税金・保険料

簡易課税制度とは?損得の判断ポイントと選択できる条件を徹底解説

更新日:2024.11.04

この記事は約 4 分で読めます。

消費税申告

消費税は毎期申告納付している、という事業者でも、簡易課税制度についてはよく知らない場合が多いのではないでしょうか。
また、逆に簡易課税制度を利用している事業者であっても、計算手続きが楽だからという理由だけで選択してしまっていませんか?
そこで、この記事では、簡易課税制度の仕組みと、どのようなケースで選択したら得するのか、または損するのか、解説します。

→ダウンロード:マンガで分かる!油断が生んだ電子帳簿保存法の不完全対応

簡易課税制度は、選択できる条件が限られており、わかりにくいケースもあるので、その部分もわかりやすく解説します。
筆者は、会計事務所勤務経験が長く、お客様の消費税申告経験は延べ150件以上あります。税理士試験でも消費税科目を勉強しておりました。税務申告の実務と税法構造からみた、注意点について説明していきます。

そもそも簡易課税制度とは?

簡易課税制度とは、中小企業者を対象に、消費税の税額計算の負担を軽くするため設けられた制度です。簡易課税制度を利用すると、消費税の原則通りに計算するより、税額計算ははるかに簡単になります。
ここで、原則の計算方法を確認しておきます。大まかに、次のような計算式で消費税の納付税額を計算します。
売上にかかる消費税額-仕入れにかかる消費税額
この、仕入れにかかる消費税額(仕入控除税額といいます)は、その期に実際に支払った消費税額を計算して合計して求めることになります。会計ソフトに入力しておけば、自動集計できることがほとんどですが、中小企業の場合、入力する手間だけでも負担がかかります。
このような負担を解消するのが、簡易課税制度です。課税制度では、売上にかかる消費税額を集計するだけで、仕入れにかかる消費税額も算定することができ、消費税の納付税額計算が簡単になります。

簡易課税を適用できる条件とは?

簡易課税制度の主な適用条件には、

  • 前々年または前々事業年度の課税売上高が5000万円以下であること。
  • 前年または前事業年度までに、「消費税簡易課税制度選択届出書」を所轄税務署に提出していること。

の2つがあります。
5000万円という基準の売上高には、非課税売上、不課税売上は含まれません。非課税売上は、政策上消費税がかからないとされている売上で、土地や有価証券、商品券などの譲渡や貸付け、預貯金の利子などの売上が該当します。
たとえば、家賃収入の多い不動産賃貸業などで、全体の売上高が5000万を超えていても、課税売上高だけなら5000万以下というケースはよくあるので、注意が必要です。
さらに注意すべきなのは、届出書の提出期限です。簡易課税の選択をしようとする直前の年か事業年度までが期限になっています。原則、今年あるいは当事業年度に提出しても、簡易課税制度の適用は受けられません。

簡易課税の場合、仕入れにかかる消費税はどのように計算するの?

簡易課税制度は、大まかに、仕入れにかかる消費税額を、(売上にかかる消費税額×みなし仕入れ率)という算式で計算します。すなわち、簡易の場合の消費税の納付税額は、
売上にかかる消費税額-(売上にかかる消費税額×みなし仕入れ率)
となります。
この、みなし仕入れ率は、業種によって次のように決まっています。

業種割合
1種(卸売業)90%
2種(小売業)80%
3種(製造業、建設業、農業、林業など)70%
4種(飲食店業)60%
5種(サービス業、運輸通信業、金融保険業など)50%
6種(不動産業)40%

 
たとえば、卸売業だと売上にかかる消費税額の90%が仕入控除税額となるので、実際の納付税額は10%相当となります。不動産業では、40%が仕入控除税額になるので、納付税額は40%相当となります。
業種によってかなり差があることが分かります。その業種の平均的な仕入れ率の実態を反映していると考えられます。

複数事業を営んでいる場合、仕入れにかかる消費税額の計算方法は?

複数事業を行っている場合、原則は、加重平均によって仕入控除税額を求めます。どういうことかというと、次のような算式によってみなし仕入れ率を再計算します。
(1種の売上にかかる消費税額×90%+2種の売上にかかる消費税額×80%+3種の売上にかかる消費税額×70%+4種の売上にかかる消費税額×60%+5種の売上にかかる消費税額×50%+6種の売上にかかる消費税額×40%)÷(すべての売上にかかる消費税額)
こうして計算したみなし仕入れ率を、通常の納付税額計算の算式にあてはめて計算します。
ただし、次の2つのケースでは、簡便な方法によることも特別に認められています。

  • 1種類の課税売上高がすべての課税売上高の75%以上を占めるとき
  • 2種類以上の課税売上高がすべての課税売上高の75%以上を占めるとき

1種類で75%以上になるときは、その1種類の業種のみなし仕入れ率をそのまま使います。
2種類で75%以上になるときは、みなし仕入れ率が高い方の業種はその仕入れ率をそのまま使い、それ以外の業種には、低い方の仕入れ率を使ってみなし仕入れ率を再計算します。
たとえば、1種、2種、3種の事業を営んでいる場合で、2種と3種で75%以上になるとき、みなし仕入れ率は次のように計算します。
{2種の売上にかかる消費税額×80%+(すべての売上にかかる消費税額-2種の売上にかかる消費税額)×70%}÷(すべての売上にかかる消費税額)

簡易インボイス、経費精算における処理ポイント

簡易課税制度による損得の判断はどんなことを重視すべき?

簡易課税制度を選択すべきかどうかの判断は、第一には税負担のメリット・デメリットを考えて損得を見極めることになるでしょう。
簡易課税制度は言わば諸刃の剣で、選択するデメリットが非常に大きいケースがあります。目先の小さいメリットのみだけでなく、大きなデメリットも考慮して損得判断をすることが必要になってきます。
簡易課税制度はいったん選択すると、2年間はやめることができません。選択時あるいは選択をやめる時、事前に届出書を出さなければいけないことを考えると、2年~3年スパンでメリット・デメリットがあるかを、予測することが必要になります。
簡易課税の計算手続きは、原則課税に比べてかなり簡単ですので、経理作業コストのメリットも考慮にいれて、最終的に判断すべきと言えます。

簡易課税の税負担のメリット

簡易課税制度を選択すると、税負担が軽くなる場合があります。
それは、原則課税によって実際の仕入れにかかる消費税額を集計した場合より、仕入控除税額が大きくなるケースです。
(実際の仕入れにかかる消費税額)<(売上にかかる消費税額×みなし仕入れ率)
ただし、簡易課税制度は、今年あるいは当事業年度の結果をみてから、簡易課税制度を選択するというのができないので、過去の仕入れにかかる消費税額の実績から予測して、簡易課税制度を選択した方が有利かどうかを判断することになります。
一般的に、みなし仕入れ率が大きい業種(卸売業や小売業など)ほど、簡易課税制度を選択した方が有利と言えるでしょう。
逆に、みなし仕入れ率が小さい業種(不動産業、サービス業など)では、簡易課税制度を選択すると税負担が大きくなってしまいかねないので、注意が必要です。
特に、2年以内に大きな設備投資を行う予定があるケースでは、簡易課税制度を選択すると圧倒的に不利になってしまうので、決して簡易を選択してはいけません。設備投資をしたときに、簡易を選択していると、設備投資に支払った消費税を控除できなくなってしまうからです。
しかも、一度選択した簡易課税は2年間やめることができないので、簡易だから投資をやめようとすると、最悪2年間もの間投資を先送りにすることになり、事業運営に重大な影響を与えかねません。
会計事務所の顧問業務では、設備投資時に簡易を選択するというミスを犯すと、裁判になる可能性すらあるという重大なポイントになります。

簡易課税の手続き上のメリット

簡易課税制度のメリットには、税負担以外にも、計算手続きが非常に簡単ということがあります。
売上にかかる消費税額だけを集計すれば、納付税額の計算が可能であるということですが、実際には会計ソフトを利用していれば、法人税や所得税の計算のために、支払った経費についても集計している場合がほとんどです。
会計ソフトに支払った経費を入力、集計していれば、それにかかる消費税(仕入れにかかる消費税額)も集計できることになりますから、経理作業のコストは劇的に差があるとまではいかないでしょう。
しかし、課税売上割合が95%未満の事業者の場合、仕入れにかかる消費税額を、課税売上に対応するもの、非課税売上に対応するもの、共通して対応するもの、に区分する必要があります。軽減税率が混合していれば、それも区分する必要が生じます。このような手間の差は見過ごすことのできない負担と言えるでしょう。

こんなときどうすればよいの?簡易課税制度が選択できるか迷うケース

消費税の課税制度には特例があり、簡易課税制度の選択ができるのかどうか、迷うケースがあります。
ここでは、比較的よくあるパターンとして、調整対象固定資産を取得したケースと、基準期間(前々年又は前々事業年度)の課税売上高が1000万円以下だが、特定期間の課税売上高が5000万を超えたケースをご紹介します。
調整対象固定資産とは、棚卸資産以外の資産で、一単位当たり100万円以上の資産のことです。このような資産を取得した場合、取得した課税期間から2年間は簡易課税制度を選択することができません
また、消費税の課税事業者の判断について、基準期間の課税売上高が1000万円超、という基準のほかに、特定期間(前年又は前事業年度半期)の課税売上高が1000万円超という基準があります。
課税事業者の判断基準と簡易課税の判断基準をごっちゃにして、特定期間の課税売上高が5000万円を超えたら、基準期間の課税売上高が5000万円以下でも簡易課税は選択できないのではないか、と迷うケースがあります。
しかし、簡易課税の選択基準はあくまでも基準期間と届出書の提出のみです。特定期間の課税売上高はまったく考慮する必要がありません

マンガで分かる!油断が生んだ電子帳簿保存法の不完全対応

まとめ

いかがでしょうか。
消費税の簡易課税制度は中小企業者にとって計算コストを軽減できる制度ですが、その損得は、税負担のメリット・デメリットに重点を置いて判断すべきです。
みなし仕入れ率が高い業種の事業者であれば、税負担軽減のメリットがあります。
しかし、みなし仕入れ率が低い業種の事業者であれば、税負担は増えます。
特に、2年に以内に設備投資の予定がある場合、税負担で大きなデメリットがあるという点には最も注意すべきといえます。

インボイス制度が課税事業者に与える影響とは?

2023年10月に施行されたインボイス制度ですが、しっかりと対応できていますか?当編集部では、課税事業者の経理部向けに、インボイス制度が与える事業や経理業務への影響をわかりやすく解説したお役立ち資料を無料配布しています。準備不足で慌てることのないように、ぜひご活用ください!

トキウム資料
この資料で分かること
  • リストアイコンインボイス制度における変更点
  • リストアイコンインボイス制度が事業や経理業務に与える影響
  • リストアイコンインボイス制度対応に向けたシステムの選び方
資料をメールで受け取るボタンアイコン
DOCUMENT
もっと役立つ情報を
知りたい方はこちら
【4システム比較】経費精算システム選び方ガイド
経費精算システム選び方ガイド
【4システム比較】
電子帳簿保存法ガイドブック
電子帳簿保存法ガイドブック【2023年版】

関連記事