご説明します。
減損処理は、大きく分けて「認識・判定」のフェーズと「測定」のフェーズの二段階に分かれます。「認識・判定」は、減損損失をすべきかどうかを判断することで、「測定」は、減損損失すべき金額がいくらなのかを判断することです。
減損処理をするかどうかの判定は、「割引前将来キャッシュフローの総額」と「帳簿価額」を比較することで行います。割引前将来キャッシュフローとは、簡単にいえば、将来的に生み出すと予想されるキャッシュフローを、時間価値を考慮せずに合計した値のことです。これが帳簿価額を下回る場合、減損処理の必要性を認識することとなります。
測定のフェーズでは、帳簿価額を回収可能見込額まで減少させることとなります。回収可能見込額は、正味売却価額と使用価値のいずれか高い方となります。
減損処理による影響
最後に、減損処理によって起こる影響に触れていきます。主に考えられるのは下記2点です。
- 短期的な株価の暴落
- 次年度以降の利益改善
順番に解説していきます。
短期的な株価の暴落
減損処理をすると、単一事業年度で膨大な損失を被りますので、その年度は大赤字となる場合がほとんどです。これにより、非上場株式の場合は、貸借対照表上の純資産の金額が大きく減少することとなり、株価は暴落するケースが大半となります。
次年度以降の利益改善
上記の株価暴落は、ここで説明する「次年度以降の利益改善」と表裏一体です。要するに、減損処理の有無は、費用をまとめて計上してしまうか、数年間にわたって計上するかの違いですから、長期的に見れば、株価は、減損処理の有無には大きな影響を及ぼしません。
減損処理をした場合は、その分が翌年度以降の減価償却費から控除され、結果的に、減損処理をしない場合よりも利益が大きく計上されることとなります。
おわりに
今回は、減損処理について見てきました。認識や測定が必要になるなど、少々高度な考え方で、実際の計算に用いるものも、簡単ではありません。悪いイメージがつきまとう減損処理ですが、良い面・悪い面を正確に把握することが、実際の検討場面で、きっと役に立つ知識となることでしょう。
本記事が、減損処理についての理解を深める入り口になれば幸いです。
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